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新潟地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(以下この判決においては、別紙主要略語表記載の略語を用いる。但し、正式の用語を用いる場合もある。)

第一編 当事者の求めた裁判

第一  請求の趣旨

一  内閣総理大臣が昭和五二年九月一日、東京電力株式会社に対してなした柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉設置許可処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二編 当事者の主張〈省略〉

第三編 証拠〈省略〉

理由

第一章本件処分の存在等

東京電力が昭和五〇年三月二〇日、内閣総理大臣に対し、本件許可申請をし、同大臣が、同五二年九月一日、本件処分をなしたこと、原告らが本件原子力発電所の設置場所である新潟県柏崎市及び刈羽郡刈羽村並びにその周辺市町村に居住する者であること、原告らが昭和五二年一〇月、行政不服審査法四八条、二五条一項に基づく異議申立書を内閣総理大臣に提出したこと、その後、昭和五三年法律第八六号による規制法の一部改正により、実用原子炉の設置許可権限が被告に承継されたが、内閣総理大臣及び被告が右異議申立てに対する裁決をしていないことは当事者間に争いがない。

第二章本件訴訟における司法審査のあり方

第一本件訴訟の審理、判断の対象となる事項

一取消しの理由の制限(行訴法一〇条)

1 取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない(行訴法一〇条一項)。したがって、原告らが本件訴訟で主張し得る本件処分の違法は、原告らの法律上の利益に関係のあるものに限られる。

2 規制法二四条一項各号所定の許可要件のうち、三号(技術的能力に係る部分に限る。)は、当該申請者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適格に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、また、四号は、当該申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。

原子炉設置許可の基準として、右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号が設けられた趣旨は、原子炉が、原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、主務大臣(本件処分当時、内閣総理大臣)は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。そして、同法二四条一項三号所定の技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであり、右各号は、このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等に鑑みると、右各号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。そして、前記のとおり、原告らは、本件原子力発電所の設置場所である新潟県柏崎市及び刈羽郡刈羽村並びにその周辺市町村に居住する者(弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件原子力発電所の敷地境界から約0.5ないし約九六キロメートルの範囲内の地域に居住していることが認められる。)であり、明らかに、原子炉事故の発生によって、その生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けることが想定されると考えられるから、原告らは、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号に係る違法を主張することができるというべきである。

3 これに対し、規制法二四条一項各号のうち、一号は、「原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」との要件を、及び二号は、「その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」との要件をそれぞれ定めているが、右各要件が定められた趣旨は、専ら、原子力の研究、開発及び利用を平和の目的に限り、かつ、原子力の開発及び利用を長期的視野に立って計画的に遂行するとの我が国の原子力に関係する基本政策に適合せしめ、もって、広く国民全体の公益の増進に資することにあるのであり、また、同項三号のうち、経理的基礎があることを要件とした趣旨は、原子炉の設置には多額の資金を要することに鑑み、申請者の総合的経理能力及び原子炉設置のための資金計画を審査することにしたのであって、規制法二四条一項一号、二号、三号のうち経理的基礎に係るものは、個人的利益の保護を目的として内閣総理大臣の許可権限の行使に制約を課したものではなく、原告らの法律上の利益に関係しないのであるから、右各要件に係る違法事由は、本件取消訴訟の審理の対象となる余地はない。

4 ところで、被告は、規制法には原子炉施設の周辺住民に対して原子炉設置許可手続への参加を保障する趣旨の規定がないことから、右住民は安全審査手続自体に関する利益を個別的に保護されているとはいえず、右手続自体の違法は、原告らの法律上の利益に関係がない旨主張するが、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の要件は極めて、抽象的、一般的である上、後記のとおり、原子炉施設の安全性に関する審査の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解されるところ、同法二三条、二四条二項は、右内閣総理大臣の判断が適正になされることを担保するために厳格な手続を定めていると考えられるから、安全審査手続が適法であってはじめて右の判断の適正が保障されることになるというべきである。したがって、手続上の違法が実体上の違法をもたらさないことが明白でない限り、原告らは、手続上の違法を主張することができると解するのが相当である。

5 したがって、原告らが本件訴訟において主張することのできる本件処分の違法は、本件安全審査の手続上の瑕疵(実体上の違法をもたらさないことが明白であるものを除く。)並びに規制法二四条一項三号所定の技術的能力に係る許可要件適合性及び四号所定の安全性に係る許可要件適合性の審査、判断に係る瑕疵に限られるというべきである。

二原子炉設置許可の段階における安全審査の対象

規制法は、その規制対象を、精錬事業(第二章)、加工事業(第三章)、原子炉の設置、運転等(第四章)、再処理事業(第五章)、核燃料物質等の使用等(第六章)、国際規制物質の使用(第六章の二)に分け、それぞれにつき内閣総理大臣の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第四章所定の原子炉の設置、運転等に対する規制は、専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないことは明らかである。

また、規制法第四章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容をみると、原子炉の設置の許可、変更の許可(二三条ないし二六条の二)のほかに、設計及び工事方法の認可(二七条)、使用前検査(二八条)、保安規定の認可(三七条)、定期検査(二九条)、原子炉の解体の届出(三八条)等の各規制が段階的に行われることとされている(なお、本件原子炉のような発電用原子炉施設について、規制法七三条は二七条ないし二九条の適用を除外するものとしているが、これは、電気事業法(昭和五八年法律第八三号による改正前のもの)四一条、四三条及び四七条により、その工事計画の認可、使用前検査及び定期検査を受けなければならないとされているからである。)。したがって、原子炉の設置の許可の段階においては、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事方法の認可(二七条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。

右にみた規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性に係るすべてをその審査対象とするものではなく、その基本設計の安全性に係る事項のみをその対象とするものと解するのが相当である。

三原告らの主張する違法事由の検討

1 軍事転用に係る危険性に関する主張について

原告らは、本件処分は、本件原子炉から生じる使用済核燃料の再処理によって取り出されるプルトニウムについての軍事転用の危険性を防止する十分な保障がされていないので、規制法二四条一項一号要件に違反する旨主張する(第五節第一)が、同法同条項号に係る要件は原告らの法律上の利益に関係がないものであり、原告ら主張の右要件に係る右違法事由は本件訴訟の審理、判断の対象とはならない事項であるので、原告らの右主張は失当である。

2 経理的基礎に係る許可要件違背に関する主張について

原告らは、東京電力には、原発災害時の生命、健康、財産の損失を補填する経理的基礎がないにもかかわらず、本件処分においてこれが認められたことは、規制法二四条一項三号要件に違反する旨主張する(第五節第二)が、同法同条項号のうち、経理的基礎に係る要件は原告らの法律上の利益に何ら関係のないものであり、原告ら主張の右要件に係る右違法事由は本件訴訟の審理、判断の対象とはならない事項であるので、原告らの右主張は失当である。

3 温排水の熱的影響に関する主張について

原告らは、本件処分において、温排水について審査されなかったのは違法である旨主張する(第五節第三)が、温排水自体は、火力発電所の発電設備など蒸気等を冷却するために水を使用する設備からは常に排出されるものであって、その熱的影響等の問題は、原子炉施設固有の問題ではなく、そもそも原子力の利用に係る固有の事項を規制の対象としている規制法においてはその対象とされないものであり、したがって、本件訴訟における審理、判断の対象とはならないから、原告らの右主張は失当である。

4 固体廃棄物の最終処分に関する主張について

原告らは、本件処分において、本件原子炉の運転に伴って発生する固体廃棄物の最終処分について審査されなかったのは、規制法二四条一項二号及び四号要件に違反する旨主張する(第六節第二款第一の三)が、同法同条項二号の要件は、何ら原告らの法律上の利益に関係がないものであり、また、固体廃棄物に係る安全性に関する事項については、原子炉設置許可に際しての安全審査において、固体廃棄物の当該原子炉施設の敷地内における廃棄設備の構造等が災害防止上支障がないものかどうか等、原子炉施設における基本設計の安全性に関係のある事項が、規制法二四条一項四号の許可要件に適合するかどうかの観点から右審査の対象となるにとどまるものであって、固体廃棄物の最終処分に係る安全性の問題は右審査の対象に含まれるものではないから、原告らの右主張は失当である。

5 使用済燃料の再処理、輸送及び最終処分に関する主張について

原告らは、本件処分において、使用済燃料の再処理、輸送及び最終処分について審査されなかったのは、規制法二四条一項二号及び四号要件に違反する旨主張する(第六節第二款第一の四、五)が、同法同条項二号の要件は、何ら原告らの法律上の利益に関係がないものであり、また、使用済燃料に係る安全性に関する事項については、原子炉設置許可に際しての安全審査において、使用済燃料の当該原子炉施設の敷地内における貯蔵設備の構造等が災害防止上支障がないものかどうか等、原子炉施設における基本設計の安全性に関係のある事項が、規制法二四条一項四号の許可要件に適合するかどうかの観点から右審査の対象となるにとどまり、使用済燃料の再処理、輸送及び最終処分に係る安全性の問題は右審査の対象に含まれるものではないから、原告らの右主張は失当である。

6 廃炉に関する主張について

原告らは、本件処分において、廃炉について審査されなかったのは、規制法二四条一項二号及び四号要件に違反する旨主張する(第六節第二款第一の六)が、同法同条項二号の要件は、何ら原告らの法律上の利益に関係がないものであり、また、廃炉に係る安全性に関する事項は、原子炉設置許可に際しての安全審査の対象となる事項とされておらず、別途、規制法三八条、六五条、六六条等によって規制されることとされているから、原告らの右主張は失当である。

7 労働者被曝に関する主張について

原告らは、本件処分に際し、原発従事者の被曝について審査しなかったのは違法である旨主張する(第六節第二款第一の七)が、労働者被曝に関する問題は、本件原子炉施設の周辺住民であると主張するにとどまる原告ら自らの法律上の利益に関係のない事項であるから、原告らの右主張は失当である。

8 防災計画に関する主張について

原告らは、本件処分に際し、防災計画について捜査しなかったのは違法である旨主張する(第六節第二款第五)が、防災対策に関係する事項は、原子炉施設の基本設計に係る事項ではないから、原告らの右主張は失当である。

第二本件取消訴訟における司法審査のあり方

前記(第一の一2)のとおり、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑みると、原子炉設置許可の基準として、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号が設けられた趣旨は、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。

右の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の右技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、右審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、規制法二四条二項が、内閣総理大臣は、原子炉設置の許可をする場合においては、同条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号所定の基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見を聴き、これを尊重しなければならないと定めているのは、右のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質性を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当である。

以上の点を考慮すると、右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは安全審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてなされた内閣総理大臣の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは安全審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、内閣総理大臣の判断がこれに依拠してなされたと認められる場合には、内閣総理大臣の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法であると解すべきである。

原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては、右処分が前記のような性質を有することに鑑みると、被告行政庁がなした判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告らが負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が、右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである(伊方原発最高裁判決)。

第三章本件処分の手続的適法性

第一本件処分の手続

本件処分が被告の主張第四節第一の一ないし九の経過を経て行われたものであることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件処分は、規制法等の所定の手続に則り行われたものであると認められる。

第二原告らの主張に対する判断

一本件安全審査手続における構造的瑕疵の主張について

1 安全審査の手続規定の不備、不明確の瑕疵の主張について

原告らは、規制法等の原子炉施設の設置許可手続に関する手続規定は、原子炉施設の安全審査手続に関して住民の参加手続と資料や議事録の公開手続を設けていないし、設置許可の公正を担保するにふさわしい厳格かつ適正な法律上の手続規定とは到底いえないから、憲法三一条に違反するものであり、更に、原告らに本件安全審査の議事録、資料を公開せず、適正手続の保障としての公聴会を開催しないまま行った本件処分も同条に違反する旨主張する(第四節第二の一、三)。

しかしながら、行政手続は、憲法三一条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるなどの一定の手続を設けることを必要とするものではないと解するのが相当である。そして、原子炉設置許可の申請が規制法二四条一項各号所定の基準に適合するかどうかの審査は、原子力の開発及び利用の計画との適合性や原子炉施設の安全性に関する極めて高度な専門技術的判断を伴うものであり、同条二項は、右許可をする場合に、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないと定めていることに鑑みれば、基本法及び規制法が、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させる手続及び設置の申請書等の公開に関する定めを置いていないからといって、その一事をもって、右各法が憲法三一条の法意に反するものとはいえず、また、本件処分に際し、周辺住民である原告らの安全審査の議事録及び資料が公開されず、適正手続の保障としての公聴会、告知・聴聞の手続が開催されなかったことが、同条の法意に反するものともいえない(伊方原発最高裁判決参照)。そして、規制法及び設置法は、原子力発電所の設置規制手続について具体的に規定しており、これらによって、判断の公正さが十分担保されるといえるから、安全審査の手続規定が不備、不明確とはいえない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

2 安全審査に係る技術的基準等が不明確であるとの主張について

原告らは、規制法二四条一項四号は、原子炉を設置する場合の安全性に関する許可基準を定めているものの、その規定の仕方は極めて抽象的で、安全性に係る具体的な事項の審査基準をこれに求めることは困難であるから、右規定は、不合理、不明確であって憲法三一条に違反する旨主張する(第四節第二の二)。

しかしながら、規制法二四条一項四号は、原子炉設置許可の基準として、原子炉施設の位置、構造及び設置が核燃料物質(使用済核燃料を含む)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと規定しているが、それは、原子炉施設の安全性に関係する審査が、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づいてされる必要がある上、科学技術は不断に進歩、発展しているため、原子炉施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず、最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの見解に基づくものと考えられ、右見解は十分首肯し得るところである。しかも、設置許可に当たっては、申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関する審査の適正を確保するため、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を聴き、これを尊重するという、慎重な手続が定められていることを考慮すると、右規定が不合理、不明確であるとの非難は当たらないというべきである(伊方原発最高裁判決参照)。

したがって、原告らの右主張は失当である。

3 安全審査と法律上の根拠について

原告らは、本件処分は、法律又はその委任に基づいて定められたものではない原子炉施設の安全性に関する基準を用いた安全審査に依拠してされたものといわざるを得ないから、権力分立の原則を定めた憲法四一条、七三条、八一条に違反する旨主張する(第四節第二の二)。

しかしながら、本件原子炉施設の安全審査は、その合理性を十分首肯し得る規制法二四条一項四号の規定に基づいてされたものであるから、それが法律の規定に基づかないものであることを前提とする所論は、その前提を欠くものであり、原告らの右主張は失当である(伊方原発最高裁判決参照)。

4 原子力三原則違反の主張について

原告らは、本件安全審査が基本法二条に定める「民主」、「自主」、「公開」の原子力三原則に違反する旨縷々主張する(第四節第二の三)。

しかしながら、基本法は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とし(同法一条)、原子力の研究、開発及び利用は平和の目的に限り、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする(同法二条)ことをその基本方針とするが、同法は、原子力の研究、開発及び利用全般にわたり、包括的な法規範として機能しているものの、それぞれの法的規制等の具体的な内容は、ほとんどすべてを他の法律に委ねており、基本法が、他の法律を通さずに、原子力の研究、開発及び利用に関して直接国民の権利義務に影響を及ぼしたり、国民と国家との間の具体的な法律関係を形成することはないと解される上、そもそも、原子力三原則は、原子力の平和利用を担保しようとするものであり、原子力の平和利用方法である発電用原子炉の設置許可手続を直接規制するものと解することができないことに鑑みると、原告らの右主張は失当である。

5 審査体制が不備であるとの主張について

原告らは、我が国の原子力委員会やその下部機関である本件安全審査会、それらの事務局である科学技術庁原子力局規制課には、実質的な安全審査を実施できる人員も、施設・設備も、予算もないのが実態であり、また、審査委員は、いずれも大学教授等他に本職を持つ非常勤の委員で構成されており、安全審査に専念できる体制になっていないことなどに鑑みると、本件安全審査における審査体制では、本件原子炉施設の安全性を実質的に審査することが極めて困難であった旨主張する(第四節第二の三3)。

しかしながら、前記(第一)認定のとおり、本件安全審査は、原子炉工学、核燃料工学、熱工学、放射線物理学、地震学、気象学等のそれぞれの分野における専門家である審査委員三〇名及び調査委員二八名により構成された本件安全審査会によって、昭和五〇年五月二三日から同五二年八月一二日まで合計二六回にわたり開催されていること、安全審査会は、第一二〇部会を設置し、更にこれをAないしCの三つのグループに分け、同五〇年六月一〇日から同五二年八月二日までの間に、全体会合が七回、Aグループ会合が三九回、Bグループ会合が一一回、Cグループ会合が二〇回、A・Bグループ会合が二回、それぞれ開催されているのであり、かような本件安全審査の審査経過に鑑みると、我が国の原子力委員会やその下部機関である本件安全審査会、それらの事務局である科学技術庁原子力局規制課に実質的安全審査を実施できる人員も、施設・設備も、予算もないとは、にわかにいい難く、これを認めるに足りる証拠もない。また、審査委員が非常勤とされているのは、できるだけ広い分野にわたり高度な専門技術的知見を有する優秀な人材を審査委員に採用することを可能とするためとも考えられ、審査委員が非常勤であることが直ちに、審査の不十分さを招くともいえず、これを認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

6 不公正な審査体制との主張について

原告らは、原子力委員会は、本件安全審査の当時、原子力開発を推進する側とこれを規制する側との両方の役割を同時に兼ねていたため、安全審査体制自体に甚だしい不公正が生じており、このような不公正な審査体制のもとになされた本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第二の三4)。

確かに、本件安全審査及び本件処分当時の原子力委員会は、核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること(設置法二条四号)のほかに、原子力利用に関する政策に関すること(同条一号)等、原子力の利用と開発を推進することに関しても所掌することとされていたものであり、本件処分後の昭和五三年に設置法が改正され、従前の原子力委員会の所掌事務のうち安全の確保及び障害の防止に関するものは原子力委員会とは独立した原子力安全委員会が所掌することとされたことは、原告らの指摘するとおりである。しかしながら、原子力の研究、開発及び利用に関する行政の民主的な運営を図るために、原子力の利用、開発の推進とその安全の確保とを総合的見地から併せ所掌する一つの委員会を設置するのと、これらを各別に所掌する二つの委員会を設置するのと、いずれが優れた制度であるかは、にわかに断じ難い立法政策に属する事柄であり、また、問題は、原子力の安全を確保し得る公正な審査体制が採られていたか否かということであるが、安全審査会の審査委員の資格は法定され(設置法一四条の三)、原子力委員会の委員の任免及びその服務についても厳格な規制がなされている(同法八ないし一〇条、一三条、一四条)など原子炉設置許可に関する安全審査体制は慎重かつ厳正な審査を確保し得るよう整備されており、かつ、本件処分も右の体制に沿って行われたのであるから、原告ら主張のような体制が採られていたからといって、その一事をもって、本件処分が不公正に行われた違法なものであるとはいえない。

更に、原告らは、原子力委員会の委員及び安全審査会の審査委員は、政府が原子力発電所の建設に積極的に賛成する学者等を恣意的に選出しており、学術会議や学会からの推薦という形式を採っておらず、原発建設に慎重な、あるいは批判的な姿勢を持つ学者は一人も審査委員に任命されていないなど原子力委員会の委員及び安全審査会の審査委員の人選は不公正であって、殊に原子力委員会はほぼ完全に政府の支配下にあるというべきであり、本件安全審査を適切かつ公平に行う審査体制があったとはいえない旨主張する(第四節第二の三4)。

しかしながら、原子力委員会の委員は、両議員の同意を得て、内閣総理大臣が任命するとされ(設置法八条一項)、安全審査会の審査委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命するとされている(同法一四条の三第二項)上に(原告らは、選任された原子力委員会の委員の学識経験、専門技術的知見が不明であるとも主張するが、設置法は、原子力委員会の委員の資格について特に定めておらず、したがって、同法は、原子炉に係る安全性に関する事項についての専門技術的観点からする調査審議は、原子力委員会が直接に行うのではなく、安全審査会の専門技術的調査審議に基づく報告を踏まえて行うことを予定していると解される。)、後に判断する本件安全審査の具体的な審査内容に徴しても、個々の委員、審査委員が原子力発電所の建設を積極的に推進することだけを考え、その学問的あるいは専門的知識に基づいた真摯な安全審査が行われなかったとにわかに断定することはできず、これを認めるに足りる証拠はない。そして、右の事情に加えて、原子力委員会の委員には身分保障(設置法一〇条二項)があり、内閣総理大臣は原子力委員会の決定を尊重しなければならない(同法三条、規制法二四条二項)とされていることを総合すると、原子力委員会が政府の支配下にあったと断ずることもできない。

したがって、原告らの右各主張はいずれも失当である。

7 部会等による審査について

原告らは、必要的機関でも常設的機関でもない第一二〇部会が設置され、本件原子炉に係る実質的な安全審査が、同部会や、さらに同部会内の三グループにおいて実施されたことについて、行政の責任転嫁であり、極めて危険な安全審査手続である旨主張する(第四節第二の三5)。

しかしながら、専門部会運営規程七条によれば、安全審査会に、その所掌事務を分掌させるために部会を置くことができるとされているところ、これは、調査審議を適切かつ効率的に行うための方策と考えられ、証人村主進(以下「村主」という。)の証言によれば、本件安全審査においては、調査審議を適切かつ効率的に行うために第一二〇部会が設置され、更に、部会の中に審査委員及び調査委員の各専門分野毎に三つのグループが作られて審査が進められたことが認められる。そして、この点に、前記(第一)の本件処分の手続に係る事実経過を総合すれば、同部会は、安全審査会における本件安全審査を適切かつ効率的に行うために設置されたものであり、しかも、同部会のみが実質的な審査をなし、本件安全審査会の安全審査が形骸化していたとまで断言することはできないから、原告らの右主張は失当である。

8 合同審査等について

原告らは、第一二〇部会が原発推進の急先鋒である通産省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行っていることを指摘し、安全審査の技術基準のあいまいさも加わって、馴れ合い的な安全審査が行われてきた可能性を否定できず、また、科学技術庁原子力局の局長ら職員が毎回多数、安全審査会や部会に出席し、事実上審査をリードしたのであるから、このように他の機関の実質上の関与によってなされた報告書等は、信用性を欠如しており、本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第二の三6)。

確かに、〈書証番号略〉によれば、昭和五〇年五月二三日に開催された第一三七回安全審査会において、第一二〇部会が設置されると共に、審議は、通産省原子力発電技術顧問会と合同で行う旨決定されたことが認められるが、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、原子力発電技術顧問会は、昭和四〇年一一月の通産省省議決定により、規制法七一条に基づく内閣総理大臣への同意、通産大臣の電気事業法上の原子力発電に係る許認可等に際し、当該原子炉を含む電気工作物全体の安全性に関する技術的事項について諮問するため、通産大臣の諮問機関として設置されたものであること、したがって、同顧問会の審査と安全審査会(又はその部会)における審査は両審査が密接な関連を有し、審査の効率化に資するため、合同で審査を行うことが慣例であったこと、本件安全審査の審査委員の多くが同顧問会の会員を兼ねていたことが認められ、いずれも原子炉の安全性に係る専門技術的事項を審査するに過ぎないから、本件安全審査における第一二〇部会が原子力発電技術顧問会と合同で本件原子炉の安全性に係る事項について審査を行ったとしても本件安全審査会の判断に不当な影響が出るとはいい難く、これを認めるに足りる証拠もない。

また、弁論の全趣旨によれば、科学技術庁原子力局長は、本件安全審査会の審査委員に任命されていることが認められる上(なお、本件安全審査の途中で、昭和五一年一月の科学技術庁設置法改正に伴い、同庁原子力局長が審査委員を退任し、同庁原子力安全局長が審査委員となった。)、また、設置法一五条によれば、原子力委員会の庶務は、科学技術庁原子力局において処理するものとされ、更に、安全審査会運営規程四条二項により、安全審査会の議案に必要な資料は科学技術庁原子力局において準備するものとされていることを総合すれば、同局の職員が原子力委員会、本件安全審査会及び第一二〇部会に出席することは、むしろ当然ともいえ、また、科学技術庁原子力局の局長ら職員が事実上審査をリードしたと認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

9 審査範囲の限定について

原告らは、本件安全審査においては、温排水による海中生物への影響、固体廃棄物や廃炉などの最終処分、使用済燃料の再処理、輸送等の問題が審査対象外とされたこと、本件安全審査においては、安全審査対象事項を本件原子炉の基本設計ないし基本設計方針に限定したことを指摘し、審査範囲・審査対象を不当に限定した点において本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第二の三7)。

しかしながら、前記(第二章第一の二、三)のとおり、原子炉設置許可における安全審査については、当該原子炉施設における基本設計の安全性に係る事項のみが審査の対象となるのであるから、原告らの右主張は失当である。

10 資料の収集等について

原告らは、原子力発電所の安全性を確保すべき第一次的責任は、原子炉施設の設置の許否を決することのできる行政庁にあるところ、本件安全審査においては、原子炉設置者である申請者の提出する資料やデータに基づき、その基本設計及び基本的設計方針が適切であるか否かが確認されただけで、自ら必要な資料やデータを収集し、必要な計算や実験を行うという方法が採られなかったから、本件安全審査の審査方法は違法であった旨主張する(第四節第二の三8)。

しかしながら、原子炉の安全性の確保は、直接原子炉を設置、運転する原子炉設置者が第一次的にその責を果たすべきであり、原子炉設置許可における安全審査においては、設置者の申請に係る内容が災害の防止上支障のないものであるかどうかを申請者の提出する資料に基づいて審査すれば足りると考えられるから、原告らの右主張は失当である。

二本件安全審査手続における個別的瑕疵の主張について

1 原子力委員会委員長の不在について

原告らは、原子力委員会が本件安全審査を行った際、委員長不在のまま審議をしたことがあるほか、最終答申という最も大切な委員会決定すら委員長不在のまま行われており、委員長の職務代理者も選任されていなかったから、本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第三の一1)。

設置法一一条二項によれば、原子力委員会は委員長及び三人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができないとされているところ、確かに、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、原子力委員会が本件安全審査を行った際、委員長不在のまま審議をしたこともあること、昭和五二年八月二三日に開催された第三四回原子力委員会定例会議では、本件原子炉の設置は許可して差し支えないものと認め、内閣総理大臣宛にその旨答申することが決定されたが、同会議にも委員長が出席していないことが認められる。しかしながら、委員長は、あらかじめ常勤の委員のうちから、委員長に故障がある場合において委員長を代理する者を定めておかなければならず(同法七条三項)、委員長に故障がある場合においては、同法七条三項に規定する委員長を代理する者は、委員長の職務を行うものとされている(同法一一条三項)上、〈書証番号略〉によれば、本件原子炉の設置について審議した第三二回原子力委員会及び内閣総理大臣への答申を決定した第三四回原子力委員会とも、六名全員の委員が出席していることが認められることに鑑みると、原子力委員会が本件安全審査を行った際にも委員長の職務代理者がいたか、又はこれと同視し得る状態にあったものと推認されるから、原告らの右主張は失当である。

2 審査方法等について

原告らは、原子力委員会の審査は、自らあるいは事務局を使って必要な資料を分析、点検、検討して行うことをせず、専ら原子力委員会の下部機関である安全審査会及び第一二〇部会に任せ、原子力委員会独自の審査は、一時間ないし二時間の短時間内に多くの議題や報告(多いときは五件以上あった。)を掛け持ちして行ったに過ぎず、到底法の要求している科学的、専門技術的事項についての専門家の安全審査といえないから、本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第三の一2)。

しかしながら、設置法は、原子力委員会の委員の資格について特に定めておらず、同法は、原子炉に係る安全性に関する事項についての専門技術的観点からする調査審議は、原子力委員会が直接に行うのではなく、安全審査会の専門技術的調査審議に基づく報告を踏まえて行うことを予定していると解され、元来、原子力委員会における安全審査は、科学的、専門技術的事項についての専門家の審査ではないと考えられる上に、前記(第一)の本件処分に係る手続経過を総合すれば、原子力委員会における本件安全審査が中身のない形式的な審査であったと断ずることはできないから、原告らの右主張は失当である。

3 並行審査等について

原告らは、本件安全審査会における審査は、正味二、三時間のうちに少ないときでも五、六件、多いときは一〇件以上の審査を同時並行的に行っており、本件安全審査は余りにも機械的、形式的であり、到底専門技術的審査とはいえないから、本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第三の二1)。

しかしながら、証人村主進の証言によれば、本件安全審査会は、一期日に多数の案件を処理することもあるが、議事の内容に応じ、重要な案件については十分な時間を掛けて審査したこと、その程度の審議であっても、専門技術的知見を有する審査委員らが安全性の確保の判断として十分であるとしたことが認められるから、原告らの右主張は失当である。

4 代理人の出席について

本件安全審査を行う安全審査会の会合には、毎回のように審査委員の代理人が複数人出席し、定足数に満たなかったにもかかわらず、安全審査会が開催され、実質的な審議が行われたこともあったばかりか、正規の審査委員のほかに法的な性格が全く不明な調査委員が多数参加しており、本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第三の二2)。

しかしながら、審査委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命することとなっている(設置法一四条の三第二項)が、右委員のうち、関係行政機関の職員のうちから任命された審査委員については、その者の有する専門的学識・経験とともに、当該行政機関自体が有する高度の専門技術的知見を安全審査に役立てるため、その者が属する関係行政機関を代表する者として選任されるものと解されるから、学識経験のある者のうちから任命された審査委員の場合とは異なって、適切な代理者である限り、代理出席を認めても何ら法の趣旨に反するものではないと考えられるところ、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、安全審査会は、昭和三九年九月、設置法一六条、設置法施行令四条、安全審査会運営規程八条に基づき、右関係行政機関の職員のうちから任命された審査委員については代理出席を認めることとしたこと、本件安全審査会に代理者を出席させた審査委員は、いずれも関係行政機関の職員のうちから任命されたものであることが認められる。また、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、調査委員制度は、昭和四四年六月、設置法一六条、設置法施行令四条、安全審査会運営規程八条に基づき、審査委員を補助して安全審査会の調査審議の能率向上を図るために設けられ、原子炉の安全性に関する事項を調査することを職務内容とされたことが認められるから、調査委員制度が法令の根拠を有しないとはいえない。更に、本件安全審査に際して、定足数を欠いた安全審査会が開催されたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

5 調査委員中心の審査との主張について

原告らは、第一二〇部会における部会員の出席率は悪く、審査委員の代理人も出席しており、また、実際に調査や審議を担当した者は何らの資格も権限もなかった調査委員であり、特に現地調査の大半は少数の調査委員によって行われたものに過ぎず、このように調査委員中心で行われた同部会の審査方法は違法といわざるを得ず、その判断を受け継いだ本件安全審査は違法である旨主張する(第四節第三の二3)。

しかしながら、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、第一二〇部会の会合に代理者が出席した事実は認められず、また、前記(4)のとおり、調査委員制度は、設置法一六条、設置法施行令四条、安全審査会運営規程八条に基づき、審査委員を補助して安全審査会の調査審議の能率の向上を図るために設けられたものであり、調査委員は、原子炉の安全性に関する事項を調査することをその職務内容とするものであるから、第一二〇部会における調査審議に関与し、現地調査を行ったのも当然であり、更に、〈書証番号略〉、証人村主の証言によれば、審査委員も部会の調査審議に関与し、多数回にわたり現地調査を行ったことが認められ、したがって、現地調査の大半が少数の調査委員によって行われ審査委員がこれに関与していなかったとはいい難い。また、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、部会においては、審査委員及び調査委員のそれぞれの専門分野に応じた三つのグループ毎の調査審議が行われ、しかも、その中でも特定の専門分野に係る事項については、特定の審査委員、調査委員が分担して審査するという方式が採られていることが認められるが、原子炉に係る安全性に関する事項のような高度に専門技術的事項を審査する場合には、右のような方式も不合理とはいえず、議題ごとに各グループ、更には部会の出席者が代わり、それぞれの会合に審査委員及び調査委員全員が参加しなかったとしても必ずしも調査審査に支障が生ずるわけではないと考えられ、第一二〇部会が行った調査審議の方法が違法であったとはいえない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

第四章本件処分の実体的適法性

第一はじめに

一規制法二四条一項四号適合性の審査

規制法二四条一項四号適合性の審査は、当該原子炉施設の位置、構造及び設置がその基本設計において原子炉等による災害の防止上支障がないものであるかについて行われるが、本件安全審査会は、本件原子炉施設の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認め、原子力委員会も、右の安全審査会の審査結果のとおり判断して、内閣総理大臣に対してその旨を答申し、内閣総理大臣が右答申を尊重して本件処分をしたことは、前記(第三章第一)のとおりである。そこで、当裁判所は、現在の科学水準に照らし、安全審査会、原子力委員会の右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか否か、本件原子炉施設が右具体的審査基準に適合するとした安全審査会、原子力委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるか否かについて検討することにするが、その前提として、まず、発電用原子炉である本件原子炉施設の仕組み、原子炉施設の潜在的危険性、原子炉施設の安全性の意義及びその審査について順次検討する。

二発電用原子炉の仕組み

1 発電用原子炉の原理

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原子力発電の仕組みは、原理的には、火力発電におけるボイラーを原子炉に置き換えたものであって、蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こすという点では、火力発電と全く同じであり、発電用原子炉は、核分裂反応を制御しつつ継続的に起こさせることにより、タービンを回転させるのに必要な熱エネルギーを発生させるための装置である。その中心部、すなわち炉心は、核分裂反応を起こして熱を発生させる核燃料、核燃料物質によって新たに発生する高速の中性子を次の核分裂を起こしやすい状態にまで減速させるための減速材、発生した熱を取り出すための冷却材、核燃料の核分裂反応を制御するための制御棒等から成り立っている。

(二) 発電用原子炉には、幾つかの種類があるが、軽水型原子炉は、右の減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして、普通の水(いわゆる軽水)を用いるものである。この軽水型原子炉には、原子炉内で直接蒸気を発生させ、これをタービンに送って発電する型(沸騰水型原子炉)と、高圧をかけることによって原子炉内では冷却材を沸騰させることなく、高温の水のまま蒸気発生器に導いて、そこで蒸気を発生させ、これをタービンに送って発電する型(加圧水型原子炉)とがある。

2 沸騰水型原子炉の構造と発電の仕組み

本件原子炉が沸騰水型原子炉であることは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 沸騰水型原子炉の構造は、概略別紙一のとおりであり、原子炉に用いる核燃料には、中性子が当たると核分裂反応を起こすウラン二三五を数パーセント含む二酸化ウランをペレット状に焼き固めたものが使用される。この燃料ペレットは、両端を密封されたジルコニウム合金であるジルカロイ製の被覆管の中に縦に積み重ねられて燃料棒を構成し、その燃料棒は、数本ごとにまとめられて一つの燃料集合体を形成しており、この燃料集合体数百体で炉心を構成している。また、制御材としては、その内部に中性子を吸収する中性子吸収材が詰められている棒状の制御棒が使用されており、この制御棒を出し入れすることによって炉内の中性子の数を調整して核分裂反応を制御している。燃料ペレット、燃料棒、燃料集合体、制御棒の構造は概略別紙二のとおりである。これら燃料集合体及び制御棒は、高温、高圧に耐え得る鋼鉄製の圧力容器に収められており、圧力容器の構造は概略別紙三のとおりである。

(二) 原子炉圧力容器には、冷却材と減速材とを兼ねる水が入れられており、この水は、核分裂反応によって生じた熱によって高温の蒸気となり、その蒸気は主蒸気管を通ってタービンに送られる。そして、この蒸気は、タービンにおいて、その熱エネルギーの一部が機械的回転エネルギーに変換され、タービンに結合された発電機により発電を行う。タービンを回転させた蒸気は、復水器で海水により冷却されて水となり、この水が給水管を通って圧力容器に戻され、そこで再び高温の蒸気となってタービンを回転させる。また、圧力容器に冷却材再循環系設備を接続させ、炉心を循環する冷却水の一部を強制的に再循環させるとともにその循環流量を調整することにより、発生する蒸気量すなわち出力を制御している。

このように、圧力容器内で発生した蒸気がタービン、復水器を経て水となり、再び圧力容器に戻ってくる冷却水の循環経路を構成する設備及び右冷却材再循環系設備を原子炉冷却系統設備といい、圧力容器及び原子炉冷却系統設備の一部であって、平常運転時には冷却材を内包し、異常時には隔離弁によって他の部分と隔離し、圧力障壁を形成する範囲を圧力バウンダリという。

三原子炉施設の潜在的危険性

1 想定されている危険の内容

規制法二四条一項四号が審査することとしている原子炉施設の安全性とは、その文言上、使用済燃料を含む核燃料物質、原子核分裂生成物を含む核燃料物質によって汚染された物又は原子炉によりもたらされるおそれのある災害を防止し得るものであることを意味することが明らかであるから、そこで想定されている原子炉施設の潜在的危険性は、主として放射性物質による環境の汚染であると解するのが相当であり、原子炉施設における安全性の確保の問題は、結局は、右の放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないか、という点にあるといえる。

そこで、放射線の種類と人体に及ぼす影響について、次に検討する。

2 放射線とその影響

放射線とその人間に及ぼす影響の概略については、ほぼ当事者間に争いがないが、右争いのない事実と〈書証番号略〉証人安齋育郎(以下「安齋」という。)、同伊藤直次(以下「伊藤」という。)、同市川の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 放射線には、アルファ線、ベータ線、中性子線等の粒子線と、ガンマ線、エックス線のような波長の非常に短い電磁波とがある。放射線のうち、ガンマ線やエックス線のような電磁波は、透過力が非常に大きく、これを遮蔽するには一般には厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。また粒子線のうち、アルファ線は、透過力が極めて小さく、空気中でも数センチメートル程度しか透過できず、薄い紙一枚でも遮蔽できる。ベータ線は、透過力はアルファ線よりもかなり大きいが、空気中で数十センチメートルないし数メートルしか透過できず、数ミリメートルないし一センチメートル程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で遮蔽できる。中性子線は、その速度により低速度のものは透過力が小さく、高速度のものはかなり透過力が大きいが、これを水のような水素を大量に含む物質中に通し、質量のほぼ等しい水素の原子核と衝突させて減速させることなどにより、遮蔽できる。放射性物質から放出される放射線の量は、時間の経過とともに減速するが、減速速度は放射性物質の種類(核種)により異なる。放射性物質は、天然にも存在するが、人工的にも生成され、原子炉内において種々の核種の放射性物質が生成される。

(二) 自然界には、宇宙線、地殻を構成している花崗岩、石炭岩、粘土に含まれる放射性物質及び人が摂取する飲食物に含まれる放射性物質等様々な起源に由来する放射線が存在し、人類はこれら自然界からの放射線を絶えず被曝し続けている。自然放射線による一人当たりの被曝線量は、地域によってかなりの差異がある。例えば、我が国の場合においても、九州では年間0.08ないし0.1レム、関東では年間0.04ないし0.06レムと、九州と関東との間には年間0.02ないし0.06レム程度の差異が認められ、さらに、諸外国においては、年間一レムを記録している地域すら存在する。このように、自然放射線による一人当たりの被曝線量は、居住地域や生活様式等によってかなりの差異を生じるが、我が国における自然放射線による一人当たりの被曝線量は平均して年間0.1レム程度であるとされており、その内訳は、宇宙線によるもの0.03レム、地殼からの放射線によるもの0.05レム程度、摂取された飲食物等からの放射線によるもの0.02レム程度とされている。

人が日常生活を営んでいく上において被曝している放射線には、自然放射線以外にも、種々の人工放射線がある。例えば、医療用として、胸部レントゲン間接撮影の場合には一回当たり約0.1レム、胃や歯の診断のためのレントゲン撮影の場合には、一回当たり1.3ないし1.5レム、癌の治療では五〇〇レム以上を被曝することがある。そのほか夜光時計やテレビ等からも僅かながら放射線は放出されており、コンクリート造りの家屋の中で受ける被曝線量は、コンクリートの中に含まれる放射性物質からの放射線が加わって、木造の家屋の中で受ける被曝線量の約1.5倍になる場合もある。

(三) 放射線は、人を含む生物の組織に対して励起ないし電離作用を及ぼすが、人はこれを五感により感ずることができない。放射線の被曝には、人体の外部に存在する放射性物質により被曝する外部被曝と、何らかの経路で環境に放出された放射性物質を摂取し、人体内部から被曝する内部被曝とがある。外部被曝の場合、アルファ線及びベータ線によっては体内器官はほとんどが被曝しないが、ガンマ線によっては身体内部も含め、全身がほぼ均等に被曝する。これに対し、内部被曝の場合、アルファ線及びベータ線によって体内器官に集中被曝が起こる。

(四) 人の放射線被曝による障害としては、放射線を被曝した個人に現れる身体的障害と、その個人の子孫に現れる遺伝的障害とに分けられ、身体的障害は、更に、被曝後余り長くない時期、すなわち通常二、三週間以内に現れる急性障害と、かなり長い潜伏期間を経て現れる晩発性障害とがある。

急性障害は、短期間に高線量の放射線を被曝した場合に初めて生じるものであって、被曝線量や被曝部位によっても異なるが、吐き気、倦怠感、下痢に始まり白血球減少、脱毛、発疹、水泡、急性潰瘍等の症状を引き起こし、極端な高線量被曝の場合には死に至ることもある。すなわち、急激に高線量の放射線を全身に被曝し、何らの医療措置を受けない場合には、一万ラド以上では、中枢神経の障害のためごく短期間のうちに死に至り、四〇〇ラド程度では、主として造血組織の障害のため、被曝した人の半数が三〇日以内に死亡し、五〇ないし七五ラド程度では、白血球の一時的な減少が起こるが、二五ラド以下では、臨床症状はほとんど発生しないといわれている。晩発性障害は、短期間に高線量の放射線を被曝したときだけではなく、比較的低線量の放射線を長期間被曝することによっても発生することもあり得ると考えられており、その症状としては、白血病その他の癌、白内障等がある。遺伝的障害は生殖細胞の中にある遺伝子や染色体が、物理的、科学的、その他種々の要因により突然変異あるいは異常を起こし、それが子孫に伝えられて生じるものであり、生殖腺が放射線を被曝した場合には、その放射線も右の突然変異あるいは異常を起こす要因の一つになる可能性があるとされている。放射線被曝による障害は、一般に、ガンマ線、エックス線等の放射線による被曝線量の総量が同じであっても、その線量を被曝した期間が長ければ長いほどその影響は小さい。

3 しきい値の存否

(一) 原告らは、放射線被曝による人体への障害については、今日、これ以下の線量では障害が起こらないという「しきい値」の存在は、完全に否定されている旨主張する(第六節第一款第三の五)ので、以下、検討するに、〈書証番号略〉、証人安齋、同市川の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 一九四〇年代に入り、動植物に十数レム相当の放射線を照射すると、染色体が切断されるという異常が現れ、その切断数と放射線量が比例関係にあるという報告がなされていたが、人体に対しては、第二次大戦直後ころまでは、一〇〇レムに相当する放射線を浴びてもいかなる障害も発生しないとされていた。その後、イギリスのアリス・スチュアートは、一九五五年(昭和三〇年)、妊娠中の女性が下腹部又は骨盤部に診療用エックス線を受けた場合に、生まれた子供に幼児性白血病が多発する旨の研究発表を行い、米国のグラスは、一九六一年(昭和三六年)、ショウジョウバエを用いた実験によりエックス線の線量を五レムまで下げても、線量と突然変異率が比例関係にある旨報告し、更に、米国のマクマホンは、一九六二年(昭和三七年)、妊娠中に骨盤部にエックス線検診を受けた人と受けなかった人、それらの者の子(合計七〇万組)を対象とした調査を行った結果、数レム程度の被曝と子の幼児性白血病との間に明白な関係がある旨報告した。また、右スチュアートは、ニールと共同で、被曝が妊娠一三週以内であれば三分の一ラドで、小児癌と白血病の発生率が自然発生率の二倍になる旨報告した。

(2) スパローは、一九七二年(昭和四七年)、エックス線の場合、二五〇ミリラド程度、中性子線の場合、一〇ミリラド程度で、それぞれ放射線量と突然変異数とが比例関係にある旨、米国のメリクル夫妻は、一九六五年、自然放射線が高いことで有名なコロラド州において、自然放射線によるムラサキツユクサの雄しべの毛及び花弁の突然変異率の上昇が認められること、その線量は八四ミリレムであった旨、インドのヤナールは、一九七〇年(昭和四五年)、トリウム二三二を含むケララ州の土壤を利用したムラサキツユクサの栽培実験を行ったところ、内部被曝によって取り込まれた放射性核種の量と突然変異率が高い相関関係を示した旨、カタリーナ・タカハシは、サソリの精原細胞の染色体異常を調査したところ、自然放射線と染色体異常の発生との間に明確な関係が認められた旨、それぞれ報告し、また、市川は、昭和四五年から同五一年にかけて、ムラサキツユクサにおける突然変異の発生率と放射線量との関係についての研究を行い、ガンマ線及び散乱放射線の各線量と突然変異数とは、直線比例関係にあり、直線比例関係が確認された最低線量はガンマ線の場合、2.1レントゲン、散乱放射線の場合、0.72レントゲンである旨報告した。

しかしながら、ムラサキツユクサを用いた実験については、ムラサキツユクサの雄しべ毛の細胞が、放射線のみならず、温度、降雨、日照、農薬、自動車排気ガス等の諸要因に対しても高い感受性を示すため、ムラサキツユクサを用いた野外での実験によって、その雄しべ毛の細胞における突然変異の発生に対する放射線の寄与を正確に把握することは現実的にはほとんど不可能に近いし、仮に可能であるとしても、そのためには、実験の方法や実験結果の解析の方法等を極めて慎重かつ緻密に行わなければならないが、それは十分に行われていなかったとの批判もあり、これに対し、市川は、温度との関係等についても十分考慮して実験を行った旨反論している。

(3) 東北大学の粟冠正利教授は、昭和五三年、全国二七道県四〇二地点で二二年間にわたり五万七〇〇〇人以上の白血病死亡を取り上げて研究した結果、癌死亡率と線量率との間には正の相関関係があるが、相関関係は0.5までであまり大きくないこと、白血病死亡率と放射線との相関関係はこれより更に小さく、かつ負の相関をもつものが多いことが判明したとの論文を発表したが、右論文に対し、その用いる線量率のデータが不十分であること、計算間違いが多いことなどからその内容の信用性に疑問があるとする批判も出ている。また、京都大学の上野陽里教授は、一九八六年(昭和六一年)、ロンドンで開催された「電離放射線の生物効果」に関する国際会議において、日本の各地における体外自然放射線の被曝線量率とこれら地域での癌発生率との間の相関関係について講演し、「ガンの発生率と自然放射線との明らかな相関を、観察した六期間のいずれにおいても得ることができなかった。しかし、いくつかのガンでは、自然放射線との間に有意な関係があるように見える。」などと報告した。

また、自然放射線被曝における地域差と晩発性障害及び遺伝的障害の関係について、九州と関東との間には年間0.02ないし0.06レムの被曝線量差が認められるにもかかわらず、九州において関東に比較してより多くの人が晩発性障害や遺伝的障害を受けているということを裏付ける資料はなく、諸外国において自然放射線による被曝線量が大きく異なる地域を比較しても同様であるとする報告もある。

(二) 右認定の各事実に、後記(四3(二))のとおり、ICRPが低線量放射線による晩発性障害及び遺伝的障害について、しきい値の不存在を確認するに足りる資料はないが、しきい値はないものと仮定する立場をとっていること(〈書証番号略〉によれば、一九九〇年の勧告においても同様の立場をとっていることが認められる。)、及び証人安齋の証言を総合すると、低線量被曝による人体への影響については、不明な点が多々あり、信頼するに足りる十分なデータの収集がなされていないことから、現在においてもなお、しきい値があるか否かについては、いずれとも断定することはできないというべきである。しかしながら、低線量被曝による人体への影響を指摘する学説も多く見られ、低線量被曝による障害にはしきい値がないとする疑いも十分にあり、しかも、動植物において低線量被曝による影響が判明していることに鑑みると、人類の安全のためにはしきい値が存在しないと仮定して、できる限り放射線による被曝を防止し、もって、放射線による障害からの防護を図るべきであり、本件安全審査もこのような見地から、審査を行うのが相当であると考えられる。

四原子炉施設の安全性の意義及びその審査

1 安全性の意義

前記(三1)のとおり、規制法二四条一項四号が規定する原子炉施設における安全性の確保の問題は、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないかという点にあるが、同規定がいかなる意味においても完全に放射線障害の発生を防止することを要件とする趣旨であるとすると、放射線障害の発生にはしきい値がないと仮定すべきであるから、原子炉施設は、放射線を環境に全く放出しないものでなければならなくなる。ところが、弁論の全趣旨によれば、原子炉施設は、その運転により不可避的に一定の放射性物質を環境に放出するものであることが認められ、また、原子炉施設も人工の施設である限り、どのような安全上の対策を講じたとしても、絶対的に事故を発生させないようにすることが不可能なことは、経験則上明らかであり、そうすると、原子炉施設の設置は現実にはおよそ許容される余地がないことになる。

しかしながら、そもそも、人の生命、身体の安全は最大限の尊重を必要とする重大な法益であることはいうまでもないが、人の生命、身体に対する害や、その危険性が絶対的に零でなければ社会においてその存在が認められないとするならば、放射線のみならず、現代社会において現に存在が受容されているおびただしい科学技術を利用した各種の機械、装置、施設等も、何らかの程度の事故発生等の危険性を伴っている以上、その存在を許されないことになる。しかし、人類は、そうした科学技術を利用した各種の機械、装置、施設等の危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考えられる場合に、その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益の大きさを比較衡量して、これを一応安全なものであるとして利用しているというべきである。そして、基本法一条は、原子力の研究、開発及び利用を推進することが将来におけるエネルギー資源の確保及び学術の進歩と産業の振興とを図ることとなり、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することになるとの考え方を明示しており、また、規制法は、原子炉の設置を一定の要件の下に許容することを当然の前提とするものであることは明らかであるから、原子炉施設についても、その危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考えられる場合には、その存在が許容されるというべきである。そうすると、規制法二四条一項四号が規定する原子炉施設の安全性の確保は、原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことにあるというべきである。

2 安全審査の方針及び審査事項について

(一) 原子炉施設の安全性の確保の意義が右のとおりであるとすると、原子炉設置許可処分に際しての安全性の審査は、原子炉施設の位置、構造及び設置について、その基本設計において、原子炉施設から排出する放射性物質を可及的に少なくし、これによる災害発生の可能性を社会通念上容認できる水準以下に保つような方策が講じられているかどうかについて行われるべきものと解される。

(二) これを本件についてみるに、〈書証番号略〉及び証人村主、同伊藤の各証言によれば、本件安全審査の基本方針及び審査事項が次のとおりであったことを認めることができる。

すなわち、本件安全審査においては、本件原子炉施設が平常運転時はもとより、万一の事故を想定した場合にも、一般公衆及び従事者の安全が確保されるように、所要の安全設計等が講じられていることを確認するために、次の事項が審査の基本方針及び審査事項とされた。

(1) 原子炉施設が設置される場所の地盤、地震、気象、水理等の自然事象及び交通等の人為事象によって原子炉施設の安全性が損なわれないような安全設計が講じられること。

(2) 平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が、許容線量等を定める件二条に規定する許容被曝線量(年間0.5レム)以下に抑えられていることはもちろんのこと、更に、それをできるだけ少なくするような安全設計が講じられること。

(3) 平常運転時において、従事者が許容被曝線量を超える線量を受けないような放射線の防護及び管理が講じられること。

(4) 原子炉の運転に際し、異常の発生を早期に発見し、その拡大を未然に防止するような安全設計が講じられること。

(5) 原子炉の運転に際し、機器の故障、誤操作等が発生しても、燃料の健全性、冷却材圧力バウンダリの健全性等が損なわれないような安全設計が講じられること。

(6) 原子炉冷却材を包含している冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれ、冷却材が喪失するような事故、炉心の反応度を制御している制御系の健全性が損なわれ、反応度が異常に上昇するような事故等の発生を仮定しても、事故の拡大を防止し、放射性物質の放出を抑制できるような安全設計が講じられること。

(7) 重大事故及び仮想事故を仮定しても、その安全防護施設との関連において、一般公衆の安全が確保されるような立地条件を有していること。

また、審査にあたっては、原子力委員会が指示した、①立地審査指針、②ECCS安全評価指針、③線量目標値指針、④線量目標値評価指針、⑤安全設計審査指針、⑥気象指針の各指針を用い、本件安全審査会が原子炉施設の安全審査にあたり、解析条件、判断基準等を内規として運用するために作成した、①「沸騰水型原子炉に用いる八行八列型の燃料集合体について」(昭和四九年一二月)、②「被曝計算に用いる放射能エネルギー等について」(同五〇年一一月)、③「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」(同五一年二月)、④「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用について」(同五二年二月)、⑤「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価手法について」(同年五月)、⑥「取替炉心検討会報告書」(同月)、⑦「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について」(同年六月)の各報告書を活用し、先行炉の審査経過及び諸外国の審査基準を参考とした。

(三) ところで、前記(一)の安全審査の理念の範囲内において、具体的にどのような審査方針を樹立し、どのような事項について審査を行うかは、既に判示したとおり、内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられているというべきであり、そして、右(二)の本件安全審査における審査の基本方針及び審査事項は、その内容に鑑みれば、前記(一)の安全審査の理念の範囲内にある合理的なものと認めるのが相当であり、右の審査方針の樹立及び審査事項の選定自体に裁量権の逸脱等があるとはいえない(もっとも、右の審査事項のうち、(二)(2)について、被曝線量が、許容線量等を定める件二条に規定する許容被曝線量(年間0.5レム)以下に抑えられていれば、公衆の安全が確保されるかについて争いがあり、次に検討する。)。

3 公衆の許容被曝線量について

原告らは、本件安全審査において、安全審査会が平常運転時の公衆の許容被曝線量値として採用した許容線量等を定める件二条所定の線量値(年間0.5レム)は不当に高いと主張するので、この点について以下検討する。

(一) 弁論の全趣旨によれば、許容線量等を定める件二条の許容被曝線量値(年間0.5レム)は、ICRPの一九五八年(昭和三三年)の被曝線量限度に関する勧告を尊重し、科学技術庁告示をもって定められたものであることが認められる。

(二) 原告らは、ICRPの勧告自体が破錠したものである旨主張するので、右勧告について検討するに、ICRPの組織、ICRPの勧告についての概要等は概ね当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〈書証番号略〉、証人安齋、同伊藤の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) ICRPは、一九二八年(昭和三年)に、第二回国際放射線医学会議において、「国際エックス線及びラジウム防護委員会」として設立され、その後、一九五〇年(昭和二五年)に組織改正及び改称がなされ、現在に至っている。ICRPは、委員長及び一二名の委員で構成され、委員は、放射線医学、放射線防護学、物理学、生物学、遺伝学、生物化学及び生物物理学の各領域における著明な業績を有する専門家の中から選任されている。また、ICRPは、専門委員会を置くことができ、更に、専門委員でない専門家にも臨時の作業グループとして協力を求めることができるものとされているほか、世界保健機関(WHO)及び国際原子力機関(IAEA)と公的な関係を有し、国際連合原子放射線の影響に関する科学委員会(UNSCESR)等とも密接な仕事上の協力関係を保っている。ICRPの方針は、適切な放射線防護方策の基礎となる基本原則を考えることにあり、その勧告は、各国において放射線防護を実施に移す責任を持つ専門家に指針を与えようとするものであって、発足以来、放射線防護に関し数々の勧告を行ってきた。

(2) ICRPは、一九五八年(昭和三三年)採択の勧告において、「生物学的な面では、低レベルの連続的被曝から予想される放射線の長期の影響の場合、『回復』は初期に想像されていたほど重要な役割をおそらく果たしていない」、「最もひかえめなやり方は、しきい値も回復もない、つまりその場合には、たとえ低い蓄積線量ですら、感受性の高い人々に白血病を誘発させることがあり、またその頻度は蓄積線量に比例するであろう、と仮定することである。」、「人類は電離放射線を全く使用することなしにすませることはできないので、実際上の問題は放射線線量を、個人及び集団全般に許容不能ではないような危険を伴う程度にまで、制限することである。この量が『許容線量』と呼ばれるものである。」、「勧告されている最大許容線量は最大の値であることが強調される。委員会は、あらゆる線量をできるだけ低く保ち、不必要な被曝はすべて避けるように勧告する。」などと述べた上で、職業上の個人の被曝について、「一八歳以上のすべての年齢の人の生殖腺、造血臓器、および水晶体中に蓄積される最大許容総線量」を五×(年齢―一八)レムとすること(最大週線量が0.1レムであることを示す。)、管理区域の周辺に住む一般人の被曝について、このような公衆には放射線感受性の高い子供(胎児を含む。)が含まれていることなどを考慮し、年間0.5レムを許容線量とすること、更に、集団に対する遺伝線量(これをその集団の各人が受胎から子供を持つ平均年齢までに受けたと仮定した場合に、それらの個人が受けた実際の線量によって生ずるのと同じ遺伝的負担を全集団に生じるような線量)については、人の平均生殖年齢(三〇歳)に達するまでの総被曝線量を平均一〇レム以下に押さえるべきであるが、今後原子力利用の代価として、三〇年間に新たに五レム程度の被曝量を加えたとしてもさしたる障害は認められないとして、医療行為以外の人工放射線源からの遺伝線量を三〇年間に五レム以下とすることなどを勧告した。

(3) ICRPは、一九六五年(昭和四〇年)採択の勧告において、「放射線防護の目的は、放射線の急性効果を防止し、かつ、晩発性効果の危険を認容できるレベルまで制限することである。」、「放射線による白血病およびその他の型の悪性腫瘍の誘発機構はわかっていない。」、「しきい線量の存在は不明であるため、どんな小さい線量でもそれに比例して小さい悪性腫瘍誘発の危険を伴うと仮定されてきた。また、人における悪性腫瘍誘発の線量―効果関係の本性に関する知識―特に放射線防護で問題とされる線量レベルでの知識―が不足しているため、線量―効果関係が直線的であるという仮定、および、線量は積算的に作用するという仮定に代わる実際的な代案を持っていない。」、「電離放射線への被曝が含まれる活動をしないですまそうと望むのでない限り、ある程度の危険性が存在することを認識しなければならず、かつ、考えられる危険が、このような活動から得られる利益からみて、その人および社会にとり容認できると思われるレベルにまで放射線量を制限しなければならない。」、「どんな被曝でもある程度の危険を伴うことがあるので、委員会は、いかなる不必要な被曝も避けるべきであること、および、経済的および社会的な考慮を計算にいれたうえ、すべての線量を容易に達成できるかぎり低く保つべきである。」などと表明した上で、職業上の個人の全身被曝について、最大許容線量を年間五レムとすること、公衆の構成員の被曝について、「放射線作業者に対し容認できると考えられる線量と同程度の大きさの線量を公衆の構成員が受けることは望ましくない。公衆の構成員中には子供、すなわち成人より大きい危険にさらされるかも知れず、また全生涯を通じて被曝するかもしれない者を含んでいる。公衆の構成員は(放射線作業者と異なり)被曝するかしないかに関して選択の自由がなく、かつ、その被曝から直接的利益を何も受けないであろう。これらの人々は放射線作業に必要とされる人選、監督及びモニタリングを受けないし、また自身の職業の危険にさらされている。」とした上で、その全身被曝の線量限度を年間0.5レム(但し、公衆の構成員の線量限度を放射線作業者の値の一〇分の一とすることについて、現在、放射線生物学上の知見が十分ではないので、この係数の大きさにはあまり生物学的な意義をもたせるべきではないとも指摘している。)とすることなどを勧告した。

(4) ICRPは、一九七七年(昭和五二年)採択の勧告において、放射線の影響を確率的影響と非確率的影響に区分した上で、「放射線防護の目的は、非確率的な有害な影響を防止し、また、確率的影響を否認できると思われるレベルにまで制限することにおくべきである。」、「(a)いかなる行為も、その導入が正味でプラスの利益を生むのでなければ、採用してはならない、(b)すべての被曝は、経済的および社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できるかぎり低く保たれなければならない、(c)個人に対する線量当量は、委員会がそれぞれの現状に応じて勧告する限度を超えてはならない。」ことをICRPの勧告する線量制限体系とする、全身均等照射による放射線誘発癌に関する死亡のリスク係数は、男女及びすべての年齢の平均値として、一レム当たり約一万人分の一であるとICRPは結論するなどと表明した上、放射線作業者に関する線量当量限度について、高い安全水準の職業とは、職業上の危険による平均年死亡率が一万人に一人を超えない職業と位置付け、放射線作業者が年間五レム被曝すると死亡率は一万人に五人となり、他の安全な職業より危険になるおそれがあるが、実際には、年間0.5レム程度の被曝にとどまるので安全性は確保されるとして、その全身均等照射による被曝の線量限度を年間五レムとすること、公衆の個々の構成員に対する線量当量限度については、一般公衆に対する死のリスクの容認できるレベルは、職業上のレベルより一桁低いと結論付けられ、年間一〇万ないし一〇〇万分の一の範囲の死亡リスクは、公衆の個々の構成員にとっても容認できるから、公衆の個々の生涯線量当量を、一生涯を通して年間0.1レムの全身被曝に相当する値に制限することを意味するが、「公衆の個々の構成員に対して五ミリシーベルトという年線量当量限度を適用するとき、公衆の被曝をもたらすような行為は少ししかなく、決定グループ外の人々の被曝がほとんどないならば、平均線量当量は一年につき0.5ミリシーベルトより低くなると思われる。」などとして、結局、従来どおり、年間0.5レムという全身線量当量限度を用いれば足りることなどを勧告した。

(5) ICRPは、一九八五年(昭和六〇年)のパリ会議において、公衆の構成員に対する実効線量当量限度を年間0.1レムとするが、生涯にわたる平均の年実効線量当量が右限度を超えることのないかぎり、一年につき0.5レムという補助的線量限度を数年にわたって用いることができるとする旨の声明を出した。

(6) ICRPは、一九九〇年(平成二年)一一月採択の勧告において、ICRPが、それまでに明らかになった日本の原爆被曝者の研究、新しい線量算定体系であるDS86、UNSCEAR、BEIR等の機関による研究等を評価し、致死癌の確率を推定した旨表明した上、職業人に対する実効線量限度を、年間五〇ミリシーベルト(五レム)を超えないとの条件付きで、五年間の平均値が年間二〇ミリシーベルト(二レム)とすること、公衆の個々の構成員に対する実効線量限度を、年間一ミリシーベルト(0.1レム)とし、特殊の状況下では五年間にわたる平均が年当たり一ミリシーベルトを超えなければ、単一年ではもっと高い実効線量が許されることもあり得ること、妊娠していない女性に関する職業被曝の管理の基礎は男性の職業被曝の場合と同じであること、事故時等の緊急時の職業人に対する線量限度を五〇レムとすることなどを勧告した。

(7) ICRPの勧告は、米国を初めとして各国で尊重され、その許容線量(線量限度)は、各国の法令に採り入れられているところ、我が国も、ICRPの勧告を尊重して、公衆の許容被曝線量を定めており、本件処分当時においては、ICRPの一九五八年勧告を尊重し、総理府に設置された放射線審議会の答申を受けて、一年間につき0.5レムとしていた(許容被曝線量等を定める件二条)が、前記(5)のパリ会議の声明を取り入れた法令改正(平成元年三月二七日通産省告示第一三一号)により、公衆の線量当量限度を実効線量当量(実効線量当量とは、人が放射線を受けた場合、その受けた部位が人体の一部であっても、人体全体に対してどの程度の影響があるか、その組織の感受性等を考慮して換算したものである。)とし、一年間につき0.5レムを一ミリシーベルト(0.1レム)に変更した。

また、我が国では、ICRPのALAPの考え方に従い、平常運転に伴う公衆の被曝線量を、右の許容被曝線量よりも一層低く抑えるための努力が払われてきたが、その努力目標値を明らかにすることが望ましいとの観点から、昭和五〇年五月、線量目標値指針が定められ、放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の評価値の合計値については年間0.005レム、放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝線量の評価値については年間0.015レムとの努力目標値が明示されていたが、本件処分後、線量目標値指針の改正により公衆の受ける線量当量の目標値を実効線量当量で年間0.005レムとされた。

(8) 米国における原子力発電所の運転による公衆の被曝線量に関する規制は、米国原子力規制委員会(NRC)の米国連邦規制中の放射線防護基準に定められているが、右基準では、公衆の許容被曝線量をICRP勧告に準拠して、年間0.5レムとしているが、一九七七年一月六日、米国環境保護局(EPA)によって、公衆の全身被曝線量を年間0.025レム、甲状腺被曝線量を年間0.075レムとする等の新基準を設定した。

(9) 米国のゴフマン、タンブリン両博士は、一九七〇年(昭和四五年)、成人については、一ラドの被曝により癌の発生率が自然発生率の二パーセント増加し、また、妊娠一三週以内の胎児については、三分の一ラドの被曝で癌の発生率が倍加し、妊娠後期の胎児については、約1.5ラドの被曝で白血病や小児癌の発生率が倍加すると推測され、米国連邦放射線審議会が定めている公衆に対する許容線量である年間0.17ラドの放射線を受け続ければ、年間一二万人に癌が発生する旨報告した。そして、米国原子力委員会は、米国科学アカデミーにこの問題に関する検討を委託し、同アカデミーは、電離放射線の生物効果に関する諮問委員会(BEIR委員会)を設置して検討を重ねた結果、一九七二年(昭和四七年)一一月、「線量電離放射線被曝の集団に対する影響」と題する報告(BEIR報告)を発表したが、同報告は、米国民が年間平均0.17レムの被曝を受ければ、被曝を受ける当世代において年間三〇〇〇人から一万五〇〇〇人の癌による死者が増加し、次世代では毎年最大一八〇〇例の重大な遺伝病が出現し、何世代か後には、毎年最大二万七〇〇〇件もの遺伝的欠陥の出現と、不健康者の五パーセントの増加がもたらされると推測した。

しかしながら、ゴフマン、タンブリンの報告に対しては、米国の全国民が年間0.17レムもの放射線被曝を受けるというような事態はあり得ず、全く非現実的な仮定に立つばかりでなく、被曝による影響をも過大に評価しているという批判もなされており、また、BEIR報告については、米国放射線防護測定審議会が、一九七五年(昭和五〇年)、同報告のリスクの推定値は、低線量の放射線の人に対する影響を、高線量の放射線によって得られた動物実験の結果や疫学的データを用いて評価したものであり、また、過大な推定値であると批判した。

(10) マンクーゾ、スチュアート、ニールらは、一九七七年(昭和五二年)、米国ハンフォード原子力施設に一九四四年(昭和一九年)から一九七四年(昭和四九年)まで勤務した労働者の記録に基づき、職業的に放射線を受けた労働者に線量と関連した過剰な癌死亡率があること、①骨髄腫・白血病、②肺癌、③膵臓癌・胃癌・大腸癌、④総ての癌の各倍加線量は、それぞれ、3.6ラド、13.7ラド、15.6ラド、33.7ラドであったこと、右倍加線量値は、ICRPのリスク係数値から推定されるものの一〇分の一ないし五〇分の一となること、放射線による発癌のリスク係数値は、日本の原爆被曝生存者や医学的な理由で放射線を受けた集団の研究から導き出された推定値よりはるかに高いものであったことなどを報告した。また、イギリスのジョセフ・ロートブラットは、医療被曝者等の低レベル被曝者集団におけるデータに依拠して算出されたリスク係数値は、広島、長崎の原爆被曝者に関するデータに依拠して算出されたリスク係数値より、各癌について五、六倍大きいこと、すべての癌による死亡のリスク係数値は、一レム当たり0.0008であると報告した。

しかしながら、右マンクーゾらの研究に対しては、BEIR委員会は、①低線量被曝による癌の死亡率を求めるには、工場従業員数及び特に元従業員で既に死亡した人々の数が少なく、統計学上、信頼性が低い、②日本の原告被曝生存者にみられた放射線によって最も発生しやすい(潜伏期間が短く、発生率の高い)白血病やリンパ腫、胃癌等がこの工場従業員死亡者の中にはほとんど見当たらない、③膵臓癌、多発性骨髄腫が従業員に高率に発生した原因として、放射線を考えるよりも、この工場がかつて化学物質を取り扱っていた前歴があることから、他の癌原物質に曝露されていた可能性が高いといった問題点があると指摘している。

(11) 第二次大戦後、日米の科学者は、広島、長崎の原爆被曝者を対象として、電離放射線の晩発性障害についての研究を行い、特に、米国オークリッジ国立研究所は、模擬実験を繰り返すなどして、一九六五年(昭和四〇年)、被曝線量を推計し、線量推定方式、いわゆるT65Dを発表し、ICRPは、放射線防護基準設定の基礎資料としてT65Dを用いている。

しかしながら、一九七〇年代に入り、T65Dに対する疑問が投げ掛けられるようになり、米国のローレンス・リバモア国立研究所、オークリッジ国立研究所の研究員らが、それぞれ、広島、長崎の原爆被曝者の放射線被曝線量の推定の見直し作業を行ったところ、一九八〇年代に入り、右被曝線量が、従来考えられていた線量(T65D)よりも大幅に低いことが明らかにされ、その結果、T65Dを基礎資料として行われてきた放射線による癌死のリスク係数値が著しく過少である疑いが生じ、昭和五七年には、日米両国により線量再評価委員会が設置され、広島、長崎の原爆被曝線量の再評価の作業がなされ、その結果、一九八六年(昭和六一年)、右委員会の上級委員会によって、新しい線量評価システムであるDS86が承認された。DS86は、広島においては、爆心地から二キロ地点でガンマ線はT65Dよりも四倍程度多く、中性子はT65Dの九分の一程度であり、長崎においては、T65Dが予想していた線量よりいずれも少ないことを明らかにしている。そして、財団法人放射線影響研究所は、一九八七年(昭和六二年)、白血病及び一般の癌に分けた新しい死亡危険率を公表したが、それによると、ICRPの勧告した危険率より、白血病で約六倍、一般の癌で四倍以上高くなるとする見解もある。

以上認定した事実を総合すると、本件処分当時、ICRPが公衆の許容線量限度としていた年間0.5レムという値は、現在では採用されておらず、ICRPは、一九八九年(平成元年)までの研究結果を踏まえた上、一九九〇年一一月採択の勧告で表明したとおり、職業人に対する実効線量限度を、年間に五〇ミリシーベルト(五レム)を超えないとの条件付きで、五年間の平均値が年間二〇ミリシーベルト(二レム)とし、公衆の個々の構成員に対する実効線量限度を、年間一ミリシーベルト(0.1レム、特殊の状況下では五年間にわたる平均が年当たり一ミリシーベルトを超えなければ、単一年ではもっと高い実効線量が許されることもあり得る。)とする考え方を採用しているというべきであり、そして、右実効線量限度をいわゆるALAPの精神と共に用いる限りにおいては、被曝による危険を社会通念上容認できる水準以下に保つための基準として合理的なものと認められる。

これに対し、原告らは、ICRPは、いわゆるALAPの原則を後退させ、原子力産業の要請を優先させており、放射線防護を基本精神とするICRP勧告は破綻した旨主張する(第六節第一款第四)ところ、ICRPの一九五八年採択の勧告では、「あらゆる線量をできるだけ低く保ち、不必要な被曝はすべて避けるように勧告する。」とされていたが、一九六五年採択の勧告では、「いかなる不必要な被曝も避けるべきであること、並びに、経済的及び社会的な考慮を計算に入れた上、総ての線量を容易に達成できる限り低く保つべきであることを勧告する」となり、更に、一九七七年採択の勧告では、「総ての被曝は、経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保たなければならない」となったことは、前記((2)ないし(4))のとおりである。しかしながら、右のように、表現が変化してきたことについては、専門家の間にも、勧告の後退であり、「なんらかの圧力によってICRPが影響を受けたのではないか」という問題を指摘する意見もあるが、一方、「基本的精神が変わったのではなく、表現をより具体的に、より分かり易くしたためである」との意見もある上(弁論の全趣旨によって認められる。)、ICRPが原子力産業の要請のみを優先させていると認めるに足りる証拠もないから、原告らの右主張は失当である。

(三)  右(二)のとおり、ICRPは、現在では、公衆の個々の構成員に対する実効線量限度を、年間一ミリシーベルト(0.1レム、特殊の状況下では五年間にわたる平均が年当たり一ミリシーベルトを超えなければ、単一年ではもっと高い実効線量が許されることもあり得る。)とする考え方を採用していることに鑑みると、本件安全審査において、平常運転時の公衆の許容被曝線量値として採用された許容線量等を定める件二条所定の線量値(年間0.5レム)が現在においても許容被曝線量値としての合理性を有しているか疑問といわざるを得ない。しかしながら、前記(2(二)(2))のとおり、本件安全審査においては、平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が、許容線量等を定める件二条に規定する許容被曝線量(年間0.5レム)以下に押さえられていることはもちろんのこと、更に、それをできるだけ少なくするような安全設計が講じられることを基本方針とし、〈書証番号略〉によれば、線量目標値指針所定の線量値(放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の評価値の合計値については年間0.005レム、放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝線量の評価値については年間0.015レム)を基準として設定し、実際には、これを公衆の線量限度としたばかりか、ALAPの精神に従って、可能な限り被曝線量を低下させるための対策が講じられているか否かを審査していることが認められるから、本件安全審査における審査の基本方針及び審査事項が安全審査の理念の範囲内にある合理的なものであるとの前記(2(三))判断が左右されるものではないというべきである。

4 線量目標値の合理性について

原告らは、線量目標値指針所定の線量値(放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の評価値の合計値について年間0.005レム、放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝線量の評価値については年間0.015レム)についても、合理性のない危険なものである旨主張する(第六節第一款第五の三)が、一九九〇年採択のICRP勧告が、公衆の個々の構成員に対する実効線量限度を、年間0.1レムとしていることは前記(3(二)(6))のとおりであり、また、本件安全審査においては、ALAPの精神に従って、可能な限り被曝線量を低下させるための対策が講じられているか否かが審査されていることは前記(3(三))のとおりであるから、現在の科学水準に照らしても、右線量目標値が不合理なものとはいえず、原告らの右主張は失当である。

第二本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策に係る安全性

一平常運転時における被曝低減対策に係る本件安全審査の審査内容

1 はじめに

原子炉施設における安全性の確保は、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないか、という点にあることは前記(第一の三1)のとおりであり、そのためには、原子炉施設において、いわゆる多重防護の考え方に基づき、可及的に安全側に立った被曝低減対策が講じられなければならない。

2 事実関係

〈書証番号略〉、証人村主、同伊藤の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 安全審査において検討された事項

原子炉施設においては、放射性物質の有する危険性を顕在化させないために、放射性物質が冷却水中に現れることを抑制し、冷却水中から原子炉冷却系統設備外に現れる放射性物質を、その形態に応じて適切に処理し得る放射性廃棄物廃棄設備を設け、また、原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質からの放射線による公衆の被曝線量を適切に評価し、それが、線量目標値指針が定める線量目標値を下回ることはもちろんのこと、ALAPの指針に従って可及的にその被曝線量値を低減するような基本設計を行う必要があり、その上で、原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の量と環境中における線量率等を的確に監視することのできる放射線管理設備を設ける必要がある。

本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策に関し、本件安全審査において検討された事項は、以下のとおりであり、その際、原子力委員会が指示した①線量目標値指針、②線量目標値評価指針の各指針が用いられ、また、安全審査会が作成した「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について」(昭和五二年六月)の報告書が活用された。

第一に、本件原子炉施設は、その平常運転時に伴って環境に放出される放射性物質の量を抑制できるものかどうか、すなわち、①放射性物質が冷却水中に現れることを抑制できるかどうか、②冷却水中から原子炉冷却系統設備外に現れる放射性物質を、その形態に応じて適切に処理し得る放射性廃棄物廃棄設備が設けられているかどうかを確認する。

第二に、平常運転時における被曝低減対策の総合的な妥当性を評価する観点から、本件原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の放射線による公衆の被曝線量が適切に評価され、かつ、その評価値が許容被曝線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと、線量目標値指針が定める線量目標値、すなわち、放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の評価値の合計値については年間0.005レム、放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝線量の評価値については年間0.015レムをそれぞれ下回ることとなっているかどうかを確認する。

第三に、原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の量、環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視することのできる放射線管理設備が設けられているかどうかを確認する。

(二) 放射性物質の種類

原子炉施設の平常運転時に排気筒から放出される放射性物質には、①主として空気を構成している窒素、酸素、アルゴンが原子炉内及びその近傍で中性子に照射されて生ずる窒素一三、同一六、炭素一四、アルゴン四一等の放射化生成物と、原子炉内の燃料の核分裂によって発生したクリプトン八五、キセノン一三三等の核分裂生成物からなる気体状放射性物質、②常温、常圧では液体状又は固体状であるが、高温では揮発して気体状の挙動を示し、燃料の核分裂によって生成する放射性ヨウ素(ヨウ素一三一、同一三三)等の揮発性放射性物質、③原子炉の冷却材中に含まれている微量の不純物が原子炉内の中性子に照射されて生ずる放射化生成物及び燃料から冷却材中に漏洩した微量の核分裂生成物から成り、塵埃等に付着して挙動するマンガン五四、コバルト五八、同六〇、セシウム一三七等の粒子状放射性物質がある。原子炉施設の平常運転時に放出される放射性物質の放射線源としては、右の気体廃棄物のほかに、液体廃棄物中に含まれている放射性物質と原子炉施設に直接起因する放射線とがあり、前者は、粒子状放射性物質と同様の発生機構によって生成するので、そこに含まれている放射性核種もほぼ同様のものであるが、一般に、原子炉施設は液体廃棄物処理施設を設けているので比較的管理しやすいとされており、後者は、原子炉内の燃料が核分裂する際に発生する放射線と原子炉施設内に内蔵されている放射性物質が放出する放射線であり、これによって通常原子炉施設周辺で問題となるガンマ線についても、一般に原子炉容器、原子炉格納施設、使用済燃料プール、固体廃棄物貯蔵倉庫等において十分遮蔽されるので原子炉施設周辺に及ぼす影響は小さいとされている。

(三) 一般公衆の被曝経路

原子炉施設の平常運転時に放出される放射性物質によって、一般公衆が被曝する際の主要な被曝経路としては、①気体として放出された放射性物質が空気中に拡散している間にこれから放出される放射線による外部被曝、②気体として放出された後、地表に沈着した放射性物質から放出される放射線による外部被曝、③気体として放出された放射性物質を吸入したり、これらが付着した農作物等を摂取することによる内部被曝、④液体として放出された放射性物質から放出される放射線によって遊泳中や漁業活動中に受ける外部被曝、⑤液体として放出された放射性物質を取り込んだ海産物を摂取することによる内部被曝がある。

これまでの軽水型原子炉の運転経験、放射線等に関する調査・研究によれば、軽水型原子炉の平常運転に伴って放出される放射性物質の中では、量的にはクリプトン八五、キセノン一三三等の放射性希ガスが最も多く、放射性希ガスは、透過力の強いガンマ線を放出するため、これに被曝すると、全身被曝の可能性が生ずること、揮発性放射性物質のうち、放射性ヨウ素は生成量が多く、物理的半減期も長いところ、放射性ヨウ素は海藻等に濃縮したり、葉菜類に付着する等の性質があるとともに、人体内部に取り込まれた場合には甲状腺に集まる特性があること、鉄、マンガン、コバルト等は、気体廃棄物中にはほとんど含まれていないが、液体廃棄物中に占める割合が多く、また海産物中で濃縮する性質を有するため、それらを取り込んだ海産物を摂取した場合には、人体に比較的大きな被曝を与える可能性があること、人体が被曝することによって受ける影響については、各臓器が個別的に被曝する場合よりも全身にわたって被曝する場合の方が大きいことが知られており、このような事実から、一般的に、一般公衆に対する右被曝経路のうち、①の被曝経路における希ガスから放出されるガンマ線による外部全身被曝が最も主要なもので、次に、③の被曝経路におけるヨウ素に起因する内部甲状腺被曝及び⑤の被曝経路における放射性物質による内部全身被曝が主要なものであり、他の被曝経路によるものは無視し得る程度のものであると考えられている。

本件安全審査においては、右のような主要な被曝経路について、公衆の被曝線量を定量的に評価し、その値が十分低いものであれば、公衆の被曝線量は、右以外の経路の被曝の寄与分を考慮しても、なお低く抑えられるとの判断に基づいて、本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策に関する安全審査が行われた。

(四) 施設内での放射性物質の蓄積

原子炉の平常運転に伴い原子炉施設内に蓄積される主な放射性物質としては、①燃料の核分裂反応によって燃料被覆管内に生成される核分裂生成物と、②冷却水が接する機器や配管の内面等の腐食によって生成された腐食生成物等が中性子により放射化されることによって生じる放射化生成物の二種類があるところ、①の核分裂生成物については、後記のとおり、本件原子炉施設において使用される燃料被覆管の健全性が維持されるような設計となっていること、②の放射化生成物については、冷却水の水質を腐食の生じ難い清浄な状態に保つために原子炉冷却材浄化系濾過脱塩装置、復水濾過・脱塩装置等の水質管理を行う設備が設けられていることから、本件安全審査においては、本件原子炉施設は、放射性物質が冷却水中に現れるのを抑制できるものと判断された。

(五) 放射性廃棄物の廃棄設備について

原子炉施設においては、多数の燃料棒のうちのごく一部のものの燃料被覆管にピンホール等が生じる可能性があり、このピンホール等から核分裂生成物等が冷却水中に漏洩することがある。また、冷却水が接する機器や配管の内面等のすべてにわたって腐食を完全に防止することは困難であり、したがって、微量ではあるが冷却水中に放射性物質が現れることは避けられないところ、その大部分は、原子炉冷却系統設備内に閉じ込められるが、一部は、冷却水の清浄度を保つために行う浄化処理の過程において原子炉冷却系統設備外に取り出され、また、復水器から抽出される空気あるいはポンプ、バルブ等から漏洩してくる水と共に原子炉冷却系統設備外に漏洩する。したがって、これら原子炉冷却系統設備外に現れる放射性物質については、放射性廃棄物廃棄設備により適切な処理を行い、環境への放出をできる限り低く抑える必要がある。

本件安全審査においては、本件原子炉施設には、以下のとり、原子炉冷却系統設備外に現れる放射性物質について、気体、液体、固体の各形態に応じて適切に処理し得る放射性廃棄物廃棄設備(別紙四のとおり)が設けられていることが確認された。

(1) 気体状の放射性物質の場合

本件原子炉施設において発生する主な気体状の放射性物質としては、①平常運転時に、復水器内の真空を保つため復水器空気抽出器により復水器内から連続的に抽出される空気中に含まれる放射性物質、②タービンの停止後比較的短時間のうちにこれを再起動させる場合に、復水器内を真空にするために用いられる真空ポンプの運転により復水器内から間欠的に放出される空気中に含まれる放射性物質、③ポンプ、バルブ等から漏洩する冷却水の蒸気等により原子炉建家内等の空気に含まれる放射性物質の三種類があり、これらの気体状の放射性物質には、クリプトン、キセノン等の希ガス、空気中に浮遊する粒子状の放射性物質等がある。

本件原子炉施設においては、右①は、空気抽出器を通った上、減衰管で約三〇分間減衰され、更に、粒子状放射性物質を補足するフィルタ(濾過器)で固形物が除去されたのち、希ガスを長時間貯留してその濃度を低減させる効用を有する活性炭式希ガスホールドアップ装置、希ガス等を拡散、希釈するための高さ約一五〇メートルの排気筒を経て排気されることになっているほか、右②は、そのような間欠放出の回数は少なく、一回当たりの放射性物質の放出量も少ないことから、拡散、希釈するための右排気筒を経て排気され、更に、右③は、粒子状の放射性物質を捕捉するフィルタで固形物が除去されたのち、拡散、希釈するための排気筒を経て排気されることになっている。

(2) 液体状の放射性物質の場合

本件原子炉施設において発生する主な液体状の放射性物質としては、①ポンプ、バルブ等からの漏洩水等のうち、放射能濃度が高く、不純物が少ない機器ドレン廃液及び放射能濃度が低く不純物が多い床ドレン廃液、②復水脱塩装置や放射性廃棄物廃棄設備で使用された樹脂を再生する際に発生する再生廃棄等の放射能濃度が高く、不純物が多い化学廃液、③発電所の従業者が使用した衣類等の洗濯により発生する廃液で、放射能濃度が低い洗濯廃液の三種類がある。

本件原子炉施設において、右①のうち機器ドレン廃液は、収集タンクに集められ、クラッド除去装置及び濾過装置を経て放射化生成物を含む固形分が取り除かれたのち、イオン状の不純物を取り除くための脱塩装置を経て、復水貯蔵タンクに送られ、処理水は原子炉の冷却水等として再使用されており、右①のうち床ドレン廃液及び右②の化学廃液は、収集タンクに集められたのち、蒸留して不純物を分離するための蒸発濃縮装置、蒸留水のイオン状の不純物を取り除くための脱塩装置等を経て、処理水は原子炉の冷却水等として再使用され、蒸留した際に残る濃縮廃液は、固体状の放射性物質として処理される。また、③の洗濯廃液は、収集タンクに集められたのち、固形分を除くための濾過装置等を経て、処理水は復水器冷却用の海水に混合、希釈し、環境へ放出されることになっている。

(3) 固体状の放射性物質の場合

本件原子炉施設において発生する主な固体状の放射性物質としては、①右(2)の冷却水の浄化処理等のために使用される脱塩装置等から発生する使用済樹脂、②右(2)の床ドレン廃液及び化学廃液の蒸発濃縮処理の結果として残る濃縮廃液、③機器の点検や修理の際に冷却水に触れるなどして放射性物質が付着した布切れや紙くず、気体状の放射性物質を捕捉するために使用されたフィルタ等の雑固体廃棄物の三種類がある。

本件原子炉施設においては、右①のうち比較的放射能濃度が低いものは、固化材と混合してドラム缶詰めする装置によってドラム缶詰めされ、比較的放射能濃度が高いもの及び右②は、貯蔵タンクに貯蔵して放射能を減衰させた上、ドラム缶詰めされる。また、右③は、圧縮減容する装置を経て、ドラム缶詰めされることになっており、更に、右の各ドラム缶は、固体廃棄物貯蔵庫に貯蔵、保管される。

(六) 公衆の被曝線量の評価

原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出された気体状及び液体状の放射性物質は大気中や海水中において拡散、希釈するが、公衆は、この拡散、希釈した放射性物質から放出される放射線によって被曝したり、更には、この拡散、希釈した放射性物質を吸入したり、それを取り込んだ海産物等を摂取したりすること等によって被曝することがあり得るが、本件安全審査においては、本件原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質について、以下のとおり、公衆の被曝線量の評価の妥当性の審査を行い、その結果、右評価は適切にされており、かつ、その評価値は許容被曝線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと、線量目標値指針に定められた線量目標値をも下回るものであると判断された。

(1) 本件安全審査においては、本件原子炉施設の平常運転に伴う公衆の被曝線量評価方法の妥当性について以下のとおり検討し、いずれも妥当なものと判断された。

ア 本件原子炉施設から平常運転時(年間稼働率八〇パーセント)に大気中に放出される気体状放射性物質のうち、①復水器から連続的に抽出される空気中に含まれる放射性希ガスの放出率は、毎秒1.1ミリキュリー(年間放出量約二万八〇〇〇キュリー)、②原子炉建家等の換気設備から連続的に放出される空気中に含まれる放射性希ガスの放出率は、毎秒0.68ミリキュリー(年間放出量約一万七〇〇〇キュリー)、③真空ポンプの運転により間欠放出される放射性希ガスの一回当たりの放出量は一〇〇〇キュリー、年間の放出回数は五回、④真空ポンプの運転による間欠放出及び換気設備系から連続的に放出される放射性ヨウ素の放出量は年間約5.5キュリーとそれぞれ想定されているが、これらは、先行炉の実績を踏まえ、あるいは、先行炉の実績値(毎秒0.3キュリー)よりも高い全希ガス漏洩率(毎秒0.4キュリー)に基づいて計算されたものである。

また、本件原子炉施設から大気中に放出された気体廃棄物の拡散、希釈の状況については、気象条件は、季節毎の変化を考慮して本件原子炉施設敷地周辺における昭和四六年三月から同四七年二月までの気象観測で得られた実測値を用いて計算し(但し、静穏時の場合は、風速を毎秒0.5メートルとし、風速毎秒0.5ないし2.0メートルのときの風向出現頻度に応じて各風向きに比例分配した。)、線量の計算は、排気筒を中心として一六万位に分割した陸側一〇方位の周辺監視区域境界外について行い、希ガスのガンマ線による全身被曝線量が最大となる地点での線量を求めた。

イ 本件原子炉施設から平常運転時に海水中へ放出される液体廃棄物中の放射性物質(トリチウムを除く。)の年間放出量は、洗濯廃液中の約0.55キュリー、濃縮処理による発生蒸気の凝縮水中の約0.03キュリー、トリチウムの環境放出量は年間一〇〇キュリー以下と、いずれも我が国における先行炉の実績等から推定されることから、液体廃棄物等の放射性物質による全身被曝線量及び甲状腺被曝線量の評価を行う際には、液体廃棄物処理系統の運用の変動を考慮して、トリチウムを除く液体廃棄物の年間放出量を一キュリー、トリチウムの年間放出量を一〇〇キュリーと想定した。

また、本件原子炉施設から海水中に放出された液体廃棄物の拡散、希釈の状況については、復水器冷却水放水口に放出された液体廃棄物は、実際はその放出後、前面海域において拡散、希釈することによってその濃度は低くなるにもかかわらず、その効果を無視し、右放水口における濃度がそのまま用いられた。

(2) 本件安全審査においては、右のような各種の条件を設定して、本件原子炉の平常運転に伴う公衆の被曝線量を計算した場合、希ガスから放出されるガンマ線による全身被曝線量が最大となる地点は、排気筒南方約七四〇メートルの周辺監視区域境界であり、その線量は年間約0.3ミリレムであること、液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量が年間約0.2ミリレムであること、したがって、全身被曝線量値は合計して年間約0.5ミリレムと評価されること、また、気体廃棄物中に含まれる放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝腺量が最大となる地点は、将来の集落の形成や葉菜又は牛乳摂取による被曝経路の存在を考慮すると、排気筒の南約1.2キロメートルの敷地境界外であり、その地点における気体廃棄物中の放射性ヨウ素の呼吸、葉菜及び牛乳摂取による年間の甲状腺被曝線量は、成人で約0.2ミリレム、幼児で約1.4ミリレム、乳児で約1.2ミリレムであること、液体廃棄物中に含まれる放射性ヨウ素による甲状腺被曝腺量は、海藻類を摂取する場合、成人で年間約0.02ミリレム、幼児及び乳児で年間約0.05ミリレムとなり、海藻類を摂取しない場合、成人で年間約0.01ミリレム、幼児で年間約0.04ミリレム、乳児で年間約0.03ミリレムとなること、気体廃棄物中及び液体廃棄物中に含まれる放射性ヨウ素を同時に摂取する場合の甲状腺被曝線量の最大値は幼児の場合で年間約1.4ミリレムであることが確認された。そして、計算された被曝線量の最大値は、全身被曝線量について年間約0.5ミリレム、甲状腺被曝線量について年間約1.4ミリレムであり、線量目標値指針に定める全身被曝線量(年間五ミリレム)、甲状腺被曝線量(年間一五ミリレム)の線量目標値を下回っており、以上の評価に取り上げられていない原子炉施設からの直接線量及びスカイシャイン線量は、原子炉建家のコンクリート壁等によって十分遮蔽され、人の住居の可能性のある敷地境界において年間五ミリレム以下となることを目標に抑えられ、かつ、また、この線量は、線源が固定されているため、距離が離れるにしたがって急激に減衰するという性質を考慮すると、一般公衆の被曝線量に寄与する地点は、敷地境界近傍に限られ、他の被曝線量として、ベータ線による皮膚被曝線量、海水浴中に受ける被曝線量、大気中に放出された粒子状放射性物質に起因する被曝線量等があるが、これらの被曝線量については、一般に小さい寄与しか与えないことに鑑み、これらによる線量等を考慮しても、周辺監視区域外における被曝線量は、許容被曝線量等を定める件所定の許容被曝線量(年間五〇〇ミリレム)をはるかに下回るものと判断された。

(七) 放射性物質の放出量等の監視

本件安全審査においては、本件原子炉施設には、以下のように、その平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の放出量、環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視することのできる放射線管理設備が設けられていると判断された。

(1) 本件原子炉施設には、気体廃棄物について、活性炭式希ガスホールドアップ装置の前後にそれぞれ放射線量を連続的に監視する放射線モニター、排気筒からの放出量を連続的に監視するために排気筒に放射線モニターが設けられている。

(2) 本件原子炉施設には、液体廃棄物について、環境に放出する前に放射性物質の濃度が十分に低いことを確認するため、一旦サンプルタンクに貯留し、放射性物質の濃度をサンプリングして測定する設備、復水器の冷却水放水路につながる排水環境に放出量を連続的に監視する放射線モニターが設けられている。

(3) 本件原子炉施設の周辺には、環境中の線量率等を監視するためのモニタリングポスト九基が設置され、外部放射線量率を連続監視するほか、気体廃棄物の放出管理及び発電所周辺の一般公衆の被曝評価に資するために発電所敷地内に風速、日射量、放射収支量等を連続観測する設備が設けられている。

3 判断

右2で認定した本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策に関する本件安全審査の審査内容に鑑みると、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえないし、また、本件原子炉が右具体的審査基準に適合し、平常運転時における放射性廃棄物について、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

二本件原子炉施設の平常運転時における公衆の被曝低減対策に係る安全性に関する原告らの主張について

1 気体廃棄物に関する主張について

(一) 間欠放出による気体廃棄物の過少評価に関する主張について

原告らは、間欠放出による気体廃棄物が過少評価されている旨主張する(第六節第二款第一の一1(一))が、前記(一2(六)(1)ア)のとおり、本件安全審査においては、真空ポンプの運転により間欠放出される放射性希ガスの一回当たりの放出量が一〇〇〇キュリー、年間の放出回数が五回と想定されているところ、これは、先行炉の運転実績を参考に、全希ガス漏洩率が毎秒一キュリーのときの真空ポンプ運転一回当たりの放出量を二五〇〇キュリー、運転回数を五回として、年間放出量を一万二五〇〇キュリーとし、これに全希ガス漏洩率である毎秒0.4キュリーを乗じて算出されたものであり(〈書証番号略〉によって認められる。)、前記(一2(六)(1)ア)のとおり、先行炉の実績を踏まえた合理的な放出量と判断されたこと、〈書証番号略〉によれば、本件安全審査当時の昭和五〇年度における東京電力福島第一原発における気体廃棄物の放出実績は、同発電所三号炉までの三基(合計電気出力約二〇三万キロワット)の各放出実績を合計しても一万六〇〇〇キュリーに過ぎないこと、本件原子炉も含めた最近の我が国における沸騰水型原子炉の気体廃棄物の放出実績は、ほとんど検出限界以下、又は極めて低い値となっていることが認められるのに対し、本件安全審査においては、前記(一2(六)(1)ア)のとおり、本件原子炉施設に係る気体廃棄物の推定発生量を、間欠放出による気体廃棄物(年間合計五〇〇〇キュリー)を含めて年間五万キュリーと高めに想定していること、弁論の全趣旨によれば、間欠放出の回数は、単なる原子炉の停止回数を指すものではなく、タービン停止後、比較的短時間に再起動させる際の真空ポンプの運転による放出回数を指すものであって、タービン停止から再起動までに比較的長時間を要するもの、すなわち、右期間中に復水器内の放射性物質の放射能が減衰し、再起動に際し真空ポンプを運転してもそれによって放射性物質が環境に放出されることがほとんどないような停止、具体的には、計画停止や定期検査による停止を含まないと認められることなどの諸事情を総合すると、間欠放出の放出量及び放出回数についての本件安全審査の右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 放射性ヨウ素の被曝線量に関する主張について

原告らは、本件安全審査において、平常運転時に本件原子炉施設から放出される放射性ヨウ素について、その濃縮を考慮した被曝線量評価が欠落している旨主張する(第六節第二款第一の一1(二))が、前記(一2(六))の事実に、〈書証番号略〉及び証人伊藤の証言を総合すれば、本件安全審査においては、平常運転時に本件原子炉施設から放出される放射性ヨウ素について、気体廃棄物及び液体廃棄物中の各ヨウ素が呼吸、葉菜、牛乳及び海産物を介して、成人、幼児及び乳児にそれぞれ摂取されるとした場合における甲状腺被曝線量を評価しており、その際、当然に、空気中又は海水中のヨウ素濃度、空気中のヨウ素が葉菜あるいは牛乳に移行する割合、海産物の濃縮係数、呼吸等により人体に摂取されたヨウ素が甲状腺に移行する割合等も考慮した評価を行っていることが認められ、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) 粒子状放射性物質の被曝線量評価に関する主張について

原告らは、本件安全審査においては、平常運転時に本件原子炉施設から放出される気体廃棄物中に含まれるコバルト六〇、マンガン五四、ストロンチウム九〇、セシウム一三七等の粒子状放射性物質についての被曝線量評価が行われておらず、安全審査における被曝線量評価は不十分である旨主張する(第六節第二款第一の一1(三))。

しかしながら、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、粒子状放射性物質は揮発性でないこと等から、冷却水中に発生しても気体中に移行するものはごく微量であり、また、気体中に移行したものについても放射性廃棄物廃棄設備に設けられたフィルタによって容易に除去できるため、本件原子炉施設から環境に放出される気体廃棄物中に含まれる粒子状放射性物質の量は極めて微量であること、部分被曝に比べれば全身被曝の方がはるかに重要であること、本件安全審査において、本件原子炉施設から放出される気体廃棄物中に含まれる粒子状放射性物質について具体的な線量評価を行わなかったのは、これらの放射性物質の食物中ないし人体内における濃縮を考慮してもなお、その被曝線量は無視できる程度に過ぎず、厳しい条件を設定した公衆の被曝線量評価上は、特にこれを取り上げて具体的に計算、評価するまでもないと判断されたためであることが認められ、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない上、原告らの主張するところは、単に抽象的に、放出される粒子状放射性物質の核種が多種類であり、微量でも内部被曝を与えると指摘するのみであることを考え合わせると、原告らの右主張は失当である。

2 液体廃棄物に関する主張について

(一) 洗濯廃液に関する主張について

原告らは、液体廃棄物による被曝線量評価に関し、洗濯廃液の発生量が常識的には考えられないほど過少数値となっているばかりか、洗濯廃液に起因する放射性物質の量が年間0.55キュリーとなる根拠は何ら示されていないから、本件安全審査における洗濯廃液中の放射性物質の線量評価は不合理である旨主張する(第六節第二款第一の一2(一))が、前記(一2(六)(1)イ)の事実に、〈書証番号略〉及び証人村主の証言を総合すれば、本件安全審査においては、洗濯廃液の発生量を、先行炉である東京電力福島第一原発一号炉の実績に基づき、一日当たり一五立法メートルと想定されたこと、同発電所一号炉の昭和四七年度から同四九年度までの実績では、一日当たり一〇立法メートル以下に過ぎないこと、洗濯廃液中の放射性物質の量は、先行炉の実績等から判断すると非常に少なく、一立方センチメートル当たり約0.0001マイクロキュリーとされ、本件安全審査においては、これに洗濯廃液の年間の発生量を乗じて、洗濯廃液に起因する放射性物質の量を年間0.55キュリーと想定されたことが認められ、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 機器ドレン廃液の環境流出に関する主張について

原告らは、本件安全審査において、原告炉施設の配管のバルブ、ポンプ等から漏れ出る機器ドレン廃液が一滴も環境に放出されないという前提で被曝評価が行われているのは不合理である旨主張する(第六節第二款第一の一2(二))が、本件原子炉施設の基本設計においては、前記(一2(五)(2))のとおり、機器ドレン廃液は、収集タンクに集められ、クラッド除去装置及び濾過装置を経て放射化生成物を含む固形分が取り除かれ、更に、イオン状の不純物を取り除くための脱塩装置を経て、復水貯蔵タンクに送られ、処理水は原子炉の冷却材料等として再使用されることになっていることに鑑みると、機器ドレンが環境に放出されないという前提で被曝評価が行われた本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) 濃縮係数に関する主張について

原告らは、海産物の濃縮係数について、その数値も計算方法も確立したものでないばかりか、我が国においては研究すら行われておらず、本件安全審査に用いられた濃縮係数も外国文献を引用しており、また、対象とした魚や海藻の種類も不明である旨主張する(第六節第二款第一の一2(三))が、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件安全審査において使用された濃縮係数は、トンプソンらの濃縮係数総合報告書から引用した値が用いられていること、右トンプソンらの報告書は、多数の元素につき過去の情報をできるだけ総合してまとめあげたもので、我が国の研究者による成果も多数取り入れられていること、右報告書に取りまとめられた濃縮係数は広い範囲から得られた多数の測定値からその平均レベルを求めたものであること、本件安全審査で使用された濃縮係数には、右報告書のうち、放射性核種の濃縮係数を採らず、一般にそれよりも濃縮係数が高くなる安定元素の濃縮係数を採用していることが認められ、以上の事実によれば、本件安全審査において用いられた濃縮係数が不合理であるということはできないから、原告らの右主張は失当である。

(四) 放出放射性物質の濃度に関する主張について

原告らは、液体廃棄物の放出は間欠的であり、特に定期検査時に放出される液体廃棄物における放射性物質の濃度は通常よりも高いにもかかわらず、年間を通して復水器冷却水に平均的に希釈されるとして被曝線量評価を行っているのは不当である旨主張する(第六節第二款第一の一2(四))が、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件安全審査においては、公衆の被曝線量が十分低く抑えられるようになっているかどうかを判断するに当たって、公衆の年間の累積被曝線量を評価していることが認められるから、液体廃棄物の一様な連続放出を仮定した本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められず、原告らの右主張は失当である。

(五) 核種組成に関する主張について

原告らは、本件安全審査において、液体廃棄物による被曝評価の際、バリウム一四〇、ラタン一四〇、ジルコニウム五一、ニオブ九五、セリウム一四一を評価の対象外としたのは不合理である旨主張する(第六節第二款第一の一2(五))が、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件安全審査においては、液体廃棄物に含まれる核種のうち量が最も重く、かつ全身被曝に支配的なものとして一一核種を採り上げて定量的な被曝評価をすれば、本件原子炉施設の安全性を確認するのに十分であると判断されたことが認められ、そして、液体廃棄物中に含まれる放射性物質による全身被曝線量が年間約0.2ミリレムであると評価されたことは前記(一2(六)(2))のとおりであるから、右主要一一核種以外の核種について定量的評価をしなかった本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

また、原告らは、本件安全審査における液体廃棄物中の放射性物質の核種組成は、敦賀原発の実績に照らすと、被曝線量の評価結果が小さくなるように恣意的に決められている旨主張するが、〈書証番号略〉によれば、本件安全審査における液体廃棄物中の放射性物質の核種組成は、先行炉の運転実績に基づいて定められたものであること、核種組成は、運転・保守の態様、処理水の運用により変動する性質のものであるが、各核種の濃縮係数と線量への換算係数を考慮し、被曝線量の計算結果が安全側になるように核種組成を定めたことが認められ、右核種組成比が恣意的に定められたと認めるに足りる証拠もないから、液体廃棄物中の放射性物質の核種組成に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

したがって、原告らの右主張はいずれも失当である。

(六) 被曝線量評価におけるトリチウムの評価に関する主張について

原告らは、本件安全審査においては、平常運転時に本件原子炉施設から放出されるトリチウムについて十分な審査がなされていない旨主張する(第六節第二款第一の一2(六))が、本件安全審査においては、本件原子炉施設から平常運転時に海水中へ放出される液体廃棄物中のトリチウムが我が国における先行炉の実績等から年間一〇〇キュリー以下と推定されるも、液体廃棄物処理系統の運用の変動を考慮し、トリチウムの年間放出量を一〇〇キュリーと想定されたことは前記(一2(六)(1)イ)のとおりであるから、トリチウムの放出量が不合理なものであるとはにわかに断定できない。そして、〈書証番号略〉及び証人伊藤の証言によれば、トリチウムは海産生物により濃縮されないことが認められ、更に、前記(一2(三))のとおり、本件安全審査における公衆の被曝線量評価は、原子炉施設の平常運転に伴う公衆の被曝経路のうち、人体に対する主要な被曝経路(①放射性希ガスから放射されるガンマ線による外部全身被曝、②ヨウ素に起因する内部甲状腺被曝、③液体として放出された放射性物質(トリチウムを含む。)に起因する内部全身被曝)を対象として行われているところ、これは、主要な被曝経路についての定量的な評価による線量値が十分低ければ、被曝線量評価の対象としなかった経路の被曝線量による寄与分を考慮してもなお、十分低く抑えられるものと判断できると考えられたからである。

以上の事情に鑑みれば、トリチウムの評価に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められず、トリチウムに関する審査が不十分であったとはいえないから、原告らの右主張は失当である。

3 被曝評価方法に関する主張について

原告らは、平常運転時における被曝評価方法は未だ確立したものとはいえず、評価方法によって、平常運転時の被曝評価に関する数値は幾らでも変わり得るものといわざるを得ないから、線量目標値評価指針に則って審査がなされた本件安全審査は、不合理である旨主張する(第六節第二款第一の一3)が、放射性廃棄物の推定発生量等に関する知見は、科学技術の発展と共に不断に進歩、発展し、刻々と新しい知見が生まれていると考えられることに鑑みると、右推定発生量に関する数値に変動があるからといって、直ちに、恣意的な変更であるとはいい難いから、原告らの主張は失当である。

4 ムラサキツユクサに関する主張について

原告らは、市川の原子力発電所周辺におけるムラサキツユクサの雄しべ毛の細胞を用いた突然変異に関する実験結果を根拠に、本件安全審査の際における平常運転時の被曝線量評価は不合理である旨主張する(第六節第二款第一の一4)。

証人市川の証言によれば、市川が原告ら主張のとおりの実験を行い、その結果、原告らの主張するような事実が認められたと発表していることが認められるが、ムラサキツユクサを用いた実験については、ムラサキツユクサの雄しべ毛の細胞が、放射線のみならず、温度、降雨、日照、農薬、自動車排気ガス等の諸要因に対しても高い感受性を示すため、ムラサキツユクサを用いた野外での実験によって、その雄しべ毛の細胞における突然変異の発生に対する放射線の寄与を正確に把握することは現実的にはほとんど不可能に近いし、仮に可能であるとしても、そのためには、実験の方法や実験結果の解析の方法等を極めて慎重かつ緻密に行わなければならないが、それが十分に行われていなかった旨の批判があることは前記(第一の三3(一)(2))のとおりであるから、市川の実験結果をもって、直ちに本件安全審査における被曝評価に誤りがあるものとはいい難い。

5 放射線管理施設に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設における放射線管理施設は何ら機能していないし、同施設に対する本件安全審査も不十分である旨縷々主張する(第六節第二款第一の二)が、前記(一)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策に関し、第一に、本件原子炉施設は、その平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の量を抑制できる対策が採られていること、第二に、本件原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質からの放射線による公衆の被曝線量が適切に評価され、かつ、その評価値は許容被曝線量である年間0.5レムを下回ることはもちろんのこと、線量目標値指針が定める線量目標値を下回ることとなっていることがいずれも確認され、その上で、原子炉施設の平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の量、環境中における線量率等をそれぞれ的確に監視することのできる放射線管理設備が設けられているかどうかが確認されたこと、したがって、本件原子炉施設の平常運転時における被曝低減対策として、すべての放射性物質による放射線を完全に監視することのできる放射線管理設備が設けられる必要まではないものと考えられること、本件安全審査においては、本件原子炉施設に気体廃棄物を監視する放射線モニター、液体廃棄物を監視する放射線モニター等が設置され、本件原子炉施設の周辺には、環境中の線量率等を監視するためのモニタリングポスト九基等が設置されていることが確認されたことなどは、前記(一2(七))のとおりであり、これによって主要な放射線を監視することが可能であると考えられること、前記(第二章第一、二)のとおり、原子炉設置許可に際しての安全審査は、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となることに照らし、各放射線管理設備の詳細な審査は不要であることなどの諸点に鑑みると、放射線管理設備に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

第三本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性

一原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の審査内容

1 はじめに

原子炉施設における安全性の確保は、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないか、という点にあること前記(第一の三1)のとおりであり、そのためには、原子炉施設において、いわゆる多重防護の考え方に基づき、可及的に安全側に立った事故防止対策が講じられなければならない。

2 事実関係

〈書証番号略〉、証人村主の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 安全審査において検討された事項

原子炉施設においては、放射性物質の有する危険性を顕在化させないために、平常運転時に発生する放射性物質のうち(第二の一の2(四)参照)、燃料被覆管内に存在する核分裂生成物等を燃料被覆管内に、冷却材中に存在する核分裂生成物及び腐食生成物等を圧力バウンダリ又はこれを含む原子炉冷却系統設備内にそれぞれ閉じ込め、異常時には、前者を燃料被覆管内に、後者を圧力バウンダリにそれぞれ閉じ込め、これらが環境へ放出されないように防止する必要があり、そのためには、燃料被覆管や圧力バウンダリ等の健全性が損なわれるおそれのある事態が発生しないような対策を講じる必要がある。具体的には、まず、燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の発生を防止することが基本となり、次に、右異常が発生した場合においては、それが拡大したり、更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで発展拡大することを防止することが必要となり、また、仮に放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態が発生した場合においてもなお、放射性物質の環境への異常な放出という結果を防止するといういわゆる多重防護の考え方に基づいた各種の事故防止対策が原子炉施設の安全性を確保するために講じられる必要がある。

本件原子炉施設の事故防止対策に関し、本件安全審査において検討された事項は、以下のとおりであり、その際、原子力委員会が指示した①ECCS安全評価指針、②安全設計審査指針の各指針が用いられ、また、安全審査会が作成した①「沸騰水型原子炉に用いる八行八列型の燃料集合体について」(昭和四九年一二月)、②「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」(同五一年二月)、③「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用について」(同五二年二月)、④「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方法について」(同年五月)、⑤「取替炉心検討会報告書」(同月)の各報告書が活用された。

(1) 異常発生防止対策

本件原子炉施設は、燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の発生を防止することができるかどうか、これらの健全性に影響を与える他の機器等の異常の発生を防止することができるかどうか、具体的には、①燃料の核分裂反応を確実かつ安定的に制御することができるかどうか、②核分裂生成物等を閉じ込めるべき燃料被覆管は、熱的、機械的、化学的影響によってその健全性が損なわれることのない余裕のあるものかどうか、③放射性物質を閉じ込めるべき圧力バウンダリは、機械的、化学的影響によってその健全性が損なわれることのない余裕のあるものかどうか、④燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備は、これらに起因する異常の発生を防止し得る信頼性が確保されるかどうかを確認する。

(2) 異常拡大防止対策

本件原子炉施設は、異常が発生した場合においても、それが拡大したり、更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで発展することを防止できるかどうか、具体的には、①燃料被覆管及び圧力バウンダリ並びにこれらの健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に異常が発生した場合、所要の措置が採れるよう、その異常の発生を早期にかつ確実に検知し得るかどうか、②燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に発生した異常が大きなものであり、それに対し、迅速な措置を講じなければ燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性が損なわれるおそれのある場合に備え、所要の安全保護設備が設置されるかどうか、③安全保護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮し、信頼性が確保されるかどうか、④安全保護設備等の設計の総合的な妥当性に関する解析評価(原子炉施設の寿命期間中にその発生が予測される代表的な起因事象を幾つか想定し、その評価結果が厳しくなるような前提条件を設定して行う解析評価、以下「運転時の異常な過渡変化解析」という。)によっても、燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性を確保できることとなっているかどうかを確認する。

(3) 放射性物質異常放出防止対策

本件原子炉施設は、放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態が発生した場合においても、放射性物質の環境への異常な放出という結果を防止し、公共の安全を確保することができるかどうか、具体的には、①圧力バウンダリを構成する配管の破断等が発生する場合に備え、所要の安全防護設備が設置されるかどうか、②安全防護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮し、信頼性が確保されるかどうか、③安全防護設備等の設計の総合的な妥当性に関する解析評価(原子炉施設において現実に発生する可能性は極めて少ないが、あえて放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態をもたらす代表的な起因事象を幾つか想定し、その評価結果が厳しくなるような条件設定して行う解析評価、以下「事故解析」という。)によっても、放射性物質の環境への異常な放出が防止できるかどうかを確認する。

(二) 異常発生防止対策について

本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設は、その基本設計において、燃料被覆管や圧力バウンダリ自体における異常の発生を防止するとともに、これらの健全性に影響を与える他の機器等の異常の発生を防止するところの異常発生防止対策が講じられるものと判断された。

(1) 燃料の核分裂反応の確実かつ安定的制御

燃料被覆管や圧力バウンダリの健全性を維持し、原子炉における異常の発生を防止するためには、まず、燃料の核分裂反応を確実に、かつ安定的に制御する必要があるところ、本件原子炉施設において使用される燃料の濃縮度(燃料中の全ウランに対するウラン二三五の占める重量の割合)は、平均で約2.2パーセントと低濃縮度のものであり、また、本件原子炉は、軽水型原子炉であって、核分裂反応の割合が増大して燃料及び冷却材の各温度が上昇すれば、それに伴って核分裂反応が制御されるという性質、すなわち、核分裂反応に対して固有の自己制御性を有することから、燃料の制御不能な核分裂反応が生ずることはない仕組みになっているほか、本件原子炉施設には、燃料の核分裂反応を安定的に制御する反応度制御系(制御棒)、再循環流量制御系等からなる原子炉出力制御設備が設けられている。本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設は、燃料の核分裂反応を確実に、かつ安定的に制御することができるものと判断された。

(2) 燃料被覆管の健全性の維持

本件原子炉に使用される燃料被覆管はジルカロイー2製で、外径が12.5ミリメートル、燃料棒有効長が三七一センチメートル、燃料被覆管厚が0.86ミリメートル、燃料ペレットとの間隔が0.23ミリメートルであり、燃料ペレットの大きさは、直径が10.6ミリメートル、高さが一一ミリメートルである。燃料被覆管の上端には約三〇センチメートルの空間(プレナム)が設けられており、ここに、核分裂で生成されたガス状の生成物を溜めて、被覆管内の圧力が過度にならないようにしてある。本件原子炉稼働中は、燃料ペレットの中心部の温度は、約一八三〇度に達するが、燃料ペレットの熱伝導率が低いため、燃料ペレットの表面温度は約五〇〇度、燃料被覆管最高温度は約三八〇度に止まる。

燃料ペレットを密封し、核分裂生成物等を閉じ込めている燃料被覆管は、損傷を防止し、その健全性を維持するために余裕をもった設計が行わなければならないが、燃料被覆管を損傷させる要因として、①核分裂反応によって発生する熱に比べて除去される熱が少ないために燃料被覆管の温度が上昇し、燃料被覆管が焼損すること、②燃料ペレットと燃料被覆管との相対的な熱膨張差によって生じるひずみにより燃料被覆管が機械的に損傷してしまうこと、③燃料ペレットから浸出した、主としてガス状の核分裂生成物等による内圧や冷却材による外圧等により燃料被覆管が機械的に損傷すること、④燃料被覆管が冷却材中の不純物等により化学的腐食を起こし損傷することが等が挙げられる。

本件原子炉施設においては、定格出力(電気出力約一一〇万キロワット)で運転等における最小限界出力比が、燃料被覆管を焼損させないための限界値1.07を十分に上回る1.19以上に維持し得るように設計され、燃料被覆管の焼損防止策が施されている。また、燃料ペレットと燃料被覆管の熱膨張差は、平常運転時における燃料の単位長さ当たりの発熱量(線出力密度)の大小に依存するところ、発熱量は、燃料被覆管が損傷を起こすおそれの生じる約八三キロワット毎メートルを十分に下回る約四四キロワット毎メートル以下に抑えられており、本件原子炉施設には、燃料ペレットとの熱膨張差による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施されている。更に、本件原子炉施設において使用される燃料被覆管が十分な強度をもって設計され、内圧や外圧等による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施され、また、燃料被覆管には耐食性に優れた金属(ジルカロイ―2)が使用されることから、燃料被覆管の化学的腐食による損傷防止策も施されている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設の燃料被覆管は、熱的、機械的、化学的影響によってその健全性が損なわれることのない、余裕のあるものが使用されると判断された。

(3) 圧力バウンダリの健全性の維持

燃料被覆管とともに放射性物質を閉じ込める重要な機能を担う圧力バウンダリも、その健全性を維持することのできる余裕をもった設計が行わなければならないが、圧力バウンダリを損傷させるに至る要因として、①圧力容器内の圧力等が過大となって圧力バウンダリが機械的に損傷すること、②圧力バウンダリ自体が核分裂反応による中性子照射を受け続けることにより脆性破壊を起こすこと、③圧力バウンダリが冷却材中の不純物等により化学的腐食を起こして損傷すること等が挙げられる。

本件原子炉施設においては、圧力容器の設計圧力が約八八キログラム毎平方センチメートルに設定され、圧力容器内の圧力を圧力制御装置によって自動的に約七一キログラム毎平方センチメートルに保つように設計されており、圧力バウンダリの機械的損傷の防止策が施され、また、①脆性破壊防止を十分考慮した延性の高い材料が使用され、②圧力容器内に脆性遷移温度の変化を知るための試験片が取り付けられ、③圧力容器の最低使用温度を脆性遷移温度より摂氏三三度以上高くすることができるように設計されており、圧力容器の脆性破壊防止策も施されている。更に、本件原子炉施設においては、①必要に応じて、耐食性に優れた材料であるステンレス鋼が使用され、②腐食の要因となる冷却材中の塩素濃度、pH値等が管理されているなど、冷却材について、適切な水質管理が出来るように設計されており、圧力バウンダリの化学的腐食による損傷防止策が施され、また、圧力バウンダリを構成する機器及び配管は、運転開始後の検査によって、その健全性を確認できるように設計されている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設の圧力バウンダリは、機械的、化学的影響によってその健全性が損なわれることのない、余裕のあるものであると判断された。

(4) 燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備の信頼性の確保

燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備は、信頼性が確保され、原子炉が安定して運転し得るだけの余裕のある設計がされなければならないが、燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備としては、燃料棒を支持する炉心支持構造物等の圧力容器内部の構造物、原子炉冷却系統設備、原子炉出力制御設備等があるが、これらの設備については、①性能や強度等に余裕をもった設計とし、また、②誤操作防止のため、運転員の操作に対する適切な配慮をするとともに、③必要な場合には自動制御装置を設置する必要がある。

本件原子炉施設においては、右各設備がいずれも性能や強度等に十分な余裕をもって設計され、①原子炉冷却系統設備や原子炉出力制御設備等に、各設備の状態を正確に把握することができるように、圧力、温度、流量等を測定する計測装置が設けられ、②原子炉出力制御設備には、運転員が誤って制御棒を引き抜こうとしても同時に二本以上引き抜けなくする等のインターロックが掛かる装置が設けられており、誤操作の防止策が講じられている。更に、本件原子炉施設には、平常運転中タービン入口の蒸気加減弁を自動的に作動させることにより圧力容器内の圧力を一定に保持する圧力制御装置、並びに主蒸気流量、給水流量及び原子炉水位の三要素により圧力容器内の水位を自動的にあらかじめ設定された値に保持する水位制御装置が設けられるなど、原子炉の運転が正常な状態からずれた場合、これを自動的に修正する自動制御装置が設けられている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設における燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備は、信頼性が確保され、原子炉は安定して運転し得るものと判断された。

(三) 異常拡大防止対策について

本件安全審査においては、以上のとおり、本件原子炉施設について異常発生防止対策が講じられていると判断されたが、それにもかかわらず異常が発生した場合に備えて、以下のとおり、本件原子炉施設は、その基本設計において、異常が拡大したり、更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで発展することを防止する対策が講じられていると判断された。

(1) 異常発生の早期かつ確実な検知

燃料被覆管及び圧力バウンダリ並びにこれらの健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に異常が発生した場合に所要の措置が採れるよう、異常の発生を早期に、かつ確実に検知する必要があるが、本件原子炉施設には、燃料被覆管の損傷を検知するために、冷却材中の放射能レベルを測定監視する計測装置、圧力バウンダリを構成する機器等からの冷却材の漏洩を検知する漏洩監視装置、原子炉の出力や原子炉冷却系統設備等の圧力、温度、流量等を測定監視する計測装置等が設置され、異常の発生を検知した場合には、原子炉の停止等所要の措置が採れるように、直ちに警報を発する警報装置が設けられている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設は、異常の発生を早期にかつ確実に検知し得るものと判断された。

(2) 安全保護設備の設置

燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある設備に発生した異常が大きなものであり、それに対し、迅速な措置を講じなければ燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性が損なわれるおそれのある場合に備え、所要の安全保護設備が設置される必要があるが、本件原子炉施設においては、①原子炉冷却系統設備等に何らかの異常が発生し、圧力容器内の内圧の上昇や水位の低下等が生じた場合に、必要に応じて原子炉を緊急に停止させるために全制御棒が自動的に、かつ瞬間的に挿入される原子炉緊急停止装置が設けられ、②給水系による圧力容器への給水が停止した場合に、自動的に圧力容器へ給水することにより、圧力容器内の水位を維持するとともに原子炉停止後も残存する炉心の崩壊熱等を除去するための原子炉隔離時冷却系設備等が設けられ、更に、③圧力バウンダリ内の圧力が過度に上昇するような異常が生じた場合に、圧力バウンダリ内を減圧する逃し安全弁が設けられている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設には、燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある異常に備え、所要の安全保護設備が設置されるものと判断された。

(3) 安全保護設備の信頼性の確保

安全保護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮しなければならないことはいうまでもないが、本件原子炉施設においては、①安全保護設備がいずれも十分な性能、強度等を有するように設計され、②安全保護設備のうち原子炉緊急停止装置については、右装置用の電源が何らかの原因で喪失した場合においても自動的に制御棒が炉心内に挿入され、原子炉を停止させる能力を有するように設計されるとともに、右装置を作動させる回路は多重性と独立性とを有するように設計されており、また、全制御棒のうちの最大反応度価値を有する制御棒一本が完全に引き抜かれている状態を仮定した場合においても、その他の制御棒を挿入することによって原子炉を停止する能力を有するように設計され、③原子炉隔離時冷却系設備等については、外部電力を用いず、圧力容器内で炉心の崩壊熱により発生する蒸気の一部を用いてタービン駆動のポンプを作動させることにより、原子炉停止後の崩壊熱等の除去及び圧力容器内の水位の維持を行う能力を有するように設計されている。更に、④主蒸気系の安全弁については、構造が簡単で信頼性が高く、かつその開閉動作について電源等を一切必要としないバネ式のものが使用され、⑤安全保護設備は、その信頼性を常に保持するため、運転開始後もその性能が引き続き確保されていることを確認するための試験を行えるように設計されている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設に設置される安全保護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮し得ると判断された。

(4) 安全保護設備等の設計の総合的な妥当性の解析評価

本件原子炉施設の安全保護設備は、以上のとおり、いずれも信頼性が確保されるものと判断されたが、本件安全審査においては、更に、以下のとおり、運転時の異常な過渡変化解析が行われ、安全保護設備等の設計の総合的な妥当性が審査された。

すなわち、具体的には、右の異常な過渡変化として、本件原子炉施設の寿命期間中にその発生が予想される代表的な異常事象である①再循環系の過渡変化(再循環ポンプ一台軸固着、再循環ポンプトリップ、再循環流量制御器誤作動、再循環ループ誤作動)、②給水系の過渡変化(給水制御器故障、給水加熱喪失、全給水流量喪失)、③主蒸気系の過渡変化(発電機負荷遮断、タービン・トリップ、主蒸気隔離弁閉鎖、圧力制御装置の故障、逃し安全弁の開放)、④制御棒系の過渡変化(起動時における制御棒引抜、出力運転中の制御棒引抜)、⑤その他の過渡変化(高圧スプレイ系の誤起動、外部電源喪失)を想定し、これらの事象について、安全保護設備のうち最もその評価結果が厳しくなるような機器の一つが単一の事象に起因して故障し(但し、単一の事象に起因して必然的に起こる多重故障を含む。)、その機器の有する安全上の機能が発揮されないこと(以下「単一故障」という。)を想定するなどの厳しい前提条件を設定して行われた解析結果が検討された。その結果、最小限界出力比は、最も厳しい過渡現象である給水加熱喪失時及び発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不作動)時でも、限界値1.07を下回ることがないこと、燃料の線出力密度が最も厳しくなる出力運転中の制御棒引抜時においても、線出力密度は、約五六キロワット毎メートルであり、燃料被覆管の一パーセント塑性歪に対応する線出力密度を下回っていること、急激な反応度増加を伴う過渡現象として取り上げた起動時の制御棒引抜の場合の燃料ペレット最大エンタルピも許容設計限界値を下回っていることから、いかなる運転時の異常な過渡変化時においても、燃料被覆管の許容設計限界を超えることはないと判断され、また、早期炉心において原子炉圧力が最大となる発電負荷遮断(タービン・バイパス弁不作動)時の、最大圧力は、79.8キログラム毎平方センチメートルであり、平衡炉心末期のスクラム特性の劣化を考慮しても、最大圧力は、80.1キログラム毎平方センチメートルに抑えられ、これらの数値は設計圧力の1.1倍の圧力(96.7キログラム毎平方センチメートル)を下回っていることから、圧力バウンダリの健全性が保たれていると判断された。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉は、沸騰水型原子炉がもつ自己制御性と種々の安全保護機能の動作があいまって、運転中に起こる異常な過渡変化を安定的に制御し、燃料被覆管及び圧力バウンダリの健全性を保持できることが確認された。

(四) 放射性物質異常放出防止対策について

本件安全審査においては、以上のとおり、本件原子炉施設について異常発生防止対策及び異常拡大防止対策がそれぞれ講じられているものと判断されたが、それにもかかわらず、放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態が発生した場合に備えて、以下のとおり、放射性物質の環境への異常放出という結果を防止する対策が講じられているかどうかが検討され、その結果、右の対策が講じられていると判断された。

(1) 安全防護設備の設置

放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態の発生に備え、所要の安全防護設備が設置される必要があるが、本件原子炉施設には、①別紙五のとおり、燃料被覆管の重大な損傷を防止するに十分な量の冷却材を炉心に注入するための高圧炉心スプレイ系一系統、自動減圧系一系統、低圧炉心スプレイ系一系統及び低圧注水系三系統からなるECCS、②圧力バウンダリから放出される放射性物質を閉じ込めるための高い気密性(漏洩率は、一日当たり0.5パーセント以下)を有する格納容器、③圧力バウンダリから高温の蒸気等が放出された場合に格納容器の健全性を確保するため、格納容器内の雰囲気(格納容器内部の空間の状態)を冷却、減圧し、更に、右蒸気中に浮遊している放射性物質を洗い落とす格納容器スプレイ冷却系設備及び④格納容器から原子炉建家内に漏洩した放射性物質を環境に異常に放出させないための放射性物質除去フィルタ(設計上のヨウ素除去率九九パーセント以上)等からなる非常用ガス処理系設備等が設けられている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設には、圧力バウンダリを構成するいかなる配管の破断等の異常を想定しても、放射性物質を環境に異常に放出することを防止し得る安全防護設備が設置されるものと判断された。

(2) 安全防護設備の信頼性

安全防護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮しなければならないことはいうまでもないが、①本件原子炉施設に設置される安全防護設備は、いずれも十分な性能、強度等を有するように設計されるとともに、定期的な試験、検査を実施できるように設計され、②ECCSは、炉心への注水機能を有する高圧炉心スプレイ系一系統、低圧炉心スプレイ系一系統及び低圧注水系三系統、並びに原子炉の減圧機能を有する自動減圧系一系統から構成されているところ、これらの各系統は、外部電源が喪失した場合に備えて、非常用電源により作動させ得るように設計され、注水機能を有する系統については、低圧炉心スプレイ系一系統及び低圧注水系一系統(区分Ⅰ)、低圧注水系二系統(区分Ⅱ)、高圧炉心スプレイ系一系統(区分Ⅲ)の独立した三区分に分離され、それぞれ一台のディーゼル発電機に、また、自動減圧系については蓄電池に接続されている。そして、中小口径破断時には、区分Ⅲが作動するが、仮にこの区分が作動しない場合でも自動減圧系が作動すると共に、これと連携して区分Ⅰ及び区分Ⅱの二区分が作動し、大口径破断時には、区分Ⅰ、区分Ⅱ及び区分ⅢのⅢ区分が作動し、いずれも一区分の不作動があっても対処できるなど、これらの系統は、圧力バウンダリを構成するいかなる配管の破断の際にも、右三区分のうち一区分の系統の不作動があっても対処できる設計とされている。更に、③格納容器は、脆性破壊を防止するため、最低使用温度より摂氏一七度以上低い脆性遷移温度を有する材料が使用され、更に、冷却材喪失事故時に格納容器の隔離機能を確保するため、格納容器を貫通する配管のうち閉鎖を要求されるものについて隔離弁が設けられ、④格納容器スプレイ冷却系設備及び非常用ガス処理系設備は、いずれも十分な性能を有する互いに独立した二つの系統が設けられ、かつ、外部電源が喪失した場合に備えていずれもディーゼル発電機等の非常用電源により作動させ得るように設計されている。

本件安全審査においては、右の諸点が確認された結果、本件原子炉施設に設置される安全防護設備は、いずれも確実に所期の機能を発揮し得るものと判断された。

(3) 安全防護設備等の設計の総合的な妥当性の解析評価

本件原子炉施設の安全防護設備は、以上のとおり、いずれも信頼性が確保されるものと判断されたが、本件安全審査においては、更に、以下のとおり、あえて放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態の発生を想定した場合の事故解析が行われ、安全防護設備等の設計の総合的な妥当性が審査された。

すなわち、具体的には、①反応度事故として、制御棒落下事故、②圧力バウンダリにある機器の破損、配管の破断によって引き起こされる事故として、冷却材喪失事故、③圧力バウンダリ外にある機器の破損、配管の破断等によって引き起こされる事故として、主蒸気管破断事故、④機器取扱事故として、燃料取扱事故、⑤放射性廃棄物廃棄施設における事故として、活性炭式希ガスホールドアップ装置破損事故を想定し、これらの事象について、単一事故を過程した上で、評価結果が厳しくなるような前提条件を設定して行われた解析結果が検討された。その結果、本件安全審査においては、本件原子炉施設は、万一、放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態が発生しても、放射性物質の環境への異常な放出を防止できるものとなっていることが確認され、本件原子炉施設の安全防護設備等の設計は、総合的にみて妥当なものであると判断された。

3 判断

右2で認定した原子炉施設の事故防止対策に係る本件安全審査の審査内容に鑑みると、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえないし、また、本件原子炉が右具体的審査基準に適合し、その基本設計において、事故防止対策に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、事故防止対策との関連において、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

二本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性に関する原告らの主張について

1 炉心燃料部の健全性に関する主張について

(一) 炉心燃料部材の適格性に関する主張について

原告らは、核燃料や燃料被覆管を取り巻く環境条件が過酷であることに鑑みると、本件原子炉の燃料被覆材として用いられているジルカロイは、放射線照射による機械的、化学的変化等において必ずしも優れた特性を有しているとは認め難く、また、他の工業分野での使用実績は全くなく、未だ試用段階、実験段階にあり、炉心材料として不適格である旨主張する(第六節第二款第二の二2(二))が、前記(一2(二)(2))の事実に、〈書証番号略〉、証人村主の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、ジルカロイは、一九五〇年代後半に商業用軽水炉が出現して以来、中性子の吸収が少ないこと、強度や延性が大きいこと、中性子照射による性能劣化が小さいこと、冷却材に対する耐食性に優れていること等が総合的に判断された結果、燃料被覆管の材料として最適のものとされて一貫して使用されていること、沸騰水型原子炉に使用されたジルカロイ―2被覆管燃料棒は、一九七四年(昭和四九年)九月までに八一万本使用されているが、被覆管に損傷を生じた燃料棒は、0.76パーセント程度であり、その間にも各種材料について種々の開発、研究が行われ、一九七三年(昭和四八年)に改良型七行七列配列の燃料集合体、一九七四年(昭和四九年)に本件原子炉と同様の八行八列配列の燃料集合体が採用されて以来損傷率は非常に少なくなっていることが認められる。

更に、原告らは、ジルカロイ以外に、燃料集合体の部材として使用されているステンレス鋼、インコネル―Xについても、炉心部材としての適格性を欠く旨主張する(第六節第二款第二の二2(二))が、〈書証番号略〉によれば、これらの部材も過去の経験から沸騰水型原子炉の条件に十分適合でき、原子炉の運転中にその設計目的を十分満足できると報告されていることが認められる。

したがって、炉心燃料部材の適格性に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は、いずれも失当である。

(二) 平常運転時の炉心燃料部の健全性の欠如に関する主張について

(1) 原告らは、本件原子炉においては、燃料ペレットに焼きしまり現象が生じることが予想され、その結果、燃料ペレットと燃料被覆管、燃料ペレットと燃料ペレットとの熱伝達を低下させ、燃料ペレットの中心温度が上昇して燃料溶融の危険性が生ずる旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(1)ア)が、〈書証番号略〉によれば、一九七〇年(昭和四五年)の初め、加圧水型原子炉の一部で、燃料棒の部分がつぶれているものが発見されたが、これは、照射下で生じる燃料ペレットの密度の上昇現象である焼きしまり現象と分かったこと、その後、焼きしまり現象に対する研究が進められ、加圧水型原子炉の燃料の場合、燃料ペレットの密度、焼結温度を上昇させるなどの防止策を講じたこと、本件原子炉のような沸騰水型原子炉の燃料の場合は、もともと焼きしまり現象を生じ難い燃料ペレットが使用されているなどの理由から、燃料棒のつぶれにまでは至っていないこと、本件原子炉においても、燃料ペレットの密度を約九五パーセントの高密度に焼結するとともに、照射中の焼きしまりを小さくするよう製造方法を考慮していることが認められ、右の諸点に鑑みれば、原告らの右主張は失当である。

(2) 原告らは、燃料ペレットが砂時計状に変形したり、核分裂による気体状及び固体状の核分裂生成物が燃料ペレット内に蓄積し、燃料ペレットの体積が増大するという照射スウェリング現象によって、燃料被覆管が影響を受け、破損するおそれがある旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(1)イ、ウ)が、前記(一2(二)(2))のとおり、平常運転時における燃料の単位長さ当たりの発熱量(線出力密度)が、燃料被覆管が損傷を起こすおそれの生じる約八三キロワット毎メートルを十分に下回る約四四キロワット毎メートル以下に抑えられ、本件原子炉施設には、燃料ペレットとの熱膨張差による燃料被覆管の機械的損傷防止策が施されていること、前記(一2(二)(2))の事実に、〈書証番号略〉及び証人村主の証言を総合すれば、本件原子炉においては、かような燃料ペレットの変形の事実を前提にした上、燃料ペレットの変形に基づく燃料被覆管の局所的な歪みによる損傷を減少させる対策として、短尺チャンファ付ペレットを使用し、強度及び延性の点で優れたジルカロイ―2を燃料被覆管材としていること、燃料ペレットと燃料被覆管との間に0.23ミリメートルの間隔が設けられているが、右間隔は、熱膨張と照射スウェリングによって燃料被覆管に過大な歪みが生じないように定められたものであり、燃料ペレットの膨張等に備えていること、その上で、燃料被覆管の歪みの限界を、燃料ペレットと燃料被覆管の間隔と照射された試料についての試験結果から安全と判断された一パーセントとしていることが認められ、右の諸点に鑑みれば、原告らの右主張は失当である。

(3) 原告らは、燃料被覆管は、中性子等の照射によって、耐力、張力等の強度が増加する反面、延性が著しく減少するため、燃料被覆管の脆性破壊(塑性変形を伴わない破壊)の原因となる旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)ア)が、前記((一))のとおり、燃料被覆管の部材として最適とされ、安全面においても実績のあるジルカロイ―2が使用されているから、原告らの右主張は失当である。

(4) 原告らは、燃料の燃焼の進行とともに冷却材圧力を受け、徐々に燃料被覆管の外径が減少するクリープ現象によって、燃料被覆管は細く変形し、ついには延性破壊(塑性変形後の破壊)の原因となる旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)イ)が、〈書証番号略〉及び証人村主の証言によれば、沸騰水型原子炉における燃料被覆管は、クリープを考えても、外圧によって挫屈を起こすことがないよう燃料被覆管の肉厚対半径比を十分大きくするとともに、製造時に燃料被覆管の偏平率を小さく抑えており、過去の実績でもクリープ圧潰を起こしたことがないこと、本件原子炉のような八行八列配列の燃料の場合、従来の七行七列配列の燃料より肉厚対半径比を大きくし、クリープ圧潰に対する余裕が大きくなっていることが認められ、右の諸点に鑑みれば、原告らの右主張は失当である。

(5) 原告らは、長尺の細い管である燃料被覆管の一部に楕円状のものが混じることは避けられず、こうした楕円状の燃料被覆管は、管内外の圧力差等の力学的作用によって楕円度を進行させ、ひいては燃料棒の座屈損傷の原因となる旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)ウ)が、前記((一))のとおり、燃料被覆管の部材として最適とされ、安全面においても実績のあるジルカロイ―2が使用されているから、原告らの右主張は失当である。

(6) 原告らは、燃料被覆管が、冷却材や核分裂生成物等によって腐食し、その進行、拡大によって、腐食疲労、応力腐食割れ等の現象を引き起こす旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)エ)が、前記((一))のとおり、燃料被覆管の部材として耐食性に優れ、安全面においても実績のあるジルカロイ―2が使用されているから、原告らの右主張は失当である。

(7) 原告らは、燃料棒とスペーサが接触し、擦れあって生ずるフレッティング腐食によって燃料被覆管が損傷するおそれがある旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)オ)が、〈書証番号略〉によれば、沸騰水型原子炉に用いられているスペーサは、過度なフレッティング腐食を起こさないことが実験及び照射実験で確認されていることが認められるから、原告らの右主張は失当である。

(8) 原告らは、燃料棒の膨張がスペーサにより拘束されることによって燃料被覆管が屈曲するおそれがある旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)オ)が、〈書証番号略〉によれば、本件原子炉の燃料棒は、上部タイプレート、下部タイプレート及びスペーサにより、水平方向の変位が抑えられているが、熱膨張もしくは照射成長による軸方向の伸びは、上部タイプレートを通して自由に逃げられるようになっており、スペーサは、右軸方向の伸びを拘束し、曲がりを発生させることのないようにその接触圧を考慮していることが認められるから、原告らの右主張は失当である。

(9) 原告らは、炉心燃料部における圧力損失や不安定圧力により燃料棒が過熱して破損するおそれのある旨主張する(第六節第二款第二の二3(一)(2)オ)が、前記((一))のとおり、燃料被覆管の部材として最適とされ、安全面においても実績のあるジルカロイ―2が使用されているから、原告らの右主張は失当である。

(三) 多発する燃料棒事故と対策の遅れに関する主張について

原告らは、燃料棒、燃料集合体について、これまで多くの、①ピンホールやひび割れ事故、②つぶれ事故、③曲がり事故、及び④破損事故が発生しているが、これら事故の大部分は未だにその原因がはっきりせず、したがって、適切な対策はほとんど講じられていないので、本件安全審査においても、右のとおり本件原子炉の炉心燃料部の健全性が確認されていないことになり、右審査は違法ということになる旨主張する(第六節第二款第二の二3(二))。

(1) 燃料棒に関する原告ら主張の事象例のうち、敦賀原発一号炉及び福島第一原発一号炉の燃料集合体にピンホールやひび割れが発生したことがあることは当事者間に争いがないところ、前記((二)(2))の事実に、〈書証番号略〉を総合すれば、このようなピンホールや、ひび割れは、燃料ペレットと燃料被覆管との相互作用(PCI)や、燃料被覆管内に残留する湿分から発生する水素によって燃料被覆管が脆化するいわゆる水素脆化に起因するものであり、この事実は、本件安全審査当時、既に判明していたこと、本件原子炉においては、燃料ペレットの形状を工夫し、燃料の被覆管の延性の向上を図る熱処理の方法が採られたこと、燃料棒の製造工程で、燃料被覆管の水素化による損傷が生じないように、燃料棒内の水分を十分低く抑えるように管理され、更に、プレナム部にゲッターと呼ばれる水分と反応しやすい物質を入れ、燃料被覆管の水素化を抑える工夫がなされていることが認められるから、本件原子炉においては、右PCI及び水素脆化による燃料被覆管のピンホール等への対策が十分になされているというべきであり、原告らの主張する右各事象の存在が本件安全審査の結果に影響を与えるものとはいえない。

(2) 燃料棒に関する原告ら主張の事象例のうち、右(1)以外のものは、いずれも加圧水型原子炉において発生したものであり(〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によって認められる。)、本件原子炉のような沸騰水型原子炉において、炉心燃料部の健全性が確保されていることは、前記((一)及び(二))のとおりであるから、原告らの主張する右各事象の存在が本件安全審査の結果に影響を与えるものとはいえない。

したがって、原告らの右主張は失当である。

(四) 冷却材喪失事故時における炉心燃料部の健全性に関する主張について

(1) 原告らは、圧力バウンダリを構成する機器の破損、配管の破断等によって引き起こされる冷却材喪失事故が避けられない旨主張する(第六節第二款第二の二4(一))。

しかしながら、本件原子炉施設には、異常発生防止対策、異常拡大防止対策及び放射性物質異常放出防止対策が講じられており、それらによって、災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないことは、前記(一)のとおりであるから、圧力バウンダリを構成する機器の破損、配管の破断等によって引き起こされる冷却材喪失事故が避けられないという原告らの主張は、それ自体失当であるというべきである。

(2) 本件安全審査においては、前記(一2(四)(3))のとおり、放射性物質異常放出防止対策として本件原子炉に設置された安全防護設備等の設計の総合的な妥当性の解析評価を行い、その中で、あえて放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態として、冷却材喪失事故の発生を想定した場合の事故解析を行っているが、原告らは、冷却材喪失事故が発生した場合、本件原子炉の燃料被覆管が破裂し、炉心崩壊の危険性があるから、右解析評価は不合理である旨主張する(第六節第二款第二の二4(二))。

しかしながら、前記(一2(三)(3))の事実に、〈書証番号略〉及び証人村主の証言を総合すれば、本件安全審査においては、冷却材喪失事故の解析評価に当たり、①圧力容器に接続されている配管のうち、冷却材の喪失量が最大となり、したがって、炉心の冷却にとって最も厳しい結果となる冷却材再循環系配管の一本が瞬時に完全に破断すること、②平常運転時には定格出力を超えて運転することはないが、定格出力の約一〇五パーセントで運転していること、③冷却材再循環系配管の破断と同時に外部電源が喪失し、かつ、事故時に作動が要求されているECCSに単一動的機器の故障(低圧スプレイ系の非常用ディーゼル発電機の故障)が起こることを仮定したとしても、本件原子炉について、①燃料被覆管の最高温度が摂氏一二〇〇度を超えた場合、又は燃料被覆管の全酸化量が酸化前の燃料被覆管の厚さの一五パーセントを超えた場合には、燃料被覆管の延性が極度に失われ、炉心の冷却可能形状を保持し続けることができなくなるものであるところ、燃料被覆管の最高温度は摂氏約八八六度を超えることはなく、燃料被覆管の損傷はないこと、また、燃料被覆管における全酸化量は、酸化前の燃料被覆管の厚さに対して最大約0.3パーセントと極めて小さいことから、燃料被覆管の延性は失われず、燃料棒は、冷却可能な形状に維持され、燃料の冷却は確保されること、②破断した配管から放出される冷却材及び水とジルコニウム反応により発生した水素により格納容器内の圧力は上昇するものの、最高圧力は約2.6キログラム毎平方センチメートルにとどまり、格納容器の設計圧力である2.85キログラム毎平方センチメートルを超えることはないこと、③水とジルコニウム反応による水素の発生に加え、更に評価結果が厳しくなるような条件下での水の放射線分解による水素及び酸素の発生を仮定した場合でも、可燃性ガス濃度制御系を使用して、水素と酸素を結合させることにより、格納容器内の水素及び酸素の各濃度は燃焼限界(水素濃度四パーセント又は酸素濃度五パーセント)以下に抑えられることの各事実が確認され、本件安全審査においては、右に述べたことから圧力バウンダリの損傷という事態が万一発生しても、放射性物質の環境への異常な放出が防止できるものと判断されたことが認められ、右諸点に鑑みれば、右冷却材喪失事故に関する本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

2 圧力バウンダリに関する主張について

(一) 圧力容器の中性子による脆化に関する主張について

(1) 原告らは、圧力容器が中性子の照射を受け続けることによってその靱性が低下する、いわゆる圧力容器の中性子照射脆化については、未だ、そのメカニズムすら分かっておらず、安全が確保されているとはいえない旨主張する(第六節第二款第二の三1)。

前記(一2(二)(3))の事実に、〈書証番号略〉及び証人村主の証言を総合すれば、金属材料は、使用温度がある温度(脆性遷移温度)より下がると、急激に強さが減少し、もろくなる脆性遷移現象が生じること、脆性遷移温度は通常かなり低く、実用上の使用温度範囲には入らないが、金属材料が中性子照射を受けると、金属材料中に原子レベルの空孔等が生じ、この脆性遷移温度が上昇する中性子照射脆化が起こること、中性子照射脆化に起因する脆性遷移温度の上昇は、中性子照射量や金属材料中の不純物、特にリンや銅等の含有量が多いと大きくなる特性を有していること、以上のような中性子照射脆化のメカニズムは、本件安全審査当時、既に解明されていたこと、本件原子炉においては、圧力容器の材料に、焼入れ、焼戻しの熱処理を施し、不純物の含有量を非常に少なくして照射脆化特性を改良した「原子力発電用マンガン・モリブデン・ニッケル鋼板二種相当品(JIS・G・三一二〇・SQV2A・ASTM・A―五三三鋼相当)」が使用され、中性子照射による脆性遷移温度の上昇をも十分考慮した余裕のある設計となっていること、その上で、本件安全審査においては、使用期間中に中性子照射による脆化が問題となることはないと判断されたこと、原告らの主張する米国オークリッジ国立研究所の報告は、圧力容器に使用される鋼材に含まれる銅等の含有率が高かった米国の初期の加圧水型原子炉について解析をした場合に圧力容器の脆性破壊が問題となり得る旨指摘したものであり、本件原子炉のような沸騰水型原子炉の場合には、加圧水型原子炉の場合と比較して、炉心に最も近い圧力容器壁の受ける中性子照射量が少なく、また、その構造上ECCSの作動による注入水が右圧力容器内壁に直接当たることはなく、本件原子炉の圧力容器に直接当てはまるものではないことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(2) 原告らは、わずかな試験片の変化を監視しただけでは、分厚い圧力容器材の脆化を評価することはできず、かかる不確かな検査方法では圧力容器の健全性の維持確保はなし得ない旨主張する(第六節第二款第二の三1)が、前記(一2(二)(3))の事実に、〈書証番号略〉を総合すれば、本件原子炉の圧力容器構造材の監視は、社団法人日本電気協会で規程する電気技術規程(原子力編)JEAC―四二〇五―一九七〇(原子炉構造材の監視試験方法)に従い、実際の圧力容器と同じ照射特性が得られるよう、圧力容器と同一の鋼材から取り出した監視試験片を圧力容器の内側に取り付け、圧力容器と同様な条件で照射し定期的に取り出して試験を行うこと、本件安全審査においては、その上でそのような試験方法を是認していることが認められ、この点に、前記(一2(二)(3))のとおり、本件原子炉の圧力容器について脆性破壊を防止する対策が講じられていることを考え合わせると、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 応力腐食割れに関する主張について

原告らは、本件原子炉の再循環系配管等の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼等には、いわゆる応力腐食割れが多発しており、しかもこの応力腐食割れについては、その対応策等が解決されていない旨主張する(第六節第二款第二の三2)。

〈書証番号略〉によれば、応力腐食割れは、①金属材料に耐食性をもたらしているクロムが、溶接時の加熱によってその金属材料中の炭素と結合し、クロム炭化物として析出することにより、その付近に部分的なクロム欠乏部が生じ、金属材料の耐食性が低下すること、②原子炉施設の運転に伴い発生する内圧や熱荷重等による引張応力に、溶接による残留応力が加わって、材料に過度の引張応力が存在していること、及び③冷却材等の溶存酸素濃度が高いなど冷却材が腐食環境にあること、の三つの条件が重畳した場合にのみ発生すること、したがって、①材料として、炭素含有量の低い低炭素ステンレス鋼等を用いること、②溶接時の入熱量を減らす等適切な溶接方法ないしは溶接管理を行うことによって、金属材料の鋭敏化や残留応力の低減を図ること、③原子炉の停止時には冷却材中の溶存酸素濃度が高くなるので、その起動時に冷却材中の溶存酸素濃度を低減するような運動を行うことなどの対策を講じることによって、右応力腐食割れは、その発生を十分防止できることが認められる。

以上の事実によれば、応力腐食割れ事象の問題は、原子炉施設の詳細設計や具体的な工事方法及び具体的な運転管理において対処されれば足りる事項であり、前記(第二章第一の二)のとおり、原子炉設置許可の段階の安全審査においては、当該原子炉の基本設計の安全性に関わる事項のみをその対象とするものと解するのが相当であるから、本件安全審査において応力腐食割れの防止対策がされていないことをもって本件処分の違法事由とする原告らの右主張は、主張自体失当である(福島第二原発最高裁判決参照)。

(三) 疲労破壊、応力集中に関する主張について

原告らは、疲労破壊、応力集中によって圧力バウンダリが破壊されるおそれがある旨主張する(第六節第二款第二の三3)が、前記(一2(二)(3))の事実に、〈書証番号略〉を総合すれば、本件原子炉の圧力バウンダリ等は、平常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時に発生する応力に対して、脆性的挙動及び急速な伝播型破断の防止の観点から、応力解析、疲労解析等を行うとともに、使用材料の管理、使用圧力・温度の制限及び供用期間中の監視を考慮した設計がなされていること、原子炉の運転開始後、圧力バウンダリの健全性を確認するため、定期的に供用期間中検査が行えるよう、機器、配管等の設計にあたっては、検査箇所へ検査機器等が接近できるように機器、配管等の配置が考慮されていること、本件原子炉の圧力バウンダリ等の試験、検査として、使用前に電気事業法等で定められた使用前検査、供用中に日本電気協会で規程する電気技術規程(原子力編)JEAC―四二〇五―一九七四「原子炉冷却材圧力バウンダリの供用期間中検査」に基づく検査、逃がし安全弁の設定点の確認等を実施し、その健全性が確認され、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉施設の圧力バウンダリの健全性が維持されると判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(四) 解析による設計に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の圧力容器の設計は、詳細応力解析による設計に従ってなされているところ、温度変化の計算、温度差による応力の発生とその解析、疲労の検討等の基準は、すべて設計者に委ねられており、特に炉心スプレイノズル二本、給水ノズルは、熱伝達理論が十分把握されていないから、圧力容器は安全性が確保されているとはいえない旨主張し(第六節第二款第二の三4)、〈書証番号略〉及び証人田中三彦(以下「田中」という。)の証言中にはこれに副う供述部分もあるが、前記(一2(二)(3)、3)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の圧力バウンダリが、その基本設計において、機械的、化学的影響によってその健全性が損なわれることのない、余裕のあるものであると判断されたのであるから、原告らの右主張は失当である。

(五) 事前検知に関する主張について

原告らは、本件安全審査において確認された検査方法には限界があり、信頼に値しない旨主張する(第六節第二款第二の三5)が、原子炉の運転開始後、圧力バウンダリの健全性を確認するため、定期的に供用期間中検査が行えるよう、機器、配管等の設計にあたっては、検査箇所へ検査機器等が接近できるように機器、配管等の配置が考慮されていること、本件原子炉の圧力バウンダリ等については、使用前に電気事業法等で定められた使用前検査、供用中に日本電気協会で規程する電気技術規程(原子力編)JEAC―四二〇五―一九七四「原子炉冷却材圧力バウンダリの供用期間中検査」に基づく検査、逃がし安全弁の設定点の確認等が実施され、その健全性が確認されることは、前記(二2(一))のとおりであり、その上で、本件安全審査においては、前記(一2(二)(3))のとおり、本件原子炉の圧力バウンダリの健全性が維持されると判断されたことを考え合わせると、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

3 制御棒駆動系の信頼性に関する主張について

原告らは、本件原子炉の制御棒ないしは同駆動系の信頼性が欠ける旨主張する(第六節第二款第二の四)が、〈書証番号略〉によれば、本件原子炉においては、制御棒及び同駆動系について、各制御棒及び同駆動系ごとにアキュムレータが設けられること、原子炉の緊急停止時、いわゆるスクラム時にすべての制御棒駆動系から排出される水を貯えるスクラム排出ヘッダー及びスクラム排出容器が設けられ、十分なスクラム信頼性を有していること、ブラウンズ・フェリー原発三号炉において制御棒が円滑に挿入されない事態が生じたのは、スクラム排出ヘッダーとその下流側にあるスクラム排出容器とを結ぶ長い小口径の連絡管に水詰まりが生じ、その結果制御棒を原子炉内に挿入しようとした際に、水が十分排出されなかったことによるものであるが、我が国の沸騰水型原子炉においては、ブラウンズ・フェリー原発三号炉における経験を教訓として、スクラム排出ヘッダーとスクラム排出容器が直接つながる構造とすることにより、スクラム排出ヘッダーに水が留まらないよう対策を講じていること、NRCは、一九八一年(昭和五六年)八月、沸騰水型原子炉の制御棒駆動水圧系スクラム排出系配管が破断する可能性は極めて低い旨の報告を行ったこと、本件原子炉施設における制御棒駆動系の水圧制御ユニットは、安全保護設備として、設計上十分信頼性を有するものとするとともに、厳重な品質管理の下に製造されること、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉の制御棒駆動系に十分な信頼性があると判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査の右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

4 ECCSに関する主張について

(一) ECCSの性能の実証性に関する主張について

原告らは、ECCSに関し、その性能が実証されていない旨主張する(第六節第二款第二の五2)が、前記(一2(四))の事実に、〈書証番号略〉、証人村主の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件原子炉のECCSの性能を評価するに当たっては、解析モデルを用いて設備等の性能評価を行う方法が採られたこと、原子炉施設については、実際に異常を発生させて実験することができないことから、かような方法が有効、かつ合理的なものとされていること、ECCSの性能評価解析に用いられたモデルは、実験によって十分な確証が得られている部分については、その結果を踏まえ、また、未だ実験によって十分な確証が得られていない部分については、十分厳しい条件を設定し、全体としては、安全上厳しい結果となるように作成されたものであること、実際のECCSの性能評価においては、更に厳しい条件を設定した安全側の評価が行われたこと、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉のECCSが確実に所期の機能を発揮し得るものと判断されたこと、米国アイダホ州の国立原子炉試験所で行われた加圧水型原子炉におけるECCSのセミスケール実験は、いわゆるロフト計画の一連の実験の初期において、本件原子炉のような実用発電用原子炉とは規模、内容を異にする簡単な模型実験装置における実験であること、実用発電用原子炉により近い小型原子炉を用いたロフト計画の実験においては、ECCSにより有効に原子炉内に注水が行われ、燃料被覆管の最高温度が計算による予測値よりも低い温度にとどまるとの実験結果が得られていること、沸騰水型原子炉においても、実用発電用原子炉に近い形に模擬した総合システム実験において、ECCSによって有効に原子炉内に注水がなされ、燃料被覆管の最高温度が計算による予測値よりも低い温度にとどまるとの実験結果が得られていること、平成三年二月九日、美浜原発二号炉において発生した蒸気発生器伝熱管損傷事象の際には、ECCSが設計どおりに作動し、炉心の冠水は維持され炉心の健全性に影響はなかったことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) ポンプ、弁等の故障に関する主張について

原告らは、ECCSは、弁、ポンプの故障、配管のひび割れ、非常用電源としてのディーゼル発電機の不作動、計測制御系の故障等によって作動しない可能性がある旨主張する(第六節第二款第二の五3)が、前記(一2(四)、二4(一))の事実に、〈書証番号略〉、証人村主の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、ECCSは、弁、ポンプ、配管、非常用のディーゼル発電機、計測制御装置等によって構成され、ECCS起動信号が発せられると、ポンプが自動的に起動して水源であるサプレッション・プール等の水を炉心に注水するという、構造上、動作上単純な設備であること、製造時には厳重な品質管理の下に製造されること、ECCSは、種々の故障を想定し、多重性を有するように設計されていること、ECCSは、定期的な試験、検査を実施できるように設計されていること、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉のECCSが確実に所期の機能を発揮し得るものと判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) ECCS安全評価指針に関する主張について

原告らは、ECCS安全評価指針は不十分であるばかりでなく、本件原子炉のECCSの右指針適合性には疑問がある旨主張する(第六節第二款第二の五4)。

(1) ECCS安全評価指針の妥当性

ECCS安全評価指針には、冷却材喪失事故時にECCSが炉心の冷却可能な形状を維持しつつこれを冷却し、もって放射性物質の環境への放出を十分抑制することができるかを評価するに際しての具体的な判断基準として、①燃料被覆管温度の計算値の最高値は、摂氏一二〇〇度以下でなければならない(基準①)、②燃料被覆管の全酸化量の計算値は、酸化前の燃料被覆管の厚さの一五パーセント以下でなければならない(基準②)、③炉心で、燃料被覆管が水と反応して発生する水素の量は、格納容器の健全性を確保するために十分低くなければならない(基準③)、④炉心形状の変化を考慮して、長半減期核種の崩壊熱の除去が長期間にわたって行われることが可能でなければならない(基準④)との四項目が示されていることは、当事者間に争いがない。原告らは、ECCS安全評価指針について、①冷却材喪失事故時に燃料被覆管に作用する応力の大きさに係る基準がないこと、②燃料被覆管の脆化に係る基準がないこと、③水素の発生量に係る基準が抽象的であることから、右基準は燃料棒破損事故防止の基準としては不十分である旨主張する(第六節第二款第二の五4(一))が、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、冷却材喪失事故時に燃料被覆管に作用する応力としては、ECCSによる冷却材注入時に発生する熱応力等と燃料被覆管の内外圧力差によって発生する応力とがあること、前者については、燃料被覆管の最高温度及び酸化量がそれぞれ基準①及び②において定める摂氏一二〇〇度及び燃料被覆管の厚さの一五パーセントを下回っていれば、燃料被覆管の脆化は十分に抑えられるので、燃料被覆管は、この応力に対しても十分に冷却可能な形状として維持されることが、実験により確認されていること、後者については、この応力によって生ずる燃料被覆管のふくれ及び破裂による変形が、燃料被覆管の最高温度、酸化量に影響を与えることが問題であるところ、これらの変形をも考慮に入れて右判断基準への適合性を評価すれば足りるとされていること、燃料被覆管の脆化については、その程度は酸化量に依存し、その酸化量は過度の温度上昇により急激に増加するので、酸化量及び温度が右各制限値を下回れば、燃料被覆管の脆化は十分に抑えられるから、酸化量及び温度に係る基準は、脆化に対する基準と評価できるとされていること、格納容器内の水素の濃度は、燃料被覆管の水とジルコニウム反応によって発生する水素の量以外にも、格納容器の大きさ、可燃性ガス濃度制御系の性能等ECCS以外の設備設計等に依存するものであるから、水素の濃度を抑えるためには、水素の発生量を主たる基準として設ける合理性はないのであり、基準③で十分合目的的とされていることが認められ、右の諸点に鑑みれば、ECCS安全評価指針が不合理とはいえないから、原告らの右主張は失当である。

(2) 本件原子炉施設の同指針適合性

原告らは、①燃料棒が中性子照射等によって劣化しているはずであるのに、劣化を想定しない健全な燃料棒に基づいて行った事故解析は無意味である、②冷却材喪失事故時に温度上昇の結果生ずる燃料被覆管のふくれによる流路閉鎖及び破裂について何ら実証的な検討が行われていない、③燃料被覆管の最高温度及び水とジルコニウムの反応量にいずれも重大な影響を与える燃料被覆管の内面酸化を過少評価している点において、本件原子炉のECCSは指針に適合していない旨主張する(第六節第二款第二の五4(二))。

① 右①の主張について

〈書証番号略〉によれば、本件安全審査においては、中性子照射後の燃料被覆管に関する破裂実験の結果等を斟酌した上で、燃料棒の健全性が維持されると判断されたことが認められ、本件安全審査における燃料棒の健全性に関する判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないのは前記(一2、3)のとおりであるから、原告らの右主張は失当である。

② 右②の主張について

前記(一2(二)(2)、二2)のとおり、本件原子炉施設においては、そもそも燃料被覆管がふくれたり、破裂したりすることがないことが解析等により確認されている上に、本件安全審査における燃料棒の健全性に関する判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないのは前記(一2、3)のとおりであるから、原告らの右主張は失当である。

③ 右③の主張について

〈書証番号略〉によれば、日本原子力研究所が、昭和五八年に実施した実験の結果、燃料被覆管の内面酸化と外面酸化を合わせた全酸化量の計算値が酸化前の燃料被覆管の厚さの一五パーセント以下でなければならないとするECCS安全評価指針の基準値が安全側に設定されたものであると確認されたことが認められ、また、前記(1(四)(2))のとおり、事故解析の結果、冷却材喪失事故時においても、燃料被覆管の最高温度は摂氏約八八六度を超えることはなく、燃料被覆管の損傷はないこと、燃料被覆管における全酸化量は、酸化前の燃料被覆管の厚さに対して最大約0.3パーセントと極めて小さいことから、燃料被覆管の延性は失われず、燃料棒は、冷却可能な形状に維持され、燃料の冷却は確保されると判断されたことを考え合わせると、原告らの右主張は失当である(なお、原告らは、内面酸化は外面酸化より四倍多く進行する旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

5 計測制御システムの欠陥に関する主張について

原告らは、米国及び我が国における計測制御システムの故障例を指摘した上で、原子炉における各種制御システムは未完成の技術分野であり、信頼性も欠如している旨主張する(第六節第二款第二の六)が、前記(一2(三)、(四))のとおり、燃料被覆管及び圧力バウンダリの各健全性に影響を及ぼすおそれのある原子炉出力制御設備、安全保護設備等の制御装置については、十分な性能、強度等を有するように設計され、異常の発生を早期、かつ確実に検知するために、燃料被覆管の損傷を検知するために冷却材中の放射能レベルを測定監視する計測装置、圧力バウンダリを構成する機器等からの冷却材の漏洩を検知する漏洩監視装置、原子炉冷却系統設備や原子炉出力制御設備等に、各設備の状態を正確に把握することができるように、圧力、温度、流量等を測定する計測装置が設けられること等が確認された結果、本件安全審査においては、これらの計測制御システムに十分な信頼性があり、本件原子炉は安定して運転し得るものと判断されたのであり、計測制御システムの基本設計に関する本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

6 格納容器の健全性に関する主張について

(一) 安全設計審査指針が、格納容器バウンダリを、冷却材喪失事故時に圧力障壁となり、かつ、放射性物質の放散に対する障壁を形成するように設計された範囲の施設をいうと定義づけ、機能として、想定される配管破断による冷却材喪失事故に際して、事故後に想定される最大エネルギー放出によって生じる圧力と温度に耐え、かつ、出入口及び貫通部を含めて所定の漏洩率を超えることがないように働くものと期待し、また、平常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時において、脆化的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じない設計であることを要求していることは当事者間に争いがない。

(二) 原告らは、ECCS等の安全防護設備が絶対的に機能し、炉心溶融はあり得ないという前提で行われた本件安全審査の事故解析は不合理であり、かような事故解析を前提として行われた格納容器の健全性についての判断も不合理である旨主張する(第六節第二款第二の七1)が、前記(一2(四))のとおり、本件原子炉に設置される安全防護設備がいずれも確実に所期の機能を発揮し得るものとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) 原告らは、格納容器の隔離弁はしばしば故障し、また、事故時にECCS等を使用した場合にはそれらの配管類が閉ざされないので、格納容器における隔離機能は十分ではない旨主張する(第六節第二款第二の七2)が、〈書証番号略〉によれば、格納容器を貫通する配管には、格納容器の内外若しくは外側に隔離弁が設けられ、これらの隔離弁は十分な余裕をもった設計とされていること、いずれも隔離信号により自動的に閉鎖するばかりでなく、中央制御室からの遠隔手動操作によっても閉鎖することができるようになっていること、原子炉の運転開始後においても定期的にその機能を確認するための試験が実施できる構造となっていること、その上で、本件安全審査においては、格納容器の隔離弁が十分な信頼性を有すると判断されたことが認められ、本件安全審査の右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(四) 原告らは、主蒸気の隔離時には多量の蒸気がサプレッション・チェンバに流入するが、この際の衝撃が格納容器に大きな力を加え、圧力容器を動かす可能性があり、そうなれば制御棒不挿入事故も起こりかねない旨主張する(第六節第二款第二の七3)が、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、圧力容器は、圧力容器ペデスタル(基礎台)によってその全重量が支持されているのであり、圧力容器は格納容器の変位を直接受けるような構造となっていないことが認められるから、蒸気がサプレッション・チェンバに流入する際の衝撃が制御棒の挿入性に影響を与えることはなく、原告らの右主張は失当である。

(五) 原告らは、沸騰水型原子炉の格納容器は加圧水型原子炉のそれと比べ、容積が小さいので、水素爆発等に対して極めて弱い旨主張する(第六節第二款第二の七4)が、前記(一2(四))の事実に、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、沸騰水型原子炉の場合には、加圧水型原子炉の場合と異なり、格納容器内に放出された蒸気を、格納容器の下部にあるサプレッション・プールの水によって凝縮復水させることによって、格納容器内の圧力の上昇を抑制できること、本件原子炉施設には、格納容器内の空気をあらかじめ窒素ガスで置換する不活性ガス系及び可燃性ガス濃度制御系がそれぞれ設置され、たとえ冷却材喪失事故時の水素及び酸素の発生を考慮しても、格納容器内の水素及び酸素濃度は、十分燃焼限界(水素濃度四パーセント、又は酸素濃度五パーセント)以下に抑えられること、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉の格納容器の健全性が維持されると判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みると、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

7 ポンプ、弁等の健全性に関する主張について

原告らは、多数のポンプ、弁の故障例を指摘した上で、本件原子炉において使用されているポンプ、弁の健全性が欠如している旨主張する(第六節第二款第二の八)ところ、原告らの主張するポンプ、弁の故障事例の発生については当事者間に争いがない。しかしながら、ポンプ、弁を重要な要素とする本件原子炉のECCSが所期の機能を発揮し得るものとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないことは前記(4)のとおりであり、更に、前記(一2)の事実に、〈書証番号略〉及び証人村主の証言を総合すれば、主蒸気系の安全弁については、構造の簡単で信頼が高く、開閉動作について電源を一切必要としないバネ式のものが使用されていること、復水ポンプは、低圧復水ポンプ、高圧復水ポンプがそれぞれ三台設置され、各一台が予備ポンプとされていること、原子炉給水ポンプは、常用の二台のポンプのほかに二台の予備ポンプが設けられていること、原子炉冷却材浄化系、残留熱除去系及び原子炉隔離時冷却材を構成するポンプは、定期的に検査されて健全性が確認されること、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉において使用されるポンプ、弁の健全性が維持されると判断されたことが認められ、また、原告らの主張するポンプ、弁に関する故障事例の発生が直ちに右判断に影響を及ぼすともいえないから、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められず、原告らの右主張は失当である。

8 我が国における故障等に関する主張について

(一) 敦賀原発一号炉における事故例

(1) 給水加熱器からの冷却材漏出事故

昭和五六年一月一〇日、敦賀原発一号炉(沸騰水型原子炉)の冷却材系B系列第四給水加熱器胴体部分の溶接部分に生じたひび割れから放射性物質が漏洩したこと、同月一四日、漏洩箇所のひび割れ部分に当て板を溶接して補修したこと、同月二四日、再度、右漏洩箇所から放射性物質の漏洩があり、補修をしたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

ア 昭和五六年一月一〇日午後七時三〇分から午後八時三〇分ころにかけての運転員の巡視の際、B系統第四給水加熱器の胴体部分下部からドレン水(給水を加熱した蒸気が凝縮する等により胴体内下部に溜まった温水で、復水器に戻されるもの。)が数秒間に一滴程度漏洩しているのが発見された。この小漏洩の原因は、胴体部分の最終溶接線近傍に発生したひび割れによるものであることが確認され、同月一四日一八時から翌一五日一時三〇分ころにかけて、応急の保修作業として、漏洩箇所に当て板を溶接する作業が実施された。

イ 同月二四日午後三時から午後四時ころにかけての運転員の巡視の際に、右漏洩箇所付近から同程度の漏洩が発見された。右漏洩の原因は、当て板溶接部の近傍に発生した新たなひび割れによるものであることが確認され、同月二八日一五時から一七時ころにかけて、応急の保修作業としてコーキング(平たがねと金槌によりひび割れ周辺部を叩き、ひび割れを圧縮することにより漏れ止めを行うこと。)が実施された。

ウ その後、右漏洩の原因は、給水加熱器胴体部分溶接部が二度にわたり溶接されたことから、二度目の溶接に際し、その溶接部に一度目の溶接部との関係において胴体内面に応力集中を生じやすい切り欠き状の溝等が生じ、その結果、ひび割れが発生したためであることが判明した。

以上認定した事実によれば、敦賀原発一号炉における右ドレン水漏洩事故は、右給水加熱器製造時における溶接施工上の問題に起因する事象であって、原子炉施設の基本設計に起因するものではないから、右事故は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

(2) 濃縮廃液貯蔵タンクからの濃縮廃液漏出事故

昭和五六年一月一九日、敦賀原発一号炉の放射性廃棄物処理建家内濃縮廃液貯蔵タンク二基の配管つけ根部分に穴があき、同箇所から放射性廃液が漏洩する事故があったことは、当事者間に争いがないが、その原因は、原子炉施設の運転管理に起因するものであると推認され、原子炉施設の基本設計に起因するものであるとは直ちにはいい難いから、右事故は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

(3) フィルタースラッジ貯蔵タンクからの放射性廃液漏出事故

昭和五六年三月七日ころ、放射性廃棄物処理旧建家内のフィルタースラッジ貯蔵タンクから放射性廃液がオーヴァーフローし、同建家内に流出したこと、廃液の一部が洗濯廃液濾過装置室床下にある一般排水路に漏出したことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

ア 敦賀原発一号炉においては、昭和五六年三月七日午後八時二〇分ころから、フィルタースラッジをサージタンクから貯蔵タンクに移送する作業が行われ、右移送作業の終了後の同日午後九時三五分ころ、移送配管の洗浄作業が開始された。ところが、右洗浄作業を担当していた運転員らは、洗浄作業中であることを忘却し、洗浄系弁の操作スイッチがある廃棄物処理旧建家内の制御盤及び洗浄系弁設置場所から引継のために中央制御室に帰室してしまった。その際、旧建家内の制御盤にある洗浄系弁の開閉状態を示す表示灯は、故障したまま放置されていたため、右洗浄作業に際し、洗浄系弁が開かれたにもかかわらず、洗浄系弁が閉じていることを示す緑色の表示になっていた。その結果、洗浄水は、貯蔵タンクへ流入し続け、右貯蔵タンク、ドレンタンクがいずれもオーヴァーフローし、オーヴァーフローした廃液は、配管を通してサンプに流入し、更にこのサンプから建家の床面に溢れ出た。この間、廃棄物処理建家内の制御盤における右貯蔵タンクの水位計の異常に気付いた者はいなかった。また、廃棄物処理新建家内の制御盤に示される貯蔵タンク室のサンプに溜まった廃液を回収するサンプポンプの作動状況、サンプの水位が異常に高くなったことを示す警報に気付いた者もいなかった。

イ 貯蔵タンク室においてサンプから床に溢れ出た廃液のほとんどは、更に、建家内の通路を経由して床ドレンファンネルに至り、階下の廃液中和タンクに回収されたが、一部は、隣室の洗濯廃液濾過装置室に流れ込み、同室の内側の壁面に沿って設置された四本の電線管の床埋込み部周辺に生じていた細孔及び同室の壁面に沿って存在する側溝の一部に生じていた微細なひび割れを通して、床下に埋設されていた一般排水路へ漏洩した。同月八日一一時における運転員による巡視によって、漸く廃液の漏洩が発見され、洗浄系弁が閉じられ、廃液漏洩の拡大を防止する措置が講じられた。

ウ 右廃液の廃棄物処理旧建家床面のオーヴァーフロー量は14.5ないし一五立方メートル、そのうち回収量は約一四立方メートル、一般排水路への漏洩は約一立方メートルと推定され、右一般排水路への漏洩廃棄物に含まれていた放射性物質の量は、十数ミリキュリーから数十ミリキュリーと推定されている。

以上認定した事実によれば、敦賀原発一号炉における右放射性廃液漏洩事故の主要な原因は、①運転員が洗浄系弁を閉め忘れたこと、②運転員が貯蔵タンクの水位の異常を看過したこと、②運転員がサンプポンプの作動を示す表示やサンプの水位の異常を示す警報を看過したこと、③洗濯廃液濾過装置室の床にひび割れ等があったことということができ、いずれも、原子炉の運転ないし管理に起因するものであり、原子炉施設の基本設計に起因するものではないから、右事故は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

(二) 本件原子炉施設における事故例

昭和六〇年五月三一日、本件原子炉施設のタービン建家地下二階にある復水器B系統の循環水配管から約七トンの海水が放射線管理区域である同建家内に漏洩する事故が発生したこと、復水器入口循環水配管の外面に取り付けられている吊りピースの取付け隅肉溶接部と管壁との境界部に貫通孔があり、管壁の外面で径約二センチメートル、内面で径約7.5センチメートルと円錐状に欠損していたことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〈書証番号略〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 昭和六〇年五月三一日午後一時三〇分ころ、本件原子炉施設においては、電気出力一一〇万キロワットの定格出力で試運転が行われていたところ、タービン建家地下二階の床に海水が漏洩したことが漏洩検出器により検知され、直ちに調査したところ、循環水系配管のうちの一系統の配管で復水器に入る前の箇所から海水が漏洩していることが確認された。

(2) 右事故は、循環水系配管内面に腐食防止の目的で塗られていたタールエポキシ樹脂の塗膜の一部が、当該配管に仮設されていた鋼製補強材を配管据付け後に撤去する際、作業に伴う熱の影響を受けたため、本来であれば、熱の影響を受けた塗膜を完全に除去した上で、新たにタールエポキシ樹脂を塗るべきところ、その除去が不完全なままで重ね塗りがなされた結果、塗膜の一部が剥離し、配管内面が直接海水にさらされた結果、腐食して穴があいたために発生したものであった。

以上認定した事実によれば、本件原子炉施設における右海水漏洩事故は、塗装方法の不備という本件原子炉施設の具体的な施工管理に起因するものであり、原子炉施設の基本設計に起因するものではないから、右事故は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

(三) 福島第二原発三号炉における事故例

昭和六四年一月、福島第二原発三号炉(沸騰水型原子炉)の再循環ポンプに異常振動が発生したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈書証番号略〉、証人田中、同高木仁三郎(以下「高木」という。)の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 昭和六四年一月一日午後七時ころ、福島第二原発三号炉の再循環ポンプに異常振動が発生し、ポンプ回転軸の振動計が振り切れ、警報が鳴った。運転員は、出力を下げて運転を継続したが、その後も振動は続き、同月六日、再び、振動計の警報装置が作動し、運転員は更に出力を下げたが、回復せず、同日午後、翌日に予定した定期検査のため、原子炉を停止した。

(2) 右異常振動の原因が調査された結果、再循環ポンプ内部の回転軸を支える直径一メートル、重さ一〇〇キログラムの水中軸受リングが割れて脱落し、一部が下にあった羽根車に当たり、羽根車も長さ四四センチメートル、幅八センチメートルにわたって破壊され、更に、水中軸受リングを支えていたボルトや座金も破損し、金属片が燃料棒や圧力容器内各部に金属粉となって付着していることが判明した。

(3) 右再循環ポンプ損傷は、水中軸受リングの共振と水中軸受リングの溶接が不十分であったことが原因であり、水中軸受リングの溶接部の強度が共振によって生ずる応力を下回らないように施工すれば、右損傷を防止することができた。

以上認定した事実によれば、右再循環ポンプ損傷事故は、溶接方法の不備という原子炉施設の具体的な施工管理に起因するものであり、原子炉施設の基本設計に起因するものではないから、右事故は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

(四) 美浜原発二号炉における事故例

平成三年二月九日、美浜原発二号炉(加圧水型原子炉)の蒸気発生器伝熱管が損傷したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈書証番号略〉、証人田中、同高木の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、平成三年二月九日午後〇時一六分、美浜原発二号炉の蒸気発生器ブローダウン水モニターの指示値が「注意信号」を発し、同日午後一時四〇分ころから原子炉圧力が急降下し、放射線高のアラームが鳴ったこと、運転員らは、原子炉停止作業に掛かろうとしたところ、原子炉圧力が一六〇気圧から一〇〇気圧まで一気に下がり、原子炉はスクラム状態となって、ECCS高圧注入系が作動したこと、運転員らは、蒸気発生器伝熱管の破断に気付き、破断した蒸気発生器の隔離を行うなどの措置を講じたが、同日午後二時四八分、二次冷却系側への水抜けが止まるまでに一次系から二次系に約五五トンの冷却材が流出したことを認めることができる。

原告らは、平成三年二月、美浜原発二号炉において発生した蒸気発生器伝熱管損傷事故では、加圧器逃し弁が故障していたため、ECCSが十分に機能しなかった旨主張する(第六節第二款第二の九1(四)(2)エ)が、〈書証番号略〉によれば、再現解析の結果によって、右事象においてはECCSは設計どおりに作動し、炉心の冠水は維持され、炉心の健全性に影響はなかったことが確認されたこと、燃料集合体シッピング検査の結果からも燃料集合体に異常は認められなかったことが認められるから、ECCSはその機能を発揮したというべきであり、また、原告らは、蒸気発生器の安全審査の不備等にも縷々言及するが、美浜原発二号炉が本件原子炉とは異なって加圧水型原子炉であることに鑑みると、美浜原発二号炉における右蒸気発生器伝熱管損傷事故の発生が、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

9 TMI事故に関する主張について

(一) TMI事故の経過

原告らの主張の第六節第二款第二の九2(一)(1)ないし(3)、(4)のうち、二分二秒後、炉内圧力低下により、ECCSの一つである高圧注入系が自動起動し、原子炉内に注水を開始したこと、運転員は、圧力調整が不能となることを恐れ、手動でポンプを停止し、流量を絞ったこと、(7)のうち、原子炉の炉心が損傷したこと、(8)のうち、二時間二〇分後、運転員は、加圧器逃し弁の開放固着に気付き、加圧器逃し弁の元弁を手動で閉じたこと、(12)のうち、希ガスの環境への放出量が約二五〇万キュリーと報告されていること、(13)のうち、ヨウ素一三一の環境への放出量が約一五キュリーと報告されていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〈書証番号略〉、証人村主、同高木の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) TMI二号炉は、電気出力九五万九〇〇〇キロワットの加圧水型原子炉であり、昭和五三年一二月営業運転を開始し、同五四年三月二八日にTMI事故を起こした。

(2) TMI二号炉においては、TMI事故前から、次のような運転がなされていた。

ア 加圧器逃し弁又は安全弁から毎時約1.4立方メートルもの一次冷却材が漏洩し、そのため、右各弁の出口配管温度が摂氏八二度以上を示していたにもかかわらず、何らの措置も採られず、長期間運転が継続されていた。

イ 主給水喪失時に直ちに蒸気発生器に給水し、一次冷却系の除熱をするために設けられていた補助給水系の補助給水ポンプの出口側の弁二個が、いずれも閉じられたままの状態で運転された。

ウ ECCSの不必要な起動がTMI事故前までに四回もあり、それによる様々なトラブルが生じていたこともあって、運転員は、ECCSの起動信号が発信した時は直ちにこの起動信号を切り、すぐに手動操作に移れるように指示されていた。

(3) 事故の直前、TMI二号炉は、定格の約九七パーセントの出力で運転されていたところ、事故の約一一時間前から、二次冷却系の脱塩塔からイオン交換樹脂を再生するための移送作業が行われていたが、この移送配管に樹脂が詰まったため、移送作業が難航していた。そして、昭和五四年三月二八日午前四時三七秒、主給水ポンプ二台が突然いずれも停止し、ほとんど同時にタービンが停止した。右主給水ポンプの停止の原因は、樹脂移送用の水が弁等を制御する計装用空気系に混入し、脱塩塔出入口の弁が閉じたためであると推定されている。

(4) 蒸気発生器への給水が停止したため、直ちに補助給水系の補助給水ポンプがすべて自動的に起動したが、本来開けられているべき補助給水ポンプの出口側の弁が閉じられたままの状態で運転されていたため、蒸気発生器における一次冷却系の除熱能力が失われ、一次冷却系においては、温度、圧力が急速に上昇し、主給ポンプ停止後三秒(以下、経過時間は主給ポンプ停止後の時間をいう。)には、加圧器逃し弁が開き、蒸気と熱水が格納容器ドレンタンクに流入した。そして、八秒後には、原子炉緊急停止装置が作動して、原子炉が自動停止した。

(5) 右の加圧器逃し弁の開放及び原子炉停止によって、一次冷却系の圧力は急速に低下し、加圧器逃し弁が閉止すべき圧力以下に低下したが、加圧器逃し弁は、開放状態のまま固着して閉止しなかった。しかし、中央制御室における右弁の開閉表示は、右弁の開閉状態を直接検出してこれを表示するものではなく、弁の開閉を指示する電気信号の状態を間接的に表示する方式のものであったため、現実には、弁が開放固着していたにもかかわらず、「閉」の状態を表示した結果、運転員は、右の表示を見て、設計どおり右弁が閉止したものと判断した。

ところが、現実には加圧器逃し弁は、閉止しなかったため、一次冷却材が右弁から流出し、小破断冷却材喪失事故の状態となった。

(6) 一方、二次冷却系では、前記主給水ポンプ停止により、補助給水ポンプ三台がすべて設計どおり自動起動したが、前記(4)のとおり、本来開かれているべき補助給水ポンプの出口側の弁二個が閉じられていたので、蒸気発生器に二次冷却材を注入することができなかった。このため、約二分には、蒸気発生器の二次側の水はほとんど蒸発してしまい、蒸気発生器による除熱能力は急速に低下した。しかし、八分に、運転員が右弁に閉じられていることに気付き、これを開いたため、蒸気発生器の除熱能力は回復した。

(7) その間、一次冷却系においては、一次冷却材の流出が続いたため、圧力が低下し、二分二秒後には、ECCSの一つである高圧注水系のポンプ二台が設計どおり自動起動し、原子炉内に注水を開始した。ところが、前記(6)のとおり、蒸気発生器の除熱能力が低下していたため、一次冷却材が局所的に沸騰し、発生した蒸気泡が冷却材を押し上げ、加圧器の水位を上昇させた。そのため、加圧器水位計の表示上、一見、一次冷却材の量が増加したかの如き現象を呈した。これを見た運転員は、常々加圧器を満水にして圧力制御不能になる状態を回避するように教育されていたため、四分三〇秒に、高圧注水ポンプ一台を停止し、残りの一台の流量を最低限にまで絞り、加圧器水位の上昇を抑えるために、抽出量を最大にし、一次冷却材量が減少しているのに、これを補給せず、かえって減少させる操作を行った(これらの措置が採られずに、高圧注水系を作動させておけば、事故はこれ以上発展せず終息していた。)。ところが、加圧器水位計上は、水位の上昇を示し、五分五一秒には振り切れ、六分には加圧器が満水状態を示していた。

(8) 加圧器逃し弁から流出した一次冷却材は、一次冷却材ドレンタンクに流入したため、同タンクの圧力が上昇を続け、一五分二七秒には、同タンクのラプチャーディスクが破壊され、一次冷却材は格納容器サンプへと流出した。ところが、格納容器の隔離がなされなかったため、この水は、更に、サンプポンプにより補助建家の放射性廃棄物貯蔵タンクに移送された。

(9) 一次冷却材の喪失が更に進行した結果、蒸気泡が増加し、このため、冷却材ポンプの振動が激しくなり、運転員は、右ポンプの破損を防止するため、やむを得ず、四台の右ポンプを、一時間一三分から一時間四一分にかけて、順次停止させた。このため、冷却材の流れが止まり、これによる冷却機能が失われるとともに、水と蒸気が分離し、その直後から炉心上部が蒸気中に露出し始めた。

(10) 運転員は、二時間二〇分になって、初めて加圧器逃し弁の開放固着に気付き、同弁の元弁を閉じたが、依然として高圧注水ポンプを全開にして冷却材を注入することをしなかった。このころには既に、炉心は上部約三分の二が露出したと推定され、露出した燃料棒は温度が上昇し、重大な損傷が生じて大量の放射性物質が一次冷却系に放出された。また、燃料被覆管と蒸気が反応して大量の水素が発生した。

(11) 三時間二〇分には、短時間ではあったが、高圧注水ポンプが起動され、炉心は再び冠水したが、注水時の急冷により、炉心のかなりの部分の形状が変形、崩壊した。

(12) この間、事故発生直後から警報が次々と出され、その数は一〇〇を超えたが、警報の内容を打ち出すプリンターの速度が情報に追いつかず、遅れ出し、情報の遅れは、二時間三九分には約一時間半にも達したため、運転員は、一時間一三分以降の情報を捨て、二時間四七分からプリンターの使用をした。しかし、その後も情報の遅れが生じ、五時間一七分には再度約一時間半もの遅れに達した。

(13) 炉心内で発生した水素は、運転員が七時間三〇分に減圧のため加圧器逃し弁の元弁を開いたため、格納容器に漏洩し、九時間五〇分に水素爆発が生じたが、格納容器の破壊は生じなかった。

以上認定の事故の経過によれば、主給ポンプ停止及びタービン停止を炉心損傷にまで拡大させた原因は、第一に、加圧器逃し弁が約二時間二〇分にもわたり開放したままの状態に置かれていたこと、第二に、高圧注水ポンプの流量が約三時間一六分にもわたり最小限に絞られていたことの二点にあるということができ、これらの点が短時間で解決されていれば、炉心損傷にまで至らなかったということができる。

(二) TMI事故の原因等

原告らは、TMI事故が一つ一つの原因を見るとそれ自体さほど重要とはいえない故障、やむを得ない判断の誤りが複雑に作用し、それが発展、拡大して惹き起こされた事故であり、運転員らに過失はなかった旨主張する(第六節第二款第二の九2(二))ので、以下、検討する。

(1) 加圧器逃し弁開放固着状態の放置について

加圧器逃し弁開放固着状態が長時間にわたり継続した要因は、右弁の開放固着状態を長時間にわたり運転員が発見し得なかったことが決定的な要因といわざるを得ないが、前記((一)(5))のとおり、中央制御室における右弁の開閉表示は、右弁の開閉状態を直接検出してこれを表示するものではなく、弁の開閉を指示する電気信号の状態を間接的に表示する方式のものであったため、現実には、弁が開放固着していたにもかかわらず、「閉」の状態を表示した結果、運転員は、右の表示を見て、設計どおり右弁が閉止したものと判断したものであるから、開閉状態の表示に係る構造上の欠陥と、運転員に対する開閉表示に係る指示の不徹底という運転管理上の問題が、右開放状態の放置の一因となっているというべきである。

そこで、右のような誤表示があったにもかかわらず、その表示を信じて、運転員が弁の開放固着に気付かなかったことが、過誤といえるか、更に検討するに、前記(一)の事実に、〈書証番号略〉証人村主、同高木の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

ア 加圧器逃し弁が開き、一次冷却材が流出すると、同弁の出口配管の温度が上昇するところ、同弁の出口配管には温度計が取り付けられ、中央制御室に右温度計の温度が表示されるようになっているので、右温度上昇の表示により、一次冷却材が流出し続けていることが認識できた。運転員は、右弁の出口温度が三〇秒には摂氏一一五度であったものが、二四分五八秒には摂氏140.8度にも達し、これを確認したにもかかわらず、元弁は閉じられず、右温度から弁の開放固着に気付く者はいなかった。運転員は、加圧器逃し弁の出口配管の温度が高いのを見ても異常を察知しなかった原因の一つとして、前記((一)(2))のとおり、加圧器逃し弁又は安全弁から毎時約1.4立方メートルもの一次冷却材が漏洩し、そのため、右各弁の出口配管温度が摂氏八二度以上を示していたにもかかわらず、何らの措置も採られず、長期間運転が継続されていたというTMI二号炉の緊急手順書、技術仕様書に違反した平常運転時の運転管理上の過誤があった。

イ 加圧器逃し弁から流出する一次冷却材を一次的に収容するために、原子炉格納容器内に設けられている一次冷却材ドレンタンクに一次冷却材が流入すると、同ドレンタンクの水位及び温度が上昇するところ、この水位、温度が中央制御室に表示されるようになっているので、右水位上昇の表示及び温度上昇の表示により、更には、同ドレンタンクのラプチャーディスクの破壊により、一次冷却材が流出し続けていることを認識することができた。

ウ 原子炉格納容器内への漏水等の場合に備えて格納容器底部に設けられているサンプの水位についても、中央制御室に表示されるようになっており、右水位上昇の表示により、一次冷却材が流出し続けていることを認識できた。

エ TMI二号炉は、もともと他の原子炉用に設計されたものを、現場の運転員の経験、要望、運転体制等についての固有の事情をほとんど反映しないまま、必要最小限の設計変更のみを行って流用したものであり、かつ、制御盤、計器、操作器などの大きさ、配置も適切とは言い難く、また、事故発生後短時間に一〇〇を超える警報が出るなどして、運転員の判断を困難ならしめた。

オ TMI二号炉では、多数の機器の故障や不具合が放置されたままになっており、このため、制御室内に点灯していた警報が常時五二個を下回ったことがなかった。

カ TMI二号炉には、他の原子炉と同様、NRCが認可した技術仕様書があり、これに基づいて運転手順書、緊急手順書及び保守点検手順書(運転規則等)が作成されていたが、これらの整備は十分でなく、かつ、定期的な見直しをされていなかった。緊急手続書の「小破断LOCAの微候」の項は、明らかに矛盾を含んでおり、運転員は、事故中、右項目を参照しなかった。

キ TMI二号炉の運転員に対しては、特に緊急の訓練が十分でなく、運転員のチームを組んでの訓練もないなど、教育訓練の内容に問題があった。

以上の事実によれば、加圧器逃し弁の開放固着が冷却材喪失事故にまで発展したのは、運転員の過誤による誤判断のみならず、表示装置の構造上の欠陥を含む設計上の不備並びに設置者による機器の保守及び運転員に対する教育訓練の不備等の運転管理の不備等が相俟って、右の誤判断の惹起を助長したことに原因があったということができる。

(2) 高圧注水ポンプの流量制限について

前記((一)(7))のとおり、運転員が高圧注水ポンプを絞ること等により、冷却材喪失を促進させてしまったのは、加圧器水位計が一見、一次冷却材の量が増えたかのように高い水位を表示したため、冷却材喪失はないものと判断したことに起因したものであるが、〈書証番号略〉によれば、TMI二号炉の緊急手続書では、「高圧注水ポンプを停止するか否かは、加圧器水位が維持され、かつ、一次冷却系の圧力が起動設定値以上であること」にかかっていることと明記されていたが、運転員が高圧注水ポンプのを停止した際には、圧力が右起動設定値を下回っていたことが認められ、運転員の操作に明らかな過誤があったといわざるを得ない。

また、前記((一)(2)、(7))のとおり、ECCSの不必要な起動がTMI事故前までに四回もあり、それによる様々なトラブルが生じていたこともあって、運転員は、ECCSの起動信号が発信した時は直ちにこの起動信号を切り、すぐに手動操作に移れるように指示されていたこと、運転員は、常々加圧器を満水にして圧力制御不能になる状態を回避するように教育されていたことなど、安全上の設計の考慮を無視した不適切な指示を受けていたこと、更には、前記(1)エないしキの事情も、右運転員の過誤の要因となっていたと認められる。

以上の事実によれば、高圧ポンプの流量制限が冷却材喪失事故にまで発展したのは、運転員の過誤による誤判断のみならず、設置者による機器の保存及び運転員に対する教育訓練の不十分等の運転管理の不備等が相俟って、右の誤判断の惹起を助長したことに原因があったということができる。

したがって、TMI事故において、主給水ポンプ停止を炉心損傷にまで発展させた要因は、運転員の誤判断、誤操作並びにその惹起を助長した設計、設置者による機器の保守及び運転員に対する教育訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったものというのが相当である。

(三) TMI事故と本件安全審査

右のとおり、TMI事故において、主給水ポンプ停止を炉心損傷にまで発展させた要因は、運転員の誤判断、誤操作並びにその惹起を助長した設計、設置者による機器の保守及び運転員に対する教育訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったものというのが相当であり、設計上の問題というべき加圧器逃し弁の開閉表示装置の検知方式、中央制御盤の具体的配列等は、いずれも詳細設計に属する事項と認めるのが相当であること、TMI二号炉は加圧水型原子炉であり、沸騰水型原子炉である本件原子炉において、TMI事故と同一の経過による事故が生ずることはないことに鑑みると、TMI事故の発生は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

原告らは、TMI事故が多重故障事故であることを指摘し、本件安全審査の基準とされた単一故障指針が誤りである旨主張する(第六節第二款第二の九2(三)(2))が、前記((二))のとおり、TMI事故において、主給水ポンプ停止を炉心損傷にまで発展させた要因は、運転員の誤判断、誤操作並びにその惹起を助長した設計、設置者による機器の保守及び運転員に対する教育訓練の不十分等の運転管理の不備の重畳であったというべきであり、安全保護設備及び安全防護設備の故障が重複し、故障が連鎖的に拡大したという事故ではないから、TMI事故の発生によって、単一故障指針が誤りであると結論付ける原告らの右主張は失当である。

原告らは、TMI事故においては、機器の故障に人為的要因が重畳することによって重大な事故が発生したところ、本件安全審査においては、人的要因を考慮した審査を行っていない旨主張する(第六節第二款第二の九2(三)(3))が、原子炉施設のみならず、工学的施設、機器は、一般に、運転者の一定水準以上の技術、能力、それを確保する運転者の教育、訓練等の運転管理が適切に行われることなくして、事故の発生を回避することができないことは、経験則上明らかであるから、そうした一定水準以上の技術、能力があり、それを確保する運転者の教育、訓練等の運転管理がなされることを前提とした原子炉施設の基本設計が不合理とはいえないこと、本件安全審査においては、前記(一2(三)、(四))のとおり、運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析を通じて、本件原子炉施設の安全保護設備及び安全防護設備の設計の総合的な妥当性の解析評価の検討が行われているが、解析評価の対象となった過渡変化及び事故には当然、人為的過誤に起因するものも含まれると考えられることに照らせば、原告らの右主張は失当である。

10 チェルノブイル事故に関する主張について

(一) チェルノブイル事故の経過

原告らの主張の第六節第二款第二の九3(一)の(1)前段、(二)の(1)ないし(7)の事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈書証番号略〉、証人村主、同高木の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) チェルノブイル原発四号炉の主要な設計上の特徴は、①燃料及び冷却材を収納する縦型の燃料チャンネルを有する炉であり、②ジルコニウム被覆管に収納した二酸化ウラン製の燃料棒を円筒状に束ねた燃料集合体を使用しており、③燃料チャンネル間には、減速材としての黒鉛ブロックが存在し、④タービンに蒸気を直接供給するいわゆる再循環方式の沸騰水型原子炉であるが、この原子炉は、定格出力の約二〇パーセントを下回る状態では、反応度出力係数が正となること、炉心の出力分布を安定させるために複雑な制御システムを必要としていることが問題点とされている。

(2) チェルノブイル原発四号炉においては、発電所外部の電源が喪失してタービンへの蒸気供給が停止した後、タービン発電機の回転惰性エネルギーがどの程度発電所内の電源需要に応じることができるかという実験を実施することになり、昭和六一年四月二五日午前一時、運転員は、定格熱出力三二〇万キロワットで運転中のチェルノブイル原発四号炉の出力を実験計画に従い七〇ないし一〇〇万キロワットまで低下させる操作にかかった。同日午後一時五分、原子炉出力が定格熱出力の二分の一である一六〇万キロワットとなった状態で、二台あるタービンのうちの一台を送電系統から切り離した。同日午後二時、運転員は、実験中の水位低下に備え、緊急注水を防ぐためにECCSの信号回路を解除した。実験計画によれば、出力の低下を更に続ける予定であったが、給電担当者からの要請により、その後、約九時間にわたって原子炉の熱出力が一六〇万キロワットの状態で運転が続けられた。

(3) 同日午後一一時一〇分、運転員は、出力降下の操作を再開したところ、運転員が出力制御系の操作手順を誤ったため、原子炉の熱出力を三万キロワット以下に低下させてしまった。運転員は、熱出力の回復に努め、翌二六日午前一時ころ、原子炉の熱出力を二〇万キロワットにまで回復させたが、キセノンの毒作用の進行等の理由により、これ以上の出力上昇は困難であり、原子炉の熱出力は、実験計画の七〇ないし一〇〇万キロワットより下回っていたが、実験の実施は可能であると判断した。

(4) 同日午前一時三分及び七分、それまで作動していた六台の主循環ポンプに加えて、二台の主循環ポンプを起動させた結果、炉心を通過する冷却材流量が増大し、これによって右炉心内の冷却材に占める蒸気泡の体積割合(ボイド率)が減少するとともに、気水分離器の水位と圧力が低下した。運転員は、原子炉が自動停止してしまうことを懸念し、気水分離器内の蒸気圧と水位に関する安全保護信号をバイパスさせ、同日午前一時一九分、運転員は、気水分離器の水位の低下を防ぐため、気水分離器への給水を増加させたところ、低温の冷却材が気水分離器を介して原子炉内に流入したため、炉心におけるボイド率が減少し、負の反応度が加えられた。そこで、運転員は、正の反応度を加え、原子炉の出力を維持するため、自動制御棒及び手動制御棒を相次いで引き抜き、反応度操作余裕を少なくした。このときの反応度操作余裕は、運転規則で定められている最小値三〇本相当を大幅に下回る六ないし八本相当の制御棒にまでなっていた。

(5) 同日午前一時二二分ころ、気水分離器の水位が上昇してきたため、運転員は、給水量を急激に低下させ、その結果、炉心に流入する水の温度が上昇し、ボイド率が上昇した。

(6) 運転員は、同日午前一時二二分三〇秒ころ、反応度操作余裕を計算する高速計算プログラムの出力データ中に、反応度操作余裕が原子炉の緊急停止を要する値になっていることを発見したが、原子炉を停止しなかった。

(7) 運転員は、二台のタービンが停止した場合に出る原子炉緊急停止信号をバイパスさせた上、同日午前一時二三分四秒、タービン発電機の蒸気停止加減弁を閉じて実験を開始し、更に、タービンの蒸気停止加減弁を閉じた。それによって、タービンの回転数が低下し始め、タービン発電機を電源としていた給水ポンプ及び主循環ポンプの機能が低下した。そして気水分離器内の蒸気圧及び循環水の温度が上昇するとともに、冷却材循環流量が低下し、炉心内におけるボイド率が上昇した。この結果、正の反応度が加えられ出力が上昇し始め、反応度出力係数が正のため出力の上昇は加速された。

(8) 同日午前一時二三分四〇秒、運転員は、原子炉緊急停止ボタンを押したが、原子炉内の出力の上昇を抑制することができず、その結果、多量の蒸気発生、燃料過熱、燃料損傷、破損した燃料粒子による急激な冷却材沸騰、燃料チャンネルの破壊、そして、最終的には、同日午前一時二四分ころ爆発が二回発生し、すべての圧力管及び原子炉上部の構造物が破壊されるとともに、燃料及び黒鉛ブロックの一部が飛散した。原子炉建家の屋根も破壊され、炉心の高温物質は吹き上げられて原子炉諸施設、機械室等の屋根に落ち、火災が発生し、それに伴い多量の放射性物質が環境に放出された。

チェルノブイル原発四号炉の制御棒は、制御棒本体の下部に黒鉛棒が付けられており、制御棒が炉心に挿入されると、炉心の底部では、中性子を吸収していた水柱がほとんど中性子を吸収しない黒鉛棒と置き変わるため、運転員が原子炉緊急停止ボタンを押し、制御棒が一斉に挿入された結果、最初にプラスの反応度が加わりポジティヴスクラムが発生し、原子炉の出力上昇に寄与したと推定される。

(9) 以上一連の運転員の行為のうち、①反応度操作余裕を著しく少ない状態にさせ、原子炉の緊急停止機能を低下させたこと、②実験計画で指定された出力より更に低い出力まで低下させて、実験を実施し、原子炉を不安定な状態においたこと、③待機中の循環ポンプを導入して、過剰な冷却材を送り込んだことにより、原子炉を極めて不安定な状態にしたこと、④二基のタービン発電機の停止信号に基づいた原子炉の保護信号をバイパスさせ、原子炉の自動停止の可能性を失わせたこと、⑤気水分離器内の水位レベルと蒸気圧に関する保護信号をバイパスさせ、熱パラメータによる原子炉の停止機能を失わせたこと、⑥ECCSを切り離し、これによって事故の規模を小さくする可能性を失わせたことは、いずれも運転規則違反の行為であり、このうち、①は、緊急停止の機能を大きく損なうものであって、極めて重大な違反である、②は、低出力において著しく不安定になるという、この原子炉の特性ないし問題点を全く理解していなかった行為である。③の結果、僅かな外乱で大きなボイド率の変化を生じる得る状態になっていた、④は、最後の致命傷とでもいうべき違反であって、この違反がなければ事故を防止することもできた可能性が高いと評価されているが、一方で、②については、運転規則では、低出力運転が禁止されていたわけではない旨、④については、運転規則によれば、熱出力三二万キロワット以下の場合、二基のタービン発電機の停止信号に基づいた原子炉自動停止回路を解除しておくように定められていた旨の各報告もなされている。

以上認定の事実に、〈書証番号略〉、証人村主、同高木の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、チェルノブイル事故は、運転員の度重なる運転規則違反あるいは原子炉の安全性に影響を及ぼす行為と、チェルノブイル原発四号炉の制御棒の設計上の問題に起因すると考えられるが、運転員の行為は、単なる錯誤というよりも意識的なもので、運転員は、数々の規則違反あるいは原子炉の安全性に影響を及ぼす行為を繰り返しながら、原子炉がどれほど危険な状態になっているかについての認識がなかったか、あるいは極めて不十分であり、これは、運転員のみならず、試験計画者、発電所の管理体制全般に、安全を優先するという意識が欠けていた証左といわざるを得ない。チェルノブイル事故は、チェルノブイル原発四号炉が低出力では反応度出力係数が正のフィードバック特性を示し、固有の自己制御性を失う性質があるのに、それに対応し得るだけの制御系・緊急停止系が確保されていないとの設計上の問題があったところ、安全思想が希薄な管理体制のもとで、運転員が意識的に多数かつ重大な運転規則違反あるいは原子炉の安全性に影響を及ぼす行為を重ねた上、制御棒の挿入でポジティヴスクラムが発生するという制御棒の設計上の問題が付加された結果生じた、原子炉の反応度事故であるということができる。

(二) チェルノブイル事故と本件安全審査

チェルノブイル原発四号炉は旧ソ連が独自に開発した黒鉛減速軽水冷却沸騰水型であり、制御棒の構造を含め、著しく設計、構造を異にする本件原子炉において、チェルノブイル事故と同一の経過による事故が生ずることはない上に、前記(一2(二)、(三))の事実に、〈書証番号略〉を総合すると、本件安全審査においては、本件原子炉が、異常な反応度が投入され、核分裂反応が異常に急上昇する事象に対し、すべての出力領域で反応度出力係数が負となる自己制御性を有していること、また、本件原子炉施設の原子炉緊急停止装置は、制御棒の位置、炉心の燃焼状態等について最も厳しい条件とし、その上で、更に制御棒一本の挿入失敗を仮定しても、なお原子炉の緊急停止に必要な負の反応度添加率が確保されるように設計されていること、反応度が投入される事象に対する設計の妥当性を評価確認するため、原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予想される、未臨界状態からの制御棒引抜、出力運転中の制御棒引抜等や、制御棒落下事故を想定し、そのいずれの場合でも安全性が確保されることが確認されたことが認められることに鑑みると、チェルノブイル事故の発生は、本件原子炉施設がその基本設計において災害の防止上支障のないものとした本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。

原告らは、反応度出力係数を負である本件原子炉施設においても、原子炉内の圧力上昇によって蒸気泡がつぶれた場合には正の反応度が投入されるし、その他種々の状況が重なれば、チェルノブイル事故のような大事故に至る可能性があるところ、本件安全審査においては、このような大事故を想定した審査を行っておらず、不十分な審査である旨主張する(第六節第二款第二の九3(七))が、前記(10(一))のチェルノブイル事故の発生経過に鑑みると、正の反応度が投入されるだけで、チェルノブイル事故のような大事故が発生するとはいえないし、前記(一2)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設に十分な事故防止対策が講じられていると確認され、そのように確認されたからこそ、チェルノブイル事故のような大事故を想定した事故解析までする必要はないと判断されたことなどを考え合わせると、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

11 運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の誤りに関する主張について

原告らは、運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析の対象となる事象の選定は困難な上、本件安全審査における事象選定は恣意的であり、故障等の重畳、安全系機器の共倒れを想定しなかった本件安全審査の運転時の異常な過渡変化解析及び事故解析は不合理である旨主張する(第六節第二款第二の一〇)が、前記(一)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設について、多重防護の考え方に基づいた各種の事故防止対策が講じられており、かつ、事故防止対策に係る設備のうち、安全保護設備及び安全防護設備の各信頼性については、①強度等において十分な余裕をもった設計となっていること、②原則として多重性及び独立性を有する設計となっていること、③原子炉の運転開始後においても定期的にその性能確認のための試験、検査が実施できる構造となっていること等が要求されていること、解析評価においては、その対象となる起因事象の中から、安全上の観点から厳しいものを仮定した上、右起因事象の発生に伴い作動が要求される安全保護設備及び安全防護設備、それらの設備を構成する機器について、要求される機能ごとに結果が最も厳しくなるような単一故障の発生を想定していることが確認された結果、本件原子炉施設の安全保護設備及び安全防護設備に、同時に故障が発生するとは考えられず、右各設備の設計は総合的にみて妥当なものと判断されたことが認められ、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

第四本件原子炉施設の地盤及び地震に係る安全性

一原子炉施設の地盤及び地震に係る本件安全審査の審査内容

1 はじめに

原子力発電における安全性の確保は、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないか、という点にあることは前記(第一の三1)のとおりであり、原子炉施設周辺に大規模な地震が発生し、圧力バウンダリを構成する機器・配管系に重大な損傷が生じた場合には、予測できない重大な事故を引き起こし、放射性物質が環境に放出される危険性を否定することができないことに鑑みると、原子炉施設の設置に当たっては、原子炉施設の自己荷重のほか、想定される地震その他の荷重を、安全側に厳しく評価しても、原子炉施設の安全性を十分に確保し得る敷地が選定され、かつ、原子炉施設は、想定されるいかなる地震力によっても、放射性物質が環境に異常に放出されるような大事故が発生しないように、可及的に安全側に立った耐震設計がなされなければならないというべきである。

2 事実関係

原告らの主張第六節第二款第三の一2の事実は当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉、証人村主、同垣見俊弘(以下「垣見」という。)の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件安全審査において検討された事項

原子炉施設においては、敷地地盤が脆弱であり、工学的に対処不可能なほどの大規模な地すべり、山崩れ、山津波等が発生したり、敷地及び敷地周辺において活発な構造運動があり、地震が発生したりすると、原子炉施設の支持地盤の安全性、ひいては同施設の安全性を損なうおそれがある。

本件原子炉施設の地盤及び地震に係る安全性に関し、本件安全審査において検討された事項は、以下のとおりであり、その際、原子力委員会が指示した立地審査指針が用いられた。

(1) 本件原子炉施設の地盤の係る安全性

本件原子炉施設の敷地の地盤に係る条件が、同施設における大きな事故の誘因とならないかどうか、具体的には、本件原子炉施設の支持地盤は、同施設を支持するために必要な地耐力を有しているか、荷重による不等沈下を起こすおそれがないかどうか、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺における広範囲にわたる地質の分布及び構造からみて、同施設の支持地盤が、十分な安全性を有しているかどうか。本件原子炉施設の敷地の地盤は、本件原子炉施設に損傷を与えるような大規模な地すべり、山崩れ、山津波等を発生させるおそれがないかどうか。

(2) 本件原子炉施設の地震に係る安全性

地震及びこれに伴う事象が、本件原子炉施設における大きな事故の誘因とならないかどうか、具体的には、過去の地震歴や、断層の活動性等から、将来発生することがあり得るものと考えられるべき地震のうち本件原子炉施設に大きな影響を与えるであろうと考えられる地震、すなわち本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震が適切に選定されているかどうか、選定される地震が本件原子炉施設の敷地に及ぼすと考えられる影響を考慮した上で、本件原子炉施設の敷地基盤における設計用地震動が余裕をもって設定されているかどうか。設定される設計用地震動に対して、工学的、技術的見地からみて、適切な耐震設計が本件原子炉施設につき講じられているかどうか。

(二) 本件原子炉施設の地盤に係る安全性

本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設の支持地盤が、同施設を支持するために十分な地耐力を有し、かつ同施設の荷重による不等沈下を起こさないこと、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤には、褶曲構造が認められるが、褶曲運動等の程度から見て、本件原子炉施設の支持地盤の安全性を損なうものではないこと、本件原子炉施設の敷地全体の地盤には、同施設に損傷を与えるような大規模な地すべり、山崩れ、山津波を発生させるおそれのある地形又は地質状況は認められないこと等が確認された結果、本件原子炉施設の地盤に係る条件は、同施設における大きな事故の誘因にならないと判断された。

(1) 支持地盤の係る安全性

本件原子炉施設は、地盤を数十メートル掘り下げて、強固かつ安定した岩盤を露出させ、これを支持地盤としてその上に直接建てられているが、右支持地盤は、別紙六のとおり、新第三紀に形成された西山層(泥岩から成る地層である。)であり、同地層は本件原子炉施設の敷地全域にわたって分布している。本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設の支持地盤に係る安全性が確保されるものと判断された。

ア 本件原子炉施設の支持地盤である西山層の支持力は、一平方センチメートル当たり六二ないし八五キログラムであるところ、本件原子炉施設の自重は、平常時で一平方センチメートル当たり七キログラム、地震時で一平方センチメートル当たり一四キログラムであった(試掘坑内で実施され平板載荷試験の結果)。そして、支持地盤が本件原子炉施設を支持し得るとしても、右施設の重量による支持地盤の変形は避けられないが、本件安全審査においては、試掘坑で実施した変形試験の結果から、荷重に対する変形はごく小さく、工学的には無視でき、また、長期的にある荷重がかかり続けると沈下するクリープ現象も本件原子炉施設の設計上は支障とならず、本件原子炉施設の支持地盤は変形に対する抵抗力を十分に有すると判断された。また、本件原子炉施設の支持地盤のせん断抵抗力は、幅一メートル当たり一万四〇〇トンであり、建築基準法施行令八八条、建設省告示第一〇七四号(地盤の種別及び構築物の種別による低減率)所定の最大水平震度の三倍の力が本件原子炉施設に加えられたときに生ずる水平方向の力は、幅一メートル当たり三三〇〇トンであった(岩盤せん断試験等の結果)ことから、本件安全審査においては、本件原子炉施設の支持地盤は、十分な余裕を持ったせん断抵抗力を有するので、地震による地盤破壊のおそれはないと判断された。

イ 本件安全審査においては、本件原子炉施設の支持地盤について行われた岩石、岩盤試験の結果から、同支持地盤の強度的不均一性は極めて小さいため、本件原子炉施設の重量による不等沈下が生ずるおそれはないと判断された。

ウ 本件安全審査においては、石油関係資料、海上保安庁水路部資料、験潮記録及び水準測量記録等の文献調査、本件原子炉施設の敷地を中心とする半径約三〇キロメートルの範囲における詳細な空中写真判読及び地表踏査、海上保安庁水路部で実施した海上音波審査資料の解析等の調査は、敷地内で実施したボーリング調査の結果等から、①本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤は、下から上へ(すなわち年代的に古いものから新しいものへ)向かって順に、新第三紀に堆積した寺尾層、椎谷層、西山層及び灰爪層、新第三紀及び第四紀に堆積した魚沼層群、第四紀に堆積した青梅川層、安田層、番神砂層、雪成砂層、沖積層(新期砂層を含む。)の各地層で構成され、寺尾層、椎谷層、西山層及び灰爪層並びに魚沼層群の一部に褶曲構造がある、②地層における褶曲構造の存在は、過去において当該地層を褶曲させた構造運動があったことを示し、その褶曲運動の活動時間は、褶曲構造を示す地層の上位にある褶曲していない地層の形成時期から判断できるところ、本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層は褶曲構造を呈しているが、その上位に分布する第四紀後期の地層である安田層は、敷地全域にわたってほぼ水平に連続しており、少なくとも、安田層の堆積以降においては、褶曲運動が継続しているとは考えられない、③本件原子炉施設の敷地は、羽越活褶曲帯に属するとされており、同褶曲帯では広域的には地殻変動が認められるが、仮に本件原子炉施設の敷地の周辺の地盤において、近年においても褶曲運動が継続しているとしても、それによる褶曲の変位の速度は小さいので、同褶曲運動の本件原子炉施設の敷地への影響は、工学的には無視できる、④したがって、本件原子炉施設の支持地盤に係る安全性を損なうような大規模な構造運動は起こり得ず、地下深部から地表に至る地殻自体の変動、例えば褶曲運動等の構造運動が本件原子炉施設の支持地盤の安全性を損なうおそれはないと判断された。

(2) 敷地及び敷地周辺の地盤の安定性

地すべりや山津波等は、地盤の斜面部などで重力(地盤の自重)の不均衡によって発生する現象であるので、斜面の存在しないところにおいてはもとより、傾斜地であっても重力の不均衡の要因を取り去れば、発生することはない。したがって、大規模な地すべりや山津波等が発生するおそれがあるか、そして、地すべりや山津波等に対し、傾斜や重力不均衡の要因の除去という工学的な対処が可能であるか否かは、①地表に広範囲の急傾斜面があるかどうか、②地盤中に断層や傾斜した地層その他の広範囲かつ急傾斜した不連続な面(この面に沿って地盤がすべる可能性がある。)が存在するかどうか、③地盤を構成する物質(砂、粘土、泥等)のすべりに対する抵抗力が小さいかどうかに関わることになる。本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤において、同施設に被害を与えるような、工学的に対処不可能な大規模な地すべりや山津波等が発生するおそれはないと判断された。

ア 本件原子炉施設の敷地は、柏崎市及び刈羽郡刈羽村にまたがり、西山丘陵の南端部に位置し、同敷地の形は、海岸線に平行に約3.2キロメートル、直角に内陸に向かって約1.4キロメートルの半楕円形をなし、同敷地前面の海岸線から同敷地背面の境界部にある標高六〇メートル前後の稜線に向かってなだらかに高くなる丘陵地となっていることから、本件安全審査においては、本件原子炉施設に近接した位置の地表に、地すべりや山津波の原因となるような広範囲の急傾斜の斜面はないと判断された。

イ 本件安全審査においては、本件原子炉施設の敷地内において実施された地表踏査、ボーリング調査、試掘坑調査等の結果から、本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層が、節理の発達が少なく、かつ大規模な断層や破砕帯も存在しない、強固かつ安定した岩盤であると判断された。

ウ 本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層(泥岩層)の上には、これを覆う形で、約一二万年ないし一四万年前に形成された安田層(硬質の粘土等を主体とする。)が、ほぼ水平な層を成して存在し、また、安田層の上には約三万年ないし八万年前に形成された半固結状の番神砂層(砂質土を主体とする。)、更に、最上位の地層として新期砂層(砂丘砂を主体とする。)が存在するが、本件安全審査においては、これら異なる地層が接する不連続な面に傾斜がないわけではないが、いずれも地表部付近において局所的に存在しているのみで、本件原子炉施設に被害を及ぼすような大規模な地すべりや山津波を引き起こすおそれはないと判断された。

(三) 本件原子炉施設の地震に係る安全性

本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震は、過去の地震歴や、断層の活動性等から、適切に選定されていること、選定された地震が本件原子炉施設の敷地に及ぼすと考えられる影響を考慮した上で、本件原子炉施設の敷地基盤における設計用地震動が余裕をもって設定されていること、設計用地震動に対して、工学的、技術的見地からみて、適切な耐震設計が本件原子炉施設につき講じられていることが確認された結果、地震及びこれに伴う事象(機器や配管の振動等)は、本件原子炉施設における大事故の誘因とならないものと判断された。

(1) 耐震設計上考慮すべき地震

原子炉施設の耐震設計に用いられる設計用地震動は、耐震設計上考慮すべき地震を基準として余裕をもって設定されるべきであるから、設計用地震動の設定やこれに基づく耐震設計が適切に行われるためには、基準になる地震の選定が適切に行われる必要があるところ、本件安全審査においては、以下の諸点が確認され、本件原子炉施設の設計上、耐震設計上考慮すべき地震が適切に選定されていると判断された。

ア 耐震設計上考慮すべき地震の選定に関する基本方針

①地震は、ほぼ同様の規模で繰り返し発生するものであるとされているところから、将来においても、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺において、過去に発生した地震と同じ様な影響を及ぼす地震が同所で発生するおそれがあること、②有史時代より前に発生した地震は、地震歴の調査による方法では把握できないので、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の断層について、その活動性の有無を調査する必要があるところ、我が国においては、第四紀後期においては応力の掛かり方ほぼ一定方向であり、この力によって同一の断層が繰り返し活動し、地震を発生させたものと考えられていることから、工学的見地からは、第四紀後期における活動性が全くないか、又は低い断層についてまで、将来において活動すると考える必要はなく、本件原子炉施設の耐震設計においては、過去の地震歴の調査によって、過去に発生し、本件原子炉施設の敷地の地盤に対して影響を与えたことが判明している地震、若しくは影響を与えたことが推定される地震、又は、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤に存在する第四紀後期以降の断層の調査によって、同断層の活動により同地盤において将来発生することがあり得るものと考えられる地震の中から、本件原子炉施設に最も大きい影響を与えるであろうと考えられるものが考慮された。

イ 過去の地震歴

本件原子炉施設の設置場所である柏崎付近が被害の中心となった地震は有史以降ないが、本件原子炉施設の耐震設計上、①越後南西部の地震(発生時期一五〇二年、マグニチュード6.9、震央距離四二キロメートル、推定最大加速度九五ガル)、②越後高田の地震(発生時期一六一四年、マグニチュード7.7、震央距離五四キロメートル、推定最大加速度一六〇ガル)、③越後三条の地震(発生時期一八二八年、マグニチュード6.9、震央距離三三キロメートル、推定最大加速度一三〇ガル)、④六日町の地震(発生時期一九〇四年、マグニチュード6.9、震央距離三〇キロメートル、推定最大加速度一五〇ガル)、⑤新潟地震(発生時期一九六四年、マグニチュード7.5、震央距離一一五キロメートル、推定最大加速度三〇ガル)の各地震が考慮され、右各地震のうち、同様の地震が将来再び発生した場合に、本件原子炉施設に最も大きな影響を及ぼすと判断されるものは、推定最大加速度が最も大きい越後高田の地震(一六〇ガル)であると判断された。

ウ 敷地及び敷地周辺の地盤に存在する断層

本件原子炉施設の耐震設計においては、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の広い範囲を対象する文献調査(石油関連資料等)、空中写真判読及び地表踏査による地形、地質調査が行われ、その結果、右範囲に存在する断層及び存在が推定される断層のうち、地すべり性の断層、構造性の断層でも本件原子炉施設から遠く、かつ小規模なものが除外され、耐震設計上考慮すべき断層と判断される可能性のあるものとして気比ノ宮断層、中央丘陵西縁部断層、真殿坂断層及び椎谷断層が選定され、更に、右四断層について、第四紀後期における活動性が評価され、それに基づいて、断層活動に基づく地震によって本件原子炉施設に大きな影響を与えると考えられるものが、耐震設計上考慮すべき断層として選定されたが、第四紀後期の活動性の評価に当たっては、第四紀後期の活動が活発かつ大規模な断層は、その断層活動の痕跡として、連続したリニアメント、すなわち線状を呈する地形が地表に明瞭に判読されるかどうかとか、リニアメント線上及びその近傍の露頭に、第四紀後期にしばしば活動したことを示す断層や地下深部における第四紀後期の断層活動を反映していると考えられる撓曲構造等が認められるか否か等の地形上、地質構造上の特徴を伴うことが着目された。第四紀後期に活動した断層により形成されたリニアメントは、形成年代が新しいことから、侵食される期間が短いため、地形上の特徴として明瞭に判読され、かつ、断層露頭や撓曲構造近くでこれらと同一方向に向かって延びるものして判読されるが、古い時代に活動した断層により形成されたリニアメントは、長い期間の侵食作用によって不明瞭になったり、断層露頭等と一致しないなど、右地形、地質構造上の特徴は、第四紀後期における断層の活動性に関し、極めて有利な指標となるとされている。

そして、本件原子炉施設の耐震設計においては、以下のとおり、右四断層について検討され、断層や撓曲構造、さらに構造運動を反映した第四紀後期の地層の変形などがリニアメントと対応している場合には、最近の地質時代に繰り返し活動している断層であると判断され、連続して認められるリニアメントに右地質構造の特質も加えて、これにより断層の長さ(長さにより、当該断層が引き起こし得る地震の規模が推定される。)が判定され、第四紀後期における活動性が評価された結果、本件原子炉施設の耐震設計上考慮すべき断層として気比ノ宮断層が選定された。

① 気比ノ宮断層

気比ノ宮断層は、本件原子炉施設の敷地東方の中央丘陵東縁部信濃川左岸地区の長岡市雲出町付近から中之島町真野代新田付近に至る延長約17.5キロメートルの範囲で、地下深部に存在の可能性が推定される断層であり、本件原子炉施設の耐震設計においては、当該地域の段丘面や丘陵部には、かなり明瞭なリニアメントが認められていること、基盤の地層に過褶曲構造が認められ、この過褶曲を呈する構造の方向がリニアメントに概ね一致していること、この地区に右過褶曲構造を覆って発達する段丘が平野側に著しく傾斜しているという地形上の特徴を有し、褶曲運動の影響を受けたと考えられていること、及び右段丘の堆積物が第四紀後期に形成されたことから、第四紀後期においても褶曲運動は続いており、右断層は第四紀後期の活動性がある程度大きいものと判断された。

② 中央丘陵西縁部断層

中央丘陵西縁部断層は、中央丘陵西縁部の西山町坂田から出雲崎町柿木に至る延長約12.5キロメートルの範囲で、地下深部に存在する可能性があると推定される断層であり、本件原子炉施設の耐震設計においては、右地域の新第三紀ないし第四紀の灰爪層又は魚沼層群で構成された地層部には、気比ノ宮断層で認められたリニアメントに比べて、やや不明瞭なリニアメントが認められたこと、リニアメントに沿って一部に撓曲構造が確認されること等から、地表付近においては大規模な断層は存在しないものの、地下深部においては、断層が存在する可能性は否定できないこと、しかし、リニアメントと、断層の存在を推定させる撓曲構造の位置とが一部において一致しないこと、撓曲構造に沿う多数の露頭で第四紀後期に活動したことを示す断層が存在しないことから、右断層の第四紀後期における活動はなかったか、仮にあったとしても、その活動性はごく小さいものと判断された。

③ 真殿坂断層、椎谷断層

真殿坂断層は、本件原子炉施設の敷地の北東方向にある西山丘陵の刈羽村西元寺から北東方向に延びる延長約一四キロメートルの範囲で、地下深部に存在する可能性があると推定される断層であり、椎谷断層は、西山丘陵の柏崎市椎谷から北東方向にある出雲崎町米田に至る延長約一三キロメートルの範囲で、地下深部に存在する可能性があると推定される断層である。両断層とも、文献(石油関係資料)において、地下深部に推定されている断層である。

本件原子炉施設の耐震設計においては、右両断層が第四紀後期に活動したとすれば、地形上何らかの形跡が残されているものと考えられるが、空中写真判読によっても両断層共に全くリニアメントは認められず、地表踏査等によっても、第四紀後期において断層活動を示唆する地形(断層崖、ケルンコル等)や断層露頭が認められないことから、右両断層の第四紀後期において活動性は無視できると判断された。

以上の検討の結果、本件原子炉施設の耐震設計においては、ⅰ耐震設計上考慮すべき断層は気比ノ宮断層である、ⅱ過褶曲構造やその構造と一致するリニアメントの存在等から断層の長さは、約17.5キロメートルと推定される、ⅲ将来、断層活動により発生することがあり得るものと考えるべき地震の規模は、当該断層の長さから推定することができるところ、気比ノ宮断層の活動によって将来発生することがあり得るものと考えられる地震の規模を、一般に広く用いられている松田式(断層の長さから地震の規模を推定する式)により算出すると、マグニチュード6.9となる、ⅳ同地震による推定最大加速度は、震央距離を二〇キロメートルとして、二二〇ガルと算定され、これが耐震設計上考慮すべき地震であると考えられるなどと判断された。

(2) 設計用地震動

地震が原子炉施設に及ぼす影響は、当該地震が原子炉施設の敷地基盤に対して、どのような地震動を与えるかによって異なり、地震が敷地基盤にどのような地震動を与えるかは、主に当該地震動の最大加速度及び周期特性によって左右されるから、設計用地震動の設定に当たっては、耐震設計上考慮すべき地震による地震動に対して余裕のある最大加速度と適切な周期特性を選んで採用することが必要であるところ、本件安全審査においては、以下の諸点が確認され、本件原子炉施設の耐震設計においては、設計用地震動の設定に当たって、過去の地震歴や断層の活動から将来発生することがあり得るものと考えるべき地震のうち耐震設計上考慮すべき地震に対しても、十分余裕のある最大加速度を採用し、かつ、地震動と原子炉施設を構成する機器等との共振に配慮した適切な周期特性等を採用していると判断された。

ア 最大加速度

本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震によって敷地基盤に与えられる敷地動の推定最大加速度のうち最大のものは、前記(1)のとおり、気比ノ宮断層の活動に寄って将来発生することのあり得る地震による二二〇ガルであるところ、本件原子炉施設の耐震設計においては、設計用地震動の最大加速度を三〇〇ガルとした。

イ 周期特性

本件原子炉施設の耐震設計においては、本件原子炉施設(大部分が厚い壁、太い柱を有する鉄筋コンクリート造りの構築物)が、原則として剛構造である上、直接に岩盤(敷地基盤)上に設置されるため、同施設の固有周期はほぼ0.5秒以下の短周期振動系となることが考慮され、敷地基盤における設計用地震動の波形として、重要施設の耐震設計に広く用いられている過去の代表的な強震記録波形の中から、ほぼ0.5秒以下の周期範囲で、①比較的短周期側が優勢なゴールデンゲートパーク記録(米国、一九五七年、サンフランシスコ地震、マグニチュード5.3)、②比較的中周期が優勢なタフト記録(米国、一九五二年、カーンカウンティ地震、マグニチュード7.7)、及び③比較的長周期側が優勢なエルセントロ記録(米国、一九四〇年、インペリアルバレー地震、マグニチュード7.1)の三波が選定され、本件原子炉施設を構成する構築物や機器等のそれぞれについて大きな共振が生ずるような条件が設定された。

(3) 本件原子炉施設の耐震設計

ア 剛構造及び岩盤設置

本件原子炉施設は、地震時における原子炉格納施設や機器の変形の程度を小さくするため、原則として、同施設の主要な部分を剛構造とした上、同施設全体を岩盤(西山層)上に直接設置する。

イ 重要度分類に応じた耐震設計

本件原子炉施設の耐震設計においては、同施設を構成する構築物等が安全上の重要度に応じてA、B、Cの三種類に分類され、それぞれの重要度に応じた耐震設計が講じられ、特に、原子炉施設のうち主要施設(Aクラス)、すなわち、その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設や本件原子炉施設周辺の公衆に対して放射線障害を与えることを防止するために必要な施設に対しては、水平震度については、建築基準法に定められている水平震度の三倍の震度を、鉛直震度については、同法に定められている水平震度の1.5倍の震度を考慮した静的解析と、本件原子炉施設の支持地盤に与えられる設計用地震動を用いた動的解析がそれぞれ行われ、右静的解析及び動的解析から求められたいずれの地震力に対しても余裕のある耐震設計が講じられたほか、右各解析によって求められた地震力に、平常運転に伴って作用する圧力や熱膨張等による力が加わった場合にも、それによって発生する応力の程度が本件原子炉施設を構成する建設材料の耐え得る許容限度内にとどまり、右主要施設には損傷が生じないよう設計され、更に、安全対策上特に緊要な格納容器、原子炉緊急停止装置及びほう酸水注入装置については、設計用地震動の1.5倍の地震動を用いた動的解析によって求められた地震力に、平常運転に伴って作用する圧力や熱膨張等による力が加わったとしても、主要施設が損傷せず、十分に機能が維持されるように設計された。

3 判断

右2で認定した本件原子炉施設の地盤及び地震に係る安全対策についての本件安全審査の審査内容に鑑みると、右調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえないし、また、本件原子炉が右具体的審査基準に適合した、本件原子炉施設の地盤及び動施設周辺において発生するおそれのある地震が、同施設における大事故の誘因とならず、安全性を確保でき、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

二本件原子炉施設の地盤及び地震に係る安全性に関する原告らの主張について

1 本件原子炉施設の敷地の支持地盤に関する主張について

(一) 活発な地殼変動の存在に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の敷地が羽越活褶曲帯に属し、地形測量の結果や活発な地震活動が存在すること、柏崎平野の沖積層の地形変化が著しいこと、柏崎平野の基盤の乱れが著しいこと、移籍の埋没状況、安田層及び番神砂層下部水成層の標高変化が大きいこと、荒浜砂丘の標高が高いこと、試掘坑や本件原子炉施設の敷地周辺に見られる安田層や番神砂層を切る断層の走行が一致していることなどの諸事情から判断すると、本件原子炉施設の敷地周辺は、現在も褶曲運動が継続しており、危険である旨主張する(第六節第二款第三の二)ところ、〈書証番号略〉によれば、①東山背斜、中央油田背斜等の褶曲の背斜部は、現在も隆起し、向斜部は沈下しており、向斜部の水準点を基準にして、背斜軸部に設置された水準点の相対的な成長速度を求めると、東山背斜が年間0.54ミリメートル、中央油田背斜が年間2.8ミリメートルとなり、これを一〇〇万年間の累積変位量にすると、それぞれ五四〇メートル、二八〇〇メートルとなり極めて大きく、これらの褶曲は現在も活発に活動している旨、②昭和二年一〇月二七日に発生し関原地震(M5.3)、同三七年二月二日に発生した長岡地震、同五四年七月から同五七年一月まで続いた小千谷群発地震、平成二年一二月七日に発生した高柳地震(M5.4、5.3)等はいずれも、羽越活褶曲帯における褶曲運動が原因である旨、③番神砂層上・下部境界面の高度差から、陥没が番神砂層堆積後も継続している旨などの研究報告がなされていること、本件原子炉施設の設計に際して掘削された試掘坑中に見られる断層や節理の走向が北西から南東方向に卓越していることが認められる。

しかしながら、前記(一2(二)(1)ウ)の事実に、〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層は、褶曲構造を呈しているが、敷地で事実したボーリング調査等の結果からその上位に分布する安田層は敷地全域にわたって、ほぼ水平に連続していることが確認されたことから、本件安全審査においては、少なくとも本件原子炉施設の敷地周辺では、安田層の堆積以降、褶曲運動が継続しているとは考えられないと判断されたこと、本件安全審査においては、約八〇年間にわたる柏崎周辺の水準測量結果の解析から、平野部と丘陵部との相対的な変位には、沖積層の圧密沈下も含まれており、丘陵部の隆起速度も年間一ミリメートルを超えず、たとえ近年も褶曲運動が継続しているとしても、それによる地盤傾動速度は極めて小さく、同褶曲運動の本件原子炉施設の敷地への影響は、工学的には無視できると判断されたこと、柏崎平野にある下谷地遺跡は、弥生時代中期のものとされているが、右遺跡は、埋没深さ等遺跡の埋没状況が日本各地で発掘された同時代の遺跡と大きく異なるわけではないこと、砂丘は、風により運搬された砂が堆積して形成されるものであり、砂丘の標高は、砂の供給量、旧地形等の砂丘形成時の堆積環境により決まるものであるから、右砂丘の標高が高いことをもって、構造運動の根拠とすることはできないこと、本件原子炉施設の敷地内外の安田層や番神砂層を切る断層の走向には必ずしも明確な一定の方向性があるとはいえないことが認められ、右の諸点に鑑みれば、褶曲運動等の構造運動が本件原子炉施設の支持地盤の安定性を損なうおそれがないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 本件原子炉施設の支持基盤の劣悪性に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の敷地の支持地盤である西山層は、土質工学上石化が未熟な軟岩であり、その物理的特性も単位体積重量が一立方センチメートル当たりの約1.7グラム、含水比が四六パーセント、一軸圧縮強度が一平方センチメートル当たり一〇ないし四〇キログラム程度、弾性波速度が毎秒1.7キロメートルと他の原子炉施設の敷地の支持地盤等と比較しても、非常に多くの水を含んだ軟弱で不均質な劣悪な地盤であるところ、これは、西山層の堆積年代が新しく、構造運動に伴う潜在的割れ目や顕在化した断層、亀裂が存在していることに起因するものであるから、原子炉施設の支持基盤としては不適当である旨主張する(第六節第二款第三の三)。

しかしながら、〈書証番号略〉及び証人垣見の証言によれば、近時、西山層の一部は第四紀に形成されたという学説が有力になっているものの、本件原子炉施設の敷地となっている西山層は、第三紀(鮮新世)に形成されたものであるという調査結果もあること、ボーリング調査及び試掘坑調査の結果から、本件原子炉施設の敷地周辺の西谷層は、はさみ層の少ない塊状の硬質泥岩であり、単位体積重量は一立方センチメートル当たり平均約1.72グラム(本件原子炉施設の敷地の基盤とほぼ同様の地質からなる福島第一、第二原発の敷地の単位体積重量は一立方センチメートル当たりそれぞれ平均約1.61グラム、約1.64グラム)と地表部近くの新第三紀鮮新層の泥岩としては通常のものであると判断され、更に、含水比は平均約四六パーセント(福島第二原発の敷地の含水比は平均約五〇パーセント)であり、新第三紀鮮新層の泥岩としては一般的であると判断されたこと、一軸圧縮強度は一立方センチメートル当たり平均約二三キログラム(本件原子炉施設の敷地の基盤とほぼ同様の地質からなる福島第一、第二原発の敷地の一軸圧縮強度は一立方センチメートル当たりそれぞれ平均約二六キログラム、約二八キログラム)と測定されたことが認められ、右の諸点に、前記(一2(二)(1))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の敷地の支持地盤が十分な地耐力(支持力、変形に対する抵抗力、せん断抵抗力)を有し、荷重による不等沈下のおそれもないと判断されたことを考え合わせると、本件安全審査の右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

2 本件原子炉施設の敷地周辺に見られる断層に関する主張について

(一) 地すべり性断層の判断の当否に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の番神砂層や安田層に認められる多数の断層を、一部の断層について、大間隔のボーリング調査や地表面から数メートル掘った程度のトレチカット調査を行うだけで、地滑りに起因すると判断することはできない旨主張する(第六節第二款第三の四1)。

〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨によれば、地すべりとは、地形(斜面)などの要因によって重力のバランスが崩れ、地盤の表面だけに発生する変形であるから、地すべりによって生じる断層は、一般に、①斜面に沿って存在し、②断層を引き起こした力(重力)の方向もその斜面の傾斜方向に沿っており、③断層は、地下深部に達しておらず、断層の傾斜は下方に行くに従って地層の抵抗力が増すため緩やかなものとなり、そのため、断層面は、全体として湾曲している等の特徴を示すこと、構造運動に起因して地震を発生させるような断層は、一般に、①斜面とは無関係に存在し、②断層面は、水平方向に直線状に連なっていて、③断層は、構造運動に伴う地殼変動の結果として、地下深部まで達しており、かつ断層面はほぼ一様の傾斜で地下深部に向かって連続していること、したがって、当該断層が地すべり性の断層であるか否かは、露頭調査、トレンチ調査、ボーリング調査等、地質調査において判断できること、本件原子炉施設の設計に当たって、本件原子炉施設の敷地内の番神砂層や安田層等に認められる断層について、まず、断層露頭について詳細な調査が行われた上、更に、これらの断層のうち規模が比較的大きいと思われるものについては、トレンチ調査等によって、断層の性状、水平方向の連続性等が把握され、かつ、数メートルから数十メートル間隔のボーリング調査によって、断層の性状、鉛直方向の連続性等が把握されたこと、その結果、①断層露頭の調査から右断層は、番神砂層や安田層等の各旧斜面に沿ってそれぞれ存在すること、②それらの断層を形成した力の方向も番神砂層や安田層等の各旧斜面の傾斜方向に沿ったものであること、③トレンチ調査等から、それら断層の傾斜は下方に行くに従って緩やかなものとなり、断層面は全体として湾曲していること等、地すべり性の断層に見られる一般的特徴を有するものであることが判明し、その結果、右断層はいずれも、番神砂層や安田層等がかつて地表に表れていた時代において、侵食作用で形成されたかつての谷の斜面に沿って小規模かつ局所的に生じた地すべり性により形成された断層であり、本件原子炉施設に特段の影響を及ぼすものでないと判断されたこと、本件原子炉施設の敷地周辺の番神砂層や安田層の露頭の調査結果から、同露頭に認められる断層は、同施設の敷地内に認められる地すべり性の断層と同様の性状、形態を示すことが判明し、本件原子炉施設の耐震設計においては、これら露頭の断層も、地表部のみに形成された地すべり性の断層と判断されたこと、その上で、本件安全審査においては、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の番神砂層や安田層に認められる多数の断層が地すべりに起因するものと判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査の右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 本件原子力発電所五号炉直下の断層の活動性に関する主張について

原告らは、本件原子炉(一号炉)から北東へ約一キロメートル離れた地点に設置が計画されている本件原子力発電所五号炉の敷地基盤に見られる断層が西山層及び安田層を切っていること、及び右五号炉設置計画地点付近の県道露頭に見られる断層が安田層及び番神砂層を切っていることを併せ考えると、右五号炉の敷地基盤に見られる断層は、番神砂層をも切る極めて新しいものである可能性が高い旨主張する(第六節第二款第三の四2)。

しかしながら、〈書証番号略〉によれば、二号炉及び五号炉の増設許可に係る安全審査においては、五号炉基礎底面付近にV系断層とF系断層が認められるが、これらは、ボーリング調査、追跡調査の結果、破砕幅及び落差が小さく、これらを覆う第四系の安田層上部に変位を与えておらず、約一二万年前以降は活動していないと推定されることから安全上支障となるものではないと判断され、更に、五号炉建設予定地付近の番神砂層中等に断層が認められるが、詳細な露頭観察及びボーリング調査により、安田層下部及び西山層中には断層による落差を示唆するものは認められないことから、これらの断層は地すべり等によって生じたものであり、地下深部に達する構造性の断層ではなく、原子炉施設の安全上支障となるものではないと判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、原告ら主張の断層が存在するからといって、本件原子炉施設の地盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) 東側道路法面の断層の性質に関する主張について

原告らは、本件処分後、本件原子炉の炉心から北東へ約三〇〇メートルの地点において、本件原子力発電所東側道路の掘削工事中、同道路法面に発見された断層は、新砂丘、番神砂層及び安田層を切っており、さらに西山層をも切っている可能性があること、右断層の変位に累積性が認められることから、右断層は、極めて新しく、かつ活発な活動を繰り返している断層である旨主張する(第六節第二款第三の四3)。

しかしながら、〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件原子力発電所東側道路法面に断層が認められたこと、本件原子力発電所の二号炉ないし五号炉の増設許可に係る安全審査において、露頭調査、トレンチ調査、ボーリング調査等が行われた結果、右断層は、番神砂層及び安田層上部には変位を与えているものの、下位の地層である安田層下部及び西山層には全く変位を与えていないこと、番神砂層や安田層の旧斜面に沿って存在し、更に、主断層の傾斜は下方に行くに従って緩やかなものとなり、断層面は全体として湾曲していることから、地すべり性の断層であると判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、原告ら主張の断層が存在するからといって、本件原子炉施設の地盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(四) 滝谷断層に関する主張について

原告らは、刈羽村の滝谷地区における断層は、真殿坂断層の活動が番神砂層耐積後も続いていることを示唆する旨主張する(第六節第二款第三の四5)が、〈書証番号略〉及び証人垣見の証言によれば、滝谷地区では、西山丘陵から東側に張り出した尾根の先端部付近に、西山層と番神砂層が急傾斜の境界面をもって接している箇所が少なくとも三個所認められるが、本件原子炉施設の設計に当たっては、この付近には地形的なリニアメントが認められないこと、番神砂層と西山層との間に破砕帯が認められるが、全体として、大規模な破壊現象が認められず、地すべりの引きずり効果によって生じたと考えられる番神砂層中の断裂が、他の多くの地点で見られる断裂と極めて類似した特徴を示しており、それらと類似した原因のもとで、ほぼ同時的に形成されたものと考えられる、これらの急傾斜境界面及び断裂は、基盤の上限面の斜面部に不安定な状態で堆積した番神砂層が地すべりなどに起因して変形した結果、形成されたものと考えられるなどと判断され、本件安全審査においても、右の諸点を確認し、滝谷断層は、地すべり性の運動に伴って生じた表層の断層であると判断されたことが認められ、原告ら主張の断層が存在するからといって、本件原子炉施設の地盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(五) 寺尾断層に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の東北六〇〇メートルに位置し、本件原子炉施設の敷地と同じ後谷宮川背斜東翼上にある刈羽村寺尾の土砂採取場において発見された寺尾断層は活断層であり、その活動によって本件原子炉施設の敷地は重大な影響を受ける旨主張する(第六節第二款第三の四4)ので、以下検討する。

(1) 〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 飯川健勝ら荒浜砂丘団体研究グループは、平成四年八月、本件原子炉施設の敷地境界から北東約六〇〇メートル離れた刈羽村寺尾地区の西側にある土砂採取場において、椎谷層から番神砂層下部までを通して切る断層を発見した旨の研究報告を行った。右研究報告によれば、①椎谷層は、暗灰色粗粒砂岩層で、泥岩の薄層を挾み、一九〇センチメートル以上であり、安田層は、炭質層を含む青灰色塊状のシルトを主体とし、層相変化が著しく、下位の第三系に由来する泥岩及び砂岩の角礫を大量に含む角礫層、粗粒・中粒層、亜炭層を伴い、下位の椎谷層を不整合で覆い、番神砂層は中粒・粗粒の砂層で、安田層に整合に重なっている、②寺尾断層は、正断層で、地形的には尾根側が落ち、地質構造的には背斜の軸側に向かって落ちており、これによる垂直隔離は、番神砂層下部及び安田層に対して一一〇ないし一二〇センチメートル、椎谷層に対して一三〇ないし一四〇センチメートルあり、両者の垂直隔離の差が約二〇センチメートル認められ、このことは、安田層堆積前に既に椎谷層がこの断層によって変位していたことを示しており、更に、安田層及び番神砂層下部も変位していることから、番神砂層下部形成後においても断層の活動があったことを示し、寺尾断層は、椎谷層から番神砂層下部までの一連の地層を切り、かつ複数回の変位が累積されていることを示している、③寺尾断層は、椎谷層から番神砂層下部までを切っている活断層であり、この断層の変位は、複数回の活動が累積されたものであり、四ないし五万年以降も活動が続いていると推定される、④寺尾断層は、地形的には、尾根側が、地質構造的には、背斜の軸側が落ちる高角正断層であり、地すべりによって形成された可能性は少なく、断層が後谷背斜の軸方向と並走する縦走断層であること、及び断層面の形状から圧縮応力場で形成されたと考えられることから、褶曲構造の成長と断層形成との間には何らかの因果関係があるものと推定されるなどとされている。

イ 東京電力は、同年一一月、寺尾断層を調査したところ、その結果、①寺尾断層は、トレンチ内では、より下方に向かうほぼ鉛直な断層と上部の走向・傾斜を有したまま西傾斜する断層の二条に分岐している、②下方に分岐した鉛直な断層は、東側の椎谷層と西側の安田層とを境し、椎谷層上限に鉛直1.0ないし1.2メートルの高度差を与えているように見えるが、同断層は、椎谷層内では面なし断層となっており、この面なし断層による椎谷層の泥岩の変位は約0.5メートル西落ちであり、断層上部の安田層内での変位量と調和していない。③上部の走向・傾斜を有したまま西傾斜する断層についても、椎谷層上限面に五ないし三〇センチメートルの高度差が見られるものの、椎谷層内では面なし断層となるか、あるいは連続が不明瞭となる、④寺尾断層は、下方で変位量が小さくなるから地すべり性の断層と判断でき、上部で発生した地すべり性の断層が下方の椎谷層上限面の急崖・風化により、面なし断層が開口した亀裂を利用して椎谷層に達したと考えられる旨報告された。

ウ 東京電力は、同五年四月五日、寺尾断層のトレンチ南側壁に見られる断層の性状について、①安田層中には、同層中の腐植質シルト層の約1.2メートルの鉛直変位を与える断層が分布している、②同断層は、より下方に向かうほぼ鉛直な断層と、西傾斜する断層の二条に分岐している、③下方に向かうほぼ鉛直な断層は、椎谷層と安田層の境界部に沿って分布しているが、一部は緩く西側に向かって枝分かれしており、一方、西傾斜する断層は、椎谷層上限面に達しており、同上限面に高さ約三〇センチメートルの落差が認められる、④両断層下方延長部の椎谷層中には、断層は認められないものの、筋状になっている、⑤椎谷層と安田層の境界面に沿う断層の下方では、椎谷層中の泥岩の挾み層に約0.5ないし0.8メートルの鉛直変位が見られ、安田層中に見られる断層の変位量より小さくなっている、⑥椎谷層に見られる断層は、ほぼ鉛直であるのに対し、安田層中の断層は斜めの性状となっている、⑦当該地域には空中写真判読でリニアメントは認められないことから、寺尾断層は、一般にいわれている活断層の特徴を有しておらず、下部の椎谷層の変位量により上位の安田層の変位量の方が大きく、正断層であるなどから、地すべり性の断層である旨の補足説明を行った。

エ 新潟大学理学部講師卯田強らは、平成五年六月一五日、①寺尾断層のうち、トレンチ内の下方に向かうほぼ鉛直な断層は、安田層中の腐食泥炭層を巻き込むとともに、その上部及び下部においても、断層角礫を含む破砕帯を伴った開離型の断層であり、この断層の主たる動きは、安田層堆積後であり、②砕屑物中の相当層を認定する際、地質学的同一時間面をより正確に表す火山灰層ないし火山灰質層を用いるのは調査の基本であるところ、寺尾断層のトレンチ内南側壁面に見られる火山灰質層の落差は約一四〇センチメートルになる、③寺尾断層が地すべりによるものであるとすれば、滑動する底の部分が面として存在しなければならないが、寺尾断層ではこれがない、④一万年前以降の新砂丘が厚く発達する地域においてリニアメントが認められないからといって、数万年前の構造運転を否定することはできないなどと、右イ、ウの東京電力の見解を批判した上、アと同様に、寺尾断層は、現在もなお成長しつつある後谷背斜の隆起に伴う引張応力場で形成され、番神砂層下部堆積後、すなわち、五万年前よりも新しい時期に背斜頂部に向かって活動した正断層というべきである旨報告した。

オ 寺尾断層のトレンチ南側壁面の概略は、別紙七及びその拡大図面である別紙八のとおりである。

(2) 右認定した事実によれば、寺尾断層を巡って、これを地すべり性の断層と評価する見解と、構造性の活断層と評価する見解が対立していることが認められるところ、前記((一))の事実に、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、構造運動に起因して地震を発生させる構造性の断層は、地下深部(地球内部)から来る応力によって生じるものであるため、①斜面とは無関係に存在し、②断層面は水平方向に直線状に連なって、③断層は地下深部まで達し、④断層面はほぼ一様な傾斜角度で、地下深部に向かって連続しているとの特徴を示し、また、⑤断層活動の繰り返しにより地層の変位が累積する結果、より古い地層(より多くの断層活動を経ている。)である下位の地層における変位量が、より新しい地層である上位の地層における変位量より大きく、また、⑥構造性の断層は地下深部で発生し、地表に向かって延びるものであるから、断層が枝分かれする場合には下方から上方に向かう等の特徴があるのに対し、地すべりとは、地形(地表のものに限られない。)などの要因によって重力のバランスが崩れた結果、地盤の表面付近(地表ではない。)にのみ発生する変形であるため、一般に、①斜面に沿って存在し、②断層を引き起こした力(重力)の方向も、その斜面の傾斜方向に沿っており、③地下深部に達しておらず、④斜面下方へ進むに従って徐々に地層の抵抗が増すため、断層の傾斜は下方へ行くに従って緩やかなものとなり、⑤そのため、断層面は全体として湾曲しているとの特徴を示し、また、⑥地下の地すべり性断層に沿って、地上にリニアメントが生ずることはなく、⑦斜面上方に当たる上位の地層における地すべりによる変位量が、斜面下方に当たる下位の地層における地すべりによる変位量より大きいため、地すべりによる地層の鉛直変位量は、上位の地層の方が下位の地層よりも大きい等の特徴があるとされていることが認められる。

そして、右(1)ア及びエの見解が椎谷層における変位量が安田層におけるそれよりも大きいと認めて、寺尾断層を構造性のものと判断しているのに対し、右イ及びウの東京電力の見解が逆に小さいとして、地すべり性のもの判断しているのは、椎谷層における鍵層として、前者は別紙七のX及びX'の層を選び(エの見解は、この層を火山灰質砂層としている。)、変位量を別紙七のとおり約一四〇センチメートルと認定しているのに対し、後者は泥岩層(別紙八の泥岩層①)を選び、変位量を別紙七のとおり約九〇センチメートルと認定していることによるものと考えられる(〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によって認められる。)。

原告らは、断層の変位量を測定するには、断層面の両側にある連続して同一時期に堆積した地層を正しく対比して、そのずれを測定する必要があるから、堆積時期が同一と判断できる火山灰層が鍵層として最適であり、別紙七のX及びX'の層を鍵層と認めるべきである旨主張し、〈書証番号略〉中にはこれに副う記載部分もあるが、〈書証番号略〉によれば、別紙七のX及びX'の層は石灰質砂岩であること、別紙七のX及びX'の層を対比すると、Xの層の上下が粗粒砂岩であるのに対し、X'の層の上下は粗粒〜中粒砂岩であること、X'の層の上位にある泥岩層が、Xの層の上位にないことが認められ、必ずしも層序が一致するとはいえないから、椎谷層の変位量が約一四〇センチメートルあったと認めるにはなお不十分である。そして、前記(二1(二))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の支持地盤に係る安全性を損なうような大規模な構造運動は起こり得ず、地下深部から地表に至る地殻自体の変動、例えば褶曲運動等の構造運動が本件原子炉施設の支持地盤の安全性を損なうおそれはないと判断されたことに鑑みると、寺尾断層の存在を前提としても、本件原子炉施設の地盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとまで結論付けることはできないから、原告らの寺尾断層に関する主張は失当である。

(六) α、β断層及び真殿坂断層の活動性に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の支持地盤に認められたいわゆるα断層及びβ断層は、地震の発生源となる活断層ではないとしても、周辺地域で地震が発生した場合、再びずれを生じるおそれがある旨主張する(第六節第二款第三の四6)ところ、〈書証番号略〉、昭和五五年五月一六日付け検証の結果、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件原子炉施設の基盤面上に北東から南西方向に走行する二本の高角度正断層(α、β断層)があり、α断層の落差は〇ないし約1.1メートル、断層面に伴う粘土の厚さは〇ないし約三センチメートルあり、β断層の落差は〇ないし約0.7メートル、断層面に伴う粘土の厚さは〇ないし約2.5センチメートルあるこが認めらる。

(2) 二号炉及び五号炉の増設許可に係る安全審査においては、α、β断層は、破砕幅及び落差が小さく、これらを覆う第四系の安田層上部に変位を与えておらず、約一二万年前以降は活動していないと推定されることから、両断層の再活動のおそれはなく、安全上支障となるものではないと判断された。

(3) 本件安全審査においては、真殿坂断層は、地質構造的にみて、西山町滝谷付近の褶曲構造の向斜軸部に位置する西山層以深の地層が急傾斜をなしていることにより、地下深部にその存在が推定されているものであるところ、本件原子炉施設の敷地において実施された多数のボーリング調査の結果、同敷地内の西山層の傾斜は、極めて緩やかに連続しており、断層に伴う変位は認められないことから、本件原子炉施設の敷地内には、真殿坂断層や、それに関する断層は存在しないと判断された。

(4) 本件安全審査においては、α、β断層を含む試掘坑内の小断層が将来地震力により変位を生ずるおそれはないと判断された。

以上認定の事実に、前記(一2(二)(1)、(三)(1)ウ③)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の支持地盤に係る安全性が確保され、また、真殿坂断層の第四紀後期における活動性は無視できると判断されたことを考え合わせると、α、β断層によっても、本件原子炉施設の地盤に係る条件が同施設における大きな事故の誘因にならないとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右断層に関する主張は失当である。

3 本件原子炉施設の敷地周辺に存在すると推定される主な断層の評価に関する主張について

(一) リニアメントに関する主張について

原告らは、リニアメントの確認できないC級活断層は、地震が起こって初めて存在が確認できるものであり、これを無視した本件安全審査の判断は不合理である旨主張する(第六節第二款第三の五1)が、前記(一2(三)(1)、ア、ウ)のとおり、本件原子炉施設の耐震設計においては、過去の地震歴の調査によって、過去に発生し、本件原子炉施設の敷地の地盤に対して影響を与えたことが判明している地震、若しくは影響を与えたことが推定される地震、又は、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の地盤に存在する第四紀後期以降の断層の調査によって、同断層の活動により同地盤において将来発生することがあり得るものと考えられる地震の中から、本件原子炉施設に最も大きい影響を与えるであろうと考えられるものが考慮されたこと、本件原子炉施設の耐震設計に考慮すべき断層を選定するに当たっては、空中写真判読によるリニアメントの調査だけでなく、本件原子炉施設の敷地及び敷地周辺の広い範囲を対象する文献調査(石油関連資料等)及び地表踏査による地形、地質調査が行われ、その結果、右範囲に存在する断層及び存在が推定される断層のうち、地すべり性の断層や、構造性の断層でも本件原子炉施設から遠く、かつ小規模なものが除外されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件原子炉施設において耐震設計上考慮すべき地震は、過去の地震歴や、断層の活動性等から、適切に選定されているとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(二) 気比ノ宮断層の延長距離に関する主張について

原告らは、気比ノ宮断層は、中之島町真野代新田から長岡市雲出町を経て、柏崎市善根までの38.5キロメートルとみるべきである旨主張する(第六節第二款第三の五2)が、〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨によれば、①本件原子炉施設の耐震設計においては、気比ノ宮断層について、文献調査、空中写真判読、地表踏査等に基づいて、第四紀後期の断層活動を示唆する地形上の特徴や地質構造上の特徴が検討されたところ、雲出町付近以北与板町付近までの西山層、灰爪層及び魚沼層における背斜構造の東翼部には、地下深部において断層を伴うことが多いとされる過褶曲構造が認められ、かつ、この過褶曲構造の東縁に沿って、地表にかなり明瞭なリニアメントが認められるのに対し、雲出町付近以南の気比ノ宮断層の延長線上には、明瞭なリニアメントや過褶曲構造が全く認められないことから、雲出町付近以北と以南とでは、地形上、地質構造上に明白な差異があり、気比ノ宮断層の南限は、長岡市雲出町付近と推定されたこと、②雲出町付近以北の地質構造は、右のとおり、過褶曲構造を示す背斜構造であるのに対し、雲出町付近以南柏崎市善根までの地質構造は、向斜構造であり、雲出町付近以北と以南とでは、地質構造を異にしていること、雲出町付近以南柏崎市善根までの区間には、地表踏査の結果、魚沼層群に撓曲構造は認められなかったこと、③活断層研究会が編集した「日本の活断層」と題する文献中には、雲出町付近以南柏崎市善根までの区間には、リニアメントが示されているが、同時に、本件安全審査において気比ノ宮断層を推定したリニアメントの一部に相当するリニアメント(鳥越断層群に係るもの)が右リニアメントとは別のものとして示されており、この二つのリニアメントについて活断層の存在の確かさを表す確実度の評価も前者を確かさが最も低いⅢとし、後者を確かさが最も高いⅠとしているのであるから、「日本の活断層」の編者らも、二つのリニアメントを必ずしも一体のものと考えていないこと、〈書証番号略〉中には、長岡平野西に長さ三〇キロメートル以上、活動度Bとする逆断層が存在する旨の記載があるが、この記載は、気比ノ宮断層を含むその周辺の雁行している断層を一括して表したものであることが認められ、右の諸点に鑑みれば、気比ノ宮断層の南限を長岡市雲出町付近までとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(三) 常楽寺断層(中央丘陵西縁部断層)に関する主張について

(1) 原告らは、西山町二田などの露頭において認められる断層は、常楽寺断層の活動が現在も続いている証左である旨主張する(第六節第二款第三の五3(一))が、前記(一2(三)(1)ウ②)の事実に、〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件原子炉施設の耐震設計においては、中央丘陵西縁部断層(原告らの主張する「常楽寺断層」の一部がこれに当たる。)の存在が推定されている西山町坂田から出雲崎町柿木にかけての地表部分付近には、第四紀後期において活動した断層が認められる露頭は認められないこと、右区間に認められるリニアメントも、中央丘陵西縁部断層が地下深部に存在すると推定する根拠となった撓曲構造の位置と一部で一致していないが、これは撓曲構造に係る構造運動によって形成されたリニアメントが、長い期間の侵食作用を受けて東側に後退した結果撓曲構造とずれた結果であると判断されたこと、西山町二田周辺の露頭において複数の断層が認められる(この点は当事者間に争いがない。)が、その位置や断層面の方向は、中央丘陵西縁部断層を推定する根拠となった右リニアメント及び撓曲構造の位置や方向と一致していない上、右各断層は、地すべり性の断層の特徴を示していることが認められ、右の諸点に鑑みれば、中央丘陵西縁部断層の第四紀後期の活動性は無視できるとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(2) 原告らは、中央丘陵西縁部断層の南限である西山町坂田から、更に南方の柏崎市平井までの区間の一部において、灰爪層の撓曲が連続して追跡できること、右区間の一部である柏崎市矢田から同平井までの間においては地形的に山地と平地が直線状の境界をなしていることから、中央丘陵西縁部断層(常楽寺断層)の長さは、出雲崎柿木から柏崎市平井までの二四キロメートルである旨主張する(第六節第二款第三の五3(二))が、〈書証番号略〉及び証人垣見の証言によれば、本件原子炉施設の耐震設計においては、地表踏査をしても連続して追跡できるような撓曲構造は存在せず、柏崎市矢田から同平井までの間に比較的、直線的な山地と平野の区切りの構造が認められるが、地形は、現在より海水準が高い時代の海岸線に起因する地形(海食崖)がリニアメントとして見られるものに過ぎないと判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、中央丘陵西縁部断層の南限は西山町坂田であるとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

(四) 真殿坂断層に関する主張について

原告らは、真殿坂断層が出雲崎町米田から鯖石川河口までの二一キロメートルに及ぶ活断層である旨主張する(第六節第二款第三の五4)が、前記(一2(三)(1)ウ③)の事実に、〈書証番号略〉、証人垣見の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件原子炉施設の耐震設計においては、真殿坂断層の存在が推定される地域の空中写真判読によっては、リニアメントの存在は全く認められず、また、これに加えて実施された地表頭査の結果によっても、第四紀後期における構造運動に起因した断層活動を示唆する断層崖やケルンコル等の地形的特徴及び露頭は認められなかったことから、右断層の第四紀後期における活動は無視できると判断されたこと、真殿坂断層は、背斜軸と背斜軸との間にある向斜軸が急傾斜になっている地域に推定される断層であるところ、刈羽村西元寺より南側には認められないことなどから、右刈羽村西元寺が真殿坂断層の南限と判断されたことが認められ、更に、前記(2(四))のとおり、本件安全審査においては、滝谷断層が地すべり性の運動に伴って生じた表層の断層であると判断されたこと、前記(一2(二)(1)ウ)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設敷地及び敷地周辺の地盤について、原子炉施設の支持地盤の安定性を損なうような大規模な構造運動はないと判断されたことを考え合わせると、真殿坂断層の長さを出雲崎町米田から刈羽村西元寺までの約一四キロメートルとし、真殿坂断層の第四紀後期以降の活動性は無視できるとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえず、原告らの右主張は失当である。

(五) 椎谷断層に関する主張について

原告らは、椎谷断層について、石油関係資料で魚沼層群を切っているとの記載がある以上、空中写真によりリニアメントが認められず、また、断層露頭がないことを理由に、同断層の活動を無視した被告の判断は誤っていると主張する(第六節第二款第三の五5)ところ、石油関係資料には、椎谷断層が魚沼層群を切っているとの記載があることは当事者間に争いがない。

しかしながら、〈書証番号略〉及び証人垣見の証言によれば、本件原子炉施設の耐震設計においては、椎谷断層が存在すると推定される地域の地表踏査の結果、断層露頭が確認されず、椎谷断層線に沿った稲川付近では、逆転した灰爪層の上に、安田層より古い水平な半固結層があるが、断層で切られている形跡がないことが判明し、更に、空中写真の判読結果によっても変位地形が全く認められなかったことから、椎谷断層の活動は少なくとも安田層堆積前にほとんど終了し、それ以降の活動は全くなかったか、あってもごく小さいものと判断されたことが認められるから、椎谷断層の第四紀後期以降の活動性は無視できるとした本件安全審査の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえず、原告らの右主張は失当である。

(六) 本件原子炉施設の安全性の欠如に関する主張について

原告らは、気比ノ宮断層等によって、最大加速度五〇〇ガル以上の地震が襲う可能性が十分あり、その場合には、本件原子炉施設の格納容器、ECCS、計測制御系システム等は機能を喪失する旨主張する(第六節第二款第三の五6)が、前記(一2(三)(2)、(3)3)の事実に、〈書証番号略〉、証人垣見の証言を総合すれば、本件原子炉施設における耐震設計上においては、敷地基盤に与えられる地震動の推定最大加速度のうち最大のものは、気比ノ宮断層の活動によって将来発生することのあり得る地震による二二〇ガルとされたこと、安全対策上特に緊要な格納容器、原子炉緊急停止装置及びほう酸水注入装置については、設計用地震動(最大加速度三〇〇ガル)の1.5倍の地震動を用いた動的解析によって求められた地震力に、平常運転に伴って作用する圧力や熱膨張等による力が加わったとしても、主要施設が損傷せず、十分に機能が維持されるように設計されたこと、その上で、本件安全審査においては、その基本設計において、本件原子炉施設の地盤及び同施設周辺において発生するおそれのある地震が、同施設における大事故の誘因とはならず、安全性を確保でき、原子炉等による災害の防止上支障がないものと判断されたことが認められ、右の諸点に鑑みれば、本件安全審査における右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、原告らの右主張は失当である。

第五本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性

一原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の審査内容

1 はじめに

原子力発電における安全性の確保は、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないか、という点にあることは、前記(第一の三1)のとおりであり、そのために、原子炉施設は、平常運転時における被曝低減に係る安全確保対策と、自然的立地条件との関連を含めた事故防止に係る安全確保対策が、十分な余裕をもって安全側に講じられる必要があるというべきであるが、原子炉施設における潜在的危険性の甚大さに鑑みると、いわゆる多重防護の考え方に基づいて、万一事故が発生した場合を想定し、原子炉施設が、その安全防護設備との関連において十分に公衆から離れているとの立地条件を満たす必要があるというべきである。

2 事実関係

原告らの主張第六節第二款第四の一1の事実、本件安全審査においては、災害評価に当たり、重大事故、仮想事故として、冷却材の喪失が最大となる冷却材再循環配管一本が瞬時に完全破断し、格納容器内に放射性物質が放出される事故としての冷却材喪失事故、冷却材の流出量が最大となる主蒸気管一本が瞬時に完全破断し、直接格納容器外に放射性物質が放出される事故としての主蒸気管破断事故が想定されたことは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉、証人村主、同高木の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 安全審査において検討された事項

本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全対策に関し、本件安全審査において検討された事項は、以下のとおりであり、その際、原子力委員会が指示した立地審査指針が用いられた。

(1) 重大事故の発生と非居住区域の確保

本件原子炉からある距離の範囲内は非居住区域とされているか。すなわち、敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護設備等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大事故の発生を仮定しても、そこに人が居続けるならば、その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲内が、公衆が原則として居住しない非居住区域となっているかどうか、ある距離の範囲を判断するためのめやす線量として、甲状腺(小児)被曝について一五〇レム、全身被曝について二五レムを用いて確認する。

(2) 仮想事故の発生と低人口地帯の確保

本件原子炉からある距離の範囲であって、非居住区域の外側の地帯が、低人口地帯とされているか。すなわち、重大事故を超え、技術的見地からは起こるとは考えられない仮想事故(例えば、重大事故を想定する際には、効果を期待した安全防護設備のうちのいくつかが作動しないと仮想し、それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮定しても、何らの措置を講じなければ、その範囲内にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲内であって、右非居住区域の外側の地帯が低人口地帯(著しい放射線災害を与えないために、適切な措置を講じ得る環境にある地帯をいう。)となっているかどうか、ある距離の範囲を判断するためのめやす線量として、甲状腺(成人)被曝について三〇レム、全身被曝について二五レムを用いて確認する。

(3) 仮想事故の発生と人口密集地帯からの離隔

本件原子炉の敷地が、人口密集地帯からある距離だけ離れているか。すなわち、仮想事故の発生を仮定しても、全身被曝線量の積算値(集団中の一人、一人の全身被曝線量の総和)が国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に小さな値になるような距離だけその敷地が人口密集地帯から離れているかどうか、ある距離の範囲を判断するためのめやす線量として、全身被曝線量の積算値について二〇〇万レムを用いて確認する。

(二) 本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性

本件安全審査においては、以下のとおり、本件原子炉施設は、原子炉の公衆との離隔に係る立地条件の適合を検討する災害評価が合理的になされており、その基本設計において、公衆との離隔に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、公衆との離隔に係る立地条件において原子炉等による災害の防止上支障がないと判断された。

(1) 本件原子炉施設の設置位置等

本件安全審査においては、別紙九のとおり、本件原子炉施設は、新潟県柏崎市及び同県刈羽郡刈羽村にまたがり、日本海に面した敷地内に設置されること、本件原子炉敷地は、ほぼ半楕円形をなしており、その面積は約四二〇万平方メートルであり、本件原子炉から敷地境界までの最短距離は、約七九〇メートルであること、本件原子炉から半径五キロメートル以内の人口は約一万五〇〇〇人、半径一〇キロメートル以内の人口は約七万三〇〇〇人であること等が確認された。

(2) 重大事故及び仮想事故想定の妥当性

本件災害評価においては、重大事故及び仮想事故として、格納容器内に放射性物質が放出される事故としての冷却材喪失事故と、直接格納容器外に放射性物質が放出される事故としての主蒸気管破断事故との二種類の事故が想定されているが、本件安全審査においては、これらの冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故は、放射性物質の環境への放出量が最大となる可能性のある事象で、放射性物質が格納容器内と格納容器外に放出される事象を代表して想定されたものであることから、右各条件の想定は妥当なものであると判断された。

(3) 主要な被曝形態

冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故による公衆の甲状腺(小児)被曝及び全身被曝に係る主要な被曝形態としては、放出された放射性物質のうち、放射性ヨウ素を吸入することに起因する甲状腺の被曝と、放射性希ガスから放出されるガンマ線による全身被曝がある。

(4) 重大事故に係る災害評価条件設定の妥当性

ア 冷却材喪失事故

本件安全審査においては、①希ガス及びヨウ素の炉内蓄積量を原子炉が定格出力の一〇五パーセントで一〇〇〇日間連続運転されているものとして算出すること、②燃料から圧力容器内中に放出される希ガス及びヨウ素は、全燃料中に内蔵されているもののうち、燃料棒内のギャップ及びプレナム中に蓄積されている希ガス及びヨウ素が全量放出されると仮定し、希ガスについては二パーセント、ヨウ素については一パーセントとすること、③燃料から放出された希ガス及び有機ヨウ素(有機ヨウ素の生成割合は、冷却材喪失事故条件下の実験結果によれば、多くても3.2パーセントとされているが、一〇パーセントと仮定された。)は、すべて格納容器に移行するものとし、無機ヨウ素については、圧力容器、配管及び格納容器の壁面等に付着、又は沈着する効果を考慮して、五〇パーセントが格納容器からの漏洩に寄与するものとすること、④格納容器中のヨウ素は、液相及び気相中に存在するものとし、気相中のヨウ素は、格納容器スプレイ冷却水の効果により、液相中に移行する一方、液相中のヨウ素も気相中に移行するものとすること、⑤希ガスやヨウ素の格納容器からの漏洩率は、格納容器スプレイ冷却系設備の作動等により格納容器の圧力が事故後三三日後には大気圧にまで低下するので、格納容器の圧力に依存し漸減するにもかかわらず、この間、格納容器の設計圧力における漏洩率である一日当たり0.5パーセントで一定と仮定することにより、漏洩率を多く見積っていること、⑥格納容器から原子炉建家に漏洩した希ガス及びヨウ素は、非常用再循環ガス処理系で再循環され、その過程において一部が非常用ガス処理系から排気筒を通して大気中に放出されるものとし、非常用再循環ガス処理系と非常用ガス用処理系設備におけるフィルタのヨウ素除去率は、九九パーセント以上のものとなるように設計されるにもかかわらず、これよりも低い九五パーセントと仮定して、ヨウ素の環境への放出量を多く見積っていること、⑦大気中に放出された希ガスやヨウ素の拡散、希釈については、風向、風速等が変動することに伴う拡散、希釈の程度を厳しく見積るために、三三日間で放出されると想定されるところを、二四時間で放出されるものと仮定し、更に、まれにしか生じないと思われる濃度等、すなわち、一年間にわたる現地でのあらゆる気象データに基づいて計算された濃度等のうち九七パーセントを包含する厳しいものを採用していること等が重大事故として想定された冷却材喪失事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認された結果、右の重大事故に係る評価条件の設定は、妥当なものであると判断された。

イ 主蒸気管破断事故

本件安全審査においては、①主蒸気管破断事故が起こる前の原子炉は、冷却材の希ガス及びハロゲン(ヨウ素一三一の場合、一立方センチメートル当たり0.5マイクロキュリー)の濃度が原子炉の運転上許容される最大濃度で運転されているものとすること、②主蒸気管が破断した場合、破断口からの冷却材の流出を阻止するために設けられている主蒸気隔離弁が短時間(五秒)で閉鎖すること、③主蒸気隔離弁閉鎖後、主蒸気系からの蒸気の漏洩が停止するのは、事故後一日とすること、④主蒸気隔離弁閉鎖後に大気中に放出される希ガス及びハロゲンについては、運転中の冷却材中に含まれていた希ガス及びハロゲンのほかに、燃料から圧力容器中に追加放出されるものとし、ピンホールを有する燃料棒から冷却水中に放出されるヨウ素の量は、最大二万キュリーと想定されるにもかかわらず、余裕をみてその値の二倍である約四万キュリーと多く見積っていること、⑤事故時、破断箇所からの冷却水の流出を抑制するために自動的に閉鎖する八個の隔離弁は、原子炉施設運転開始後もその作動性を実証するための試験ができるようになっていること等から、十分な信頼性が確保されるにもかかわらず、隔離弁一個の閉鎖失敗を仮定していること、及び閉鎖した七個の隔離弁全体からの漏洩率は、一日当たり約三〇パーセント(隔離弁一個、一日当たり一〇パーセントの漏洩率に相当)以下に制限することができる設計であるにもかかわらず、十分に余裕をとって一日当たり一二〇パーセント(隔離弁一個、一日当たり四〇パーセントの漏洩率に相当)と仮定し、その後は原子炉圧力内の圧力に依存するとしていること、⑥主蒸気隔離弁(第一弁及び第二弁)の後方には、主蒸気第三弁が設けられており、また、第一弁と第二弁及び第二弁と第三弁との間には、主蒸気隔離弁漏洩抑制系が設けられているが、第二弁と第三弁の間で主蒸期間の破断が起き、最悪の機器の単一故障を仮定した場合には、この系の有効性が十分期待できないことになるので、この系の効果はないものとしたこと、⑦燃料から追加放出される希ガスとハロゲンのうち、希ガスと有機ヨウ素は、すべて気相に移行するものとし、無機ヨウ素については、液相と気相間に分配係数一〇〇で分配されるものとすること、⑧主蒸気隔離弁閉鎖後、残留熱除去系又は逃し安全弁を通して崩壊熱相当の蒸気がサプレッション・プールへ移行するが、この蒸気に含まれる核分裂生物の寄与は無視すること、⑨大気中に放出された希ガスやヨウ素の拡散、希釈については、風向、風速等が変動することに伴う拡散、希釈の程度を厳しく見積るために、一日間で放出されると想定されるところを、全量がわずか一時間で放出されるものと仮定し、更に、まれにしか生じないと思われる濃度等、すなわち、一年間にわたる現地でのあらゆる気象データに基づいて計算された濃度等のうち九七パーセントを包含する厳しいものを採用していること等が重大事故として想定された主蒸気管破断事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認された結果、右の重大事故に係る評価条件の設定は、妥当なものであると判断された。

(5) 仮想事故に係る災害評価条件設定の妥当性

ア 冷却材喪失事故

本件安全審査においては、重大事故に係る災害評価に当たって設定されたのと同様の厳しい評価条件のほか、全燃料に内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス一〇〇パーセント、ヨウ素五〇パーセントが圧力容器内に放出されるものとすること、炉心に蓄積されている核分裂生成物の格納容器内への放出量については、炉心内の全燃料棒が溶融したと仮定した場合に放出される放射性物質の量に相当する量としていること、希ガス、ヨウ素の格納容器から原子炉建家内への漏洩は、格納容器内の圧力の低下に伴い、事故の三三日後には停止するにもかかわらず、これを無視して一定の漏洩率(一日当たり0.5パーセント)で無限時間継続するとしていること等が仮想事故として想定された冷却材喪失事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認された結果、右の仮想事故に係る評価の条件の設定は妥当なものであると判断された。

イ 主蒸気管破断事故

本件安全審査においては、重大事故に係る災害評価に当たって設定されたと同様の厳しい評価条件のほか、燃料棒から冷却水中に追加放出される放射性物質については、事故後の圧力容器内の圧力の低下に伴い徐々に放出されるものであるにもかかわらず、これを無視して一度に全量が放出されるものとしていること、閉鎖した七個の隔離弁全体からの漏洩は、圧力容器内の圧力の低下に伴い漸次、圧力容器内の圧力が大気圧にまで低下する一日後には停止するにもかかわらず、これを無視して一定の漏洩率(一日当たり一二〇パーセント)で、かつ無限時間継続するとしていること等が仮想事故として想定された主蒸気管破断事故による災害評価に当たっての評価条件とされていることが確認された結果、右の仮想事故に係る評価の条件の設定は妥当なものであると判断された。

(6) 本件原子炉施設に係る評価結果

本件安全審査においては、災害評価における重大事故及び仮想事故のそれぞれの場合の本件原子炉敷地外における被曝線量の最大値及び仮想事故の場合における全身被曝線量の積算値について、以下の結果が得られることが確認された。

ア 重大事故の評価結果

①冷却材喪失事故

本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被曝線量の最大値は、甲状腺(小児)被曝については約0.057レム、全身被曝については約0.0019レムと計算されることが確認された。

② 主蒸気管破断事故

本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被曝線量の最大値は、甲状腺(小児)被曝については約三〇レム、全身被爆については約0.025レムと計算さることが確認された。

イ 仮想事故の評価結果

① 冷却材喪失事故

本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被爆線量の最大値は、甲状腺(成人)被爆については約0.74レム、全身被爆については約0.098レムと計算され、また、全身被爆線量の積算値は、昭和五〇年の人口に対しては約一二万人レム、西暦二〇二〇年の推定人口に対しては約一五万人レムと計算されることが確認された。

② 主蒸気管破断事故

本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被爆線量の最大値は、甲状腺(成人)被爆については約一五レム、全身被爆については約0.037レムと計算され、また、全身被爆線量の積算値は、昭和五〇年の人口に対しては約0.64万人レム、西暦二〇二〇年の推定人口に対しては約0.85万人レムと計算されることが確認された。

(7) 立地審査指針適合性

右(6)から明らかなとおり、本件安全審査では、二つの重大事故のいずれの場合においても、本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被爆線量の最大値は、めやす線量である甲状腺(小児)被爆一五〇レム及び全身被爆二五レムに比べてそれぞれ十分小さく、非住居区域であるべき範囲は右敷地内に含まれること、また、二つの仮想事故のいずれの場合においても、本件原子炉敷地境界付近(周辺監視区域境界)における被爆線量の最大値は、めやす線量である甲状腺(成人)被爆三〇〇レム及び全身被爆二五レムに比べてそれぞれ十分小さく、低人口地帯であるべき範囲は右敷地内に含まれ、更に、全身被爆線量の積算値もめやす線量である二〇〇万人レムに比べて十分小さいもであることがいずれも確認され、本件原子炉施設は、立地審査指針に適合するものであり、したがって、本件原子炉施設は、公衆との離隔に係る安全性を十分確保し得るものであると判断された。

3 判断

右2で認定した原子炉施設の公衆との離隔に係る本件安全審査の審査内容に鑑みると、右調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえないし、本件原子炉が右具体的審査基準に適合し、その基本設計において、公衆との離隔に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、公衆との離隔に係る立地条件において原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

二本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性に関する原告らの主張について

1 災害評価における全炉心溶融の不想定に関する主張について

原告らは、原子炉施設における最悪の事態は全炉心溶融であり、これを前提とした災害評価がなされなければならないところ、本件安全審査における災害評価は、冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故を想定しているが、ECCS、圧力容器、格納容器の健全性が絶対的な前提となっており、本件災害評価に当たり、本件原子炉施設の安全防護等の技術的因子の有効性を考慮に入れるのは不合理である旨主張する(第六節第二款第四の二)。

しかしながら、前記(第二ないし第四)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設について、平常運転時における被爆低減に係る安全確保対策、地震及び地盤に係る安全確保対策を含めた原子炉施設の事故防止対策がいずれも講じられているものと判断され、右判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないのであるから、右各安全対策は十分有効なものであることを前提として、すなわち、ECCS、圧力容器、格納容器等の技術的因子の有効性を考慮して、原子炉施設の公衆との離隔に係る安全確保対策の有無を検討するという方法が直ちに不合理とはいえないと考えられ、原告らの右主張は、前提において失当である。

2 めやす線量に関する原告らの主張について

原告らは、立地審査指針が定めているめやす線量は、何ら根拠がなく、このような過大な線量値を定めている同指針に依拠した本件安全審査も不合理である旨主張し(第六節第二款第四の四)、証人高木の証言中には、これに副う供述部分もある。

しかしながら、立地審査指針は、原子炉設置許可に際しての安全審査において、申請に係る原子炉施設につき、その基本設計に関して、平常運転時における被爆低減対策及び事故防止対策に係る安全性がそれぞれ確保されるものであることを確認した上、原子炉施設の安全性の確保について念には念を入れるとの考え方から要求される、原子炉の公衆との離隔に係る立地条件の適否の判断基準となるものであり、右指針が定めるめやす線量は、その基本設計からみて現実には発生する蓋然性のない事故を想定した場合においても、当該原子炉はその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れているかどうかを判断する目安としての線量に止まるものと考えられ、公衆がその線量を現実に被爆する蓋然性があることを前提としたものではなく、しかも、本件原子炉施設の場合、本件原子炉敷地境界付近における重大事故及び仮想事故の評価結果は、前記(一2(二)(6))のとおりであることを考え合わせると、原告らの右主張は、前提において失当である。

第五結論

以上のとおり、本件処分は、安全性の審査を含めて法定の手続に則り行われたものであり、これを取り消すに足りる手続的違法はなく、また、本件安全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえず、本件原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、本件原子炉施設は、その基本設計において、災害の防止上支障がなく、規制法二四条一項四号の要件に適合するとしてなされた本件処分は、実体的にも適法である。

よって、本件処分の取消しを求める原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官太田幸夫 裁判官戸田彰子 裁判官永谷典雄)

〔主要略語表〕

行訴法 行政事件訴訟法(昭和三七年法律第一三九号)

基本法 原子力基本法(昭和三〇年法律第一八六号、昭和五三年法律第八六号による改正前のものをいう。)

設置法 原子力委員会設置法(昭和三〇年法律第一八八号、昭和五三年法律第八六号による改正前のものをいう。)

設置法施行令 原子力委員会設置法施行令(昭和三一年政令第四号、昭和五三年政令第三三六号による改正前のものをいう。)

規制法 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三二年法律第一六六号、昭和五二年法律第八〇号による改正前のものをいう。)

規制法施行令 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和三二年政令第三二四号、昭和五二年政令第三一五号による改正前のものをいう。)

原子炉規則 原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和三二年総理府令第八三号、昭和五二年総理府令第四二号による改正前のものをいう。)

許容線量等を定める件 原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件(昭和三五年科学技術庁告示第二一号、昭和五三年同庁告示第一二号による改正前のものをいう。)

立地審査指針 原子炉立地審査指針及びその運用に関する判断のめやすについて(昭和三九年五月二七日原子力委員会決定)

気象指針 発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について(昭和五二年六月一四日原子炉委員会決定)

安全設計審査指針 発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について(昭和五二年六月一四日原子力委員会決定)

線量目標値指針 発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について(昭和五〇年五月一三日原子力委員会決定)

線量目標値評価指針 発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について(昭和五一年九月二八日原子力委員会決定)

ECCS安全評価指針 軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について(昭和五〇年五月一三日原子力委員会決定)

安全審査会運営規定 原子力安全専門審査会運営規定(昭和三六年九月六日原子力委員会決定、昭和五一年同委員会決定による改正後のものをいう。)

安全審査会 原子炉安全専門審査会

東京電力 東京電力株式会社

本件原子力発電所・本件原発 柏崎・刈羽原子力発電所

本件原子炉 本件原子力発電所一号炉

本件許可申請 東京電力が昭和五〇年三月二〇日付けで内閣総理大臣に対してなした本件原子炉設置許可申請

本件処分 内閣総理大臣が昭和五二年九月一日付けで東京電力に対してなした本件原子炉設置許可処分

本件安全審査 本件処分の過程における本件原子炉の安全性に関する事項についての一連の審査

本件災害評価 立地審査指針に基づき検討された本件原子炉の公衆との離隔に係る立地条件の適否についての評価

伊方原発最高裁判決 伊方原子力発電所原子炉設置許可処分取消訴訟についての最高裁判所平成四年一〇月二九日第一小法廷判決・民集四六巻七号一一七頁

福島第二原発最高裁判決 福島第二原子力発電所原子炉設置許可処分取消訴訟についての最高裁判所平成四年一〇月二九日第一小法廷判決・判例時報一四四一号五〇頁、判例タイムズ八〇四号六五頁

ECCS 非常用炉心冷却設備

ICRP 国際放射線防護委員会

NRC 米国原子力規制委員会

TMI発電所 米国ペンシルヴェニア州スリーマイルアイランド原子力発電所

TMI事故 昭和五四年三月二八日、TMI発電所において発生した事故

当事者目録

原告 長沢了一

外二八一名

被告 通商産業大臣熊谷弘

代理人目録

一 原告ら訴訟代理人(訴訟復代理人を含む。)

全事件について

弁護士 坂上富男

昭和五四年(行ウ)第六号、同五五年(行ウ)第四号事件について

弁護士 片桐敬弌

同 坂東克彦

同 清野春彦

同 川村正敏

同 小海要吉

同 中村周而

同 足立定夫

同 味岡申宰

同 今井敬弥

同 松井道夫

同 橋本保則

同 平田亮

同 中村洋二郎

同 工藤和雄

同 高橋勝

同 藤巻元雄

同 渡辺隆夫

同 今井誠

同 近藤正道

同 大倉強

同 砂田徹也

同 中沢利秋

同 真野覚

同 和田光弘

同 渡辺昇三

同 馬場泰

同 高島民雄

同 川上耕

同 片桐敏栄

同 大塚勝

同 栃倉光

同 遠藤達雄

昭和五四年(行ウ)第六号事件について

弁護士 藤本正

同 伊東正勝

同 木澤進

同 黒田勇

同 脇山弘

同 鍜冶富夫

同 葦名元夫

同 山本直俊

同 青山嵩

同 福井泰郎

二 被告代理人

訴訟代理人弁護士 高津幸一

指定代理人 嘉藤壽郎

外一九名

別紙一〜六、八〈省略〉

別紙七

別紙九

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